2018年は「百合の多様性の時代」 『裏世界ピクニック』宮澤伊織×「最悪にも程がある」いとうに聞く、激動する百合の現在地(2/3 ページ)
――最初にいとうさんは「多様性の時代」と言っていましたが、近年話題になる作品は、必ずしも百合レーベルから出ているわけではないように思います。
いとう: そうですね。数年前は、その年に出ている百合作品や百合要素のある作品全てに触れることも可能だったと思うんです。でも今はもう追い切れないくらい増えましたよね。もちろん二次創作も無視できないから、もはや網羅は難しい……。
宮澤: 映画「リズと青い鳥」(2018)は、百合好きな人にも百合を知らない人にも刺さった作品でしたね。これほどまでに緊張感のある関係性を描いた作品はなかなかなかった。ツイッターで一日中「リズ青」を語っている男が友人にいるのですが、彼に言わせると、あの映画は格ゲーマーのような、1フレーム単位の読みあいだと。僕は「ボーダーライン(2015)のサントラは百合」と言い続けているのですが、つまり「リズと青い鳥」の劇伴として違和感がないくらい緊張感がある音楽というのは、百合なんです。件の友人によると「ダンケルク」(2017)の無限音階サントラも「リズ青」に合うので実質百合ですね。
いとう: 「リズ青」を劇場で数十回見た知り合いがいるのですが、「のぞみぞ(希美とみぞれ)の将来を信じられるかどうかで、今日の自分の体調の良しあしがわかる」と言っていました。私は最初に見に行ったときに「どんなホラー映画よりも怖い」と思ってなるべく語らないようにしていたのですが、つい友達と語り始めたら止まらなくなって、ファミレスで低血糖になりました。
宮澤: 僕は「百合で人間になった」なんて言って、「個人と個人の感情」を息も絶え絶えになりながらやっているわけですが、「リズ青」や「響け! ユーフォニアム」を見ると、最初から吹奏楽を通して「社会」をやっているんですよ……。
いとう: 「女と女」の次は「社会」……。たくさんの作品が土を豊かにして、百合の枠組みが広がっていく中で、さまざまなジャンルで「俺は百合をやるぜ」と種をまいている人が生まれている気配を感じます。「リズと青い鳥」もそうですし、今アニメが放映中の『やがて君になる』もきっとそう。宮澤先生だって、デビュー時はここまでの百合の気配はなくて、ハヤカワという一般レーベルの中で「百合をやるぞ!」と立ち上がったわけじゃないですか。
担当: ハヤカワでは間口を広げるためにも、あまり帯や書店向けの惹句で「百合」と大上段には銘打たないようにはしているんですけどね。「是百合!!」と発信するのはネット上の宮澤さん自身のインタビュー記事や、Twitterでの宣伝などに留めています。これもまた状況次第で変わっていくことだと思いますが。
宮澤: それでいいと思います。ただ、いまのハヤカワには草野原々さんのように百合のムーブメントをぶちあげる人も出てきていて、誰かが呼応するべきではないかと思ったのもあって、「俺もいるぞ!」と名乗りを返しているところもあります。
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