ベッドの上でキスしながら「好きにならないでね?」って、残酷過ぎるよ先輩 「やがて君になる」12話(1/2 ページ)
言葉にせず隠している感情が、痛い。
人を好きになるって、なんだかとっても難しい。「やがて君になる」(原作/アニメ)は、思春期に体験する「止められない恋」と「恋がわからない」気持ちを繊細に描いた作品。しっかり者なのに好きな人に甘えてしまう先輩と、人を好きになれない後輩の、ちょっぴり厄介なガールズラブストーリー。
今までのあらすじ
高校一年生の小糸侑(ゆう)と、二年生の七海燈子。クールで優等生な燈子は、侑のことをすっかり大好きになり、デレデレに。
超完璧な先輩に見えて、実は弱いところもあるのに頑張りすぎている燈子。侑は彼女の支えになろうと考えて、生徒会を手伝うことに。燈子は生徒会職務を忙しくこなすかたわら、リフレッシュで侑に甘えっぱなし。唐突にキスを求めたりと、少々暴走気味。
もっとも侑はそれが嫌ではない。ただ彼女は「私を好きにならないで」という、燈子からの願いに縛られていた。
死んだ姉のように立派になりたいと願う燈子は、生徒会劇を完成させようと奮闘。ところが練習合宿の日、かつての姉を知る人から、姉と燈子は似ていないといわれ、困惑。自分を見失いかける。
傷をえぐる演劇
燈子は、死んだ姉のように立派になろうと気を張っており、元々の自分のことを嫌っている。知っているのは侑と、燈子に思いを寄せている親友の佐伯沙弥香だけです。
けれども今回の劇の脚本を書いた叶こよみが、「記憶喪失で、いろいろな人が語る全く異なる人物像の自分に、とまどう少女」をヒロインとして書いてきたもんだから、これが燈子にグサグサ刺さる。偶然ではなく、叶による人間観察の結果のシナリオです。鋭い。
人間の多面性を描いた脚本。同じ個人でも、ほかの人それぞれから見る角度によって、人間は違って見えるもの。
燈子の演じる少女「みんなに違う仮面をかぶって 仮面の下の私のことはもう誰にもわからない 私にも 永遠に! ……だったら仮面のどれかが本物だったと信じて どれか一人を選んで生きていくしかないじゃない……」
燈子は「優等生」の仮面をかぶって、演じている真っ最中。ところが姉はほかの人から見ると、案外立派ではなかったらしい。じゃあ自分は誰になりたいんだろう?
台本読み合わせのシーンの燈子は、鬼気迫るものがあります。演じている、ではなく、登場人物そのものになっている。セリフには燈子自身の困惑が上乗せされ、迫力満点。
うん、劇としてはいいですよ。でも燈子は、パンクしちゃうんじゃないの?
燈子がヤバそうだ、と気付いたのは、事情を知っている侑と沙弥香の2人。ほかの人は、すげえ演技だ、程度に感じていた様子。
このままではいけない、迷走する先輩が変わるチャンスだ、と考えているのが侑。一方沙弥香は、今を耐えて乗り越えることで何らかプラスになるだろう、という現状維持を重視。「悪いことではないと思う」として見ています。
どっちが正しいではない。演劇台本の中身と同様、視点と立ち位置の違いです。
嫌いにならないで、好きにならないで
不安でいっぱいの燈子。彼女が最も怖いのは、侑に嫌われることです。甘えすぎちゃうし、もっとやらしいこと(本人談)したいとも思ってしまう。そばには、自分のことを好きでも嫌いでもない侑が、「好き」の気持ちを受け止め、存在してくれている。今の状態が幸せな燈子は、関係が崩れることを極端に恐れます。
もっとも侑は置物じゃないわけで。今回は珍しく、侑から一歩踏み出します。
侑「一緒に帰りましょう」「うちに寄っていきませんか」
燈子は以前、侑の部屋にあがった時に、こっそりベッドに顔をうずめちゃったりした子。なので、我慢できないんじゃないか、嫌われるんじゃないかとブレーキを踏むのはよくわかる。
確かに燈子は、侑との関係では相当甘えん坊でやらかしてきた方です。でも侑は「完全な肯定」も「完全な拒絶」もしていません。俯瞰して見ながら、常に燈子を受け入れつつ、かつ受け入れすぎないように、うまい位置を保ってきました。
侑「ほかの人を好きにならないし 先輩を好きにも嫌いにもならない ちゃんと守ってるんだから 先輩も信じてください わたしのこと」
こういう時こそちゃんと甘えてくださいよ、と言わんばかりのかっこいいセリフ。これを聞いて、あらゆるストレスの中から顔を出したのが、赤ちゃんのような燈子の姿。
これ以上ないくらい甘えん坊だな! 恋愛の駆け引き的な行動ではなさそうなので、素なんでしょう。侑もさすがに想像はしていなかった様子。
ただ、「この後」の行動はなんとなく2人とも予想はしていたはず。
当たり前のようにキスを求める燈子。すっかり慣れてきた侑。ベッドに2人寝そべった時の燈子の姿は注目したいポイント。侑が腕枕をして燈子の肩を抱いている。燈子は子供のように縮こまって顔を寄せている。
燈子は、空っぽになって苦しんでいる「自己」のあり方について、侑には全部洗いざらい話します。
侑は、燈子の気持ちを全て聞きました。ただ侑は、燈子に自分の気持ちを吐露できる状態ではない。だから抱きしめきれない。2人の関係が寝方によく出ています。
燈子「侑は私のこと好きにならないでね?」「私は自分のこと嫌いだから 私の嫌いなものを好きって言ってくる人のこと 好きになれないでしょ? 侑のこと好きでいたいの」
今まで描かれていたように、燈子は自分に好意を寄せてくる人間全てに距離を置いていました。その好意は「燈子が作った優等生の仮面」への好意だと感じていたから、だとしたら、なんて悲しいこじらせかた。彼女は、客観的な見方ができなくなっています。
だから、こんなことにも気付けない。
侑は自分から意識に蓋をし続けてきましたし、基本冷静な子なので、隠蔽は確かに完璧でした。でもキスを許す相手がフラットな関係なわけはないじゃん。先輩のばーか……。
とてもエモーショナルな演出に。今まで絶対に言わなかった、侑の感情を表す二文字。もう自身で理解できる段階まできていて、ついにモノローグに浮き出てきてもなお、必死に蓋をする。泣くでも苦しむでも怒るでもない表情、大声で叫ぶでもつぶやくでもない声。
感情の起伏が少なく、特別な人ができないことがコンプレックスだった侑。彼女は、変わろうとしています。
そして変わるということは、今までを失うということです。
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