深夜、合宿の布団の中 2人きりだったら我慢できてた? 「やがて君になる」11話(1/2 ページ)
女の子たちの、欲を耐えるお風呂回。
人を好きになるって、なんだかとっても難しい。「やがて君になる」(原作/アニメ)は、思春期に体験する「止められない恋」と「恋がわからない」気持ちを繊細に描いた作品。しっかり者なのに好きな人に甘えてしまう先輩と、人を好きになれない後輩の、ちょっぴり厄介なガールズラブストーリー。
今までのあらすじ
高校一年生の小糸侑(ゆう)と、二年生の七海燈子。クールで優等生な燈子は、侑のことをすっかり大好きになり、デレデレに。
超完璧優等生に見えて、実は頑張りすぎている部分がある燈子。侑は彼女の支えになろうと考えて、生徒会を手伝うことに。
生徒会は忙しい。燈子はテキパキ働く中、リフレッシュの相手として侑を選び続け、甘えっぱなし。激しくキスを求めたりと、暴走気味。
もっとも侑はそれが嫌ではなかった。ただ彼女は「私を好きにならない」という燈子の願いに縛られ、自分の気持ちは押し殺し続けている。
生徒会で劇の準備のため、合宿を行うことに。夜、3人の少女の中に葛藤が起こり始める。
さあ、お風呂の時間だ……
合宿の夜。佐伯沙弥香は悩みます。
沙弥香「……大浴場……私入っていいの?」
沙弥香は中学生時代、先輩の女子と付き合っていたことがあります。描写されていた時点では、キスまでは確実にしている。ただ、じゃあ自分は「女性への性的な興味があるのか」といわれると、そこは「いちいちなんとも思わない」らしい。ただ、自分が恋愛感情を抱いている燈子に対しては「なんとも思わない自信はない というか思うわよそんなの絶対」。
女性同士の恋愛関係においての、触れ合いたい、性的接触をしたい、という部分にきっちり踏み込んでいるこの作品。この沙弥香の描写を含め、相手の身体を見たいという欲求と決してそうであってはならないというブレーキが押し合いへし合いしています。
結果3人でお風呂に入った際、燈子は侑のこと意識しまくりでちら見しまくり。やましい気持ちはないとか言いつつ、とても正直です。沙弥香はというと、意識はしているけれども、彼女目が悪いので……。じゃあ侑は?
他人から見ると「合宿とかで慣れているから大胆だし、全然意識していない子」という風に見えています。湯船につかっている時堂々と胸を見せており、燈子の性的視線は気にしていない様子。実際慣れているのもあるようですが、どうもそれだけではなさそう。
今まで侑はずっと燈子に対し「好きでも嫌いでもない」を演じ貫いてきました。自分の気持ちに蓋をして、「なんともない」と封じ込めてきました。今回も同様で、気になる/ならない以前の部分で意識をカットしています。
そして夜寝る時。3人の思いは暗闇の中でさらに悶々としていきます。
3人同じ部屋に寝ており、3人とも似たようなことを考えています。
2人きりだったら我慢できたのだろうか。
燈子は今までも散々侑に抱きついてキスしまくり甘えまくりだったので、さらに勢いで一歩踏み出しかねないのは大いにわかる。というか今までの感じだとまず無理だよね。本人は、もし見えていたら「我慢できなくなっちゃいそう」と正直。
沙弥香はかなり複雑です。燈子に触れたいという思いは募るばかり。しかし手を伸ばしたら、そこで「親友」関係は終わってしまう。2人きりで我慢できなくなってしまったら最後、何もかも失ってしまう。
侑は、自分から触れるという選択肢はそもそもなし。彼女の頭に浮かぶ「触れるか触れないか」に、主語がないのが気になります。どっちがだろう? もし2人きりで、燈子が触れてきたら彼女は拒むのか……は、3人だから考えるまでもなし。2人だったら考えてますね。
全員「三人でよかった」
ちょっと笑えるシーン。同時に、誰一人心と身体が幸せになる恋愛をしていないんだなあと、痛感させられてしまいます。
君は姉には似ていない
市民劇団に所属している市ヶ谷知雪がやってきたことは、燈子の大きな転機になります。彼は燈子の亡くなった姉、澪と一緒に生徒会にいたOBです。
燈子から見た姉は、完璧な人だった。じゃあ学校ではどう見られていたんだろう。
知雪から見た燈子の姉は、完璧からかけ離れた人でした。のんきで、そんなに働かず、おいしいところだけ持っていく。夏休みの課題も1人でできず、周りを振り回してばかり。全然優等生じゃない。なのにみんながつい好きになってしまう。
燈子は、完璧優等生な姉が好かれていたと信じて、亡くなった姉に自分がなれるように、ひたすら頑張っていました。でも好かれていたのは全然別の、自分の知らない姉の方。
ここでの知雪の発言は、どちらかというと褒め言葉です。ぐうたらな姉と違って、頑張り屋で大したもんだね、と。しかし燈子にとっては、目標を喪失させる発言になってしまいます。
タイトルである「やがて君になる」という言葉の意味を考えさせる1つの大きな出来事です。自分とはなんなのか、周りから見られている人格とはなんなのか。人間の多面性に気付かされた時、自分は誰になるのか?
今回、燈子はその混乱を沙弥香に相談しました。そして侑には相談していません。ここは燈子のややこしい心理。
燈子「甘えてしまいたい だけどどこまで許されるんだろう その優しさを使い尽くしてしまうのが怖い」
人に感情をあらわにせず、隠してきた彼女ならではの悩み。このモノローグを見るとわかるように、本心は「甘えたい」。侑は今までずっと、甘えてきた燈子を拒否したことはない。侑は燈子の機微をよく汲み取る子なので、何かあったのは気付いている様子。でも言ってくれないことに、モヤモヤを感じます。
沙弥香と燈子の様子を、遠くから見守る侑。ものすごく複雑な顔をしています。モノローグもないので、何を感じているかは今はわからない。ただの心配にはちょっと見えない(全編を通して、侑の読めない絶妙な表情描写は、この作品のすさまじいところ)。
もっとも、この状態は今は適材適所に見えます。別に沙弥香は「侑の代わり」というわけじゃなく、ちゃんと信頼関係を築いてきた親友だから相談しているわけですし。一方で侑の優しさゲージを使い切ったら嫌われちゃうから取っておこう、みたいな感覚でしょうか。
でも「優しさ」って、減るものじゃないんだけれどもね。侑にだって感情はあるのだから。侑自身も、見ないようにしてきた思いが、少しずつ隠しきれなくなってきました。
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