「開始3日目で後悔」「性欲はなぜか収まる」 富士山の山小屋でバイトした人の体験談がガチで面白かった(2/3 ページ)

» 2018年12月22日 12時00分 公開
[中山順司ねとらぼ]

「食欲」と「性欲」はどうなるのか?

――山小屋生活はどんな感じ?

 6時起床、21時消灯、休日はゼロで毎日働きます。まあ、標高3250メートルで携帯電波も入らない、レクリエーションもなにもない場所で休みをもらっても仕方ないし、集中して稼ぎたいのでむしろ好都合でしたが。

――働きづめとなると、食事くらいしか楽しみがないのでは?

 その通りで、食事が唯一の楽しみ。じつはバイトのほうが登山客よりも豪華メニューです。ハードワークしてお腹も空くし、食事でしかストレス発散できませんからね。カップ麺に異常な愛着を示す人がいたり、塩辛とかフリカケとか佃煮のコンビネーションを無数に繰り返して「どの組み合わせがもっとも飯に合うか」の開発にいそしむ人が現れたり。かなり異様な空間になっていきます。

――極限状態に追い込まれたようなもんですもんね。

 「南極料理人」という映画がありまして……海上保安庁の所属隊員が単身赴任で南極観測隊員のメンバーとして派遣されるんですが、任務が観測拠点で越冬する隊員8人分の食事を用意することなんです。あの映画はものすごく共感できます。富士山バイトがどういうものかが分かると思います。

――極限といえば、ひとつ屋根の下で全バイトが寝起きを共にするわけですよね。学生同士でのロマンスはあるんですか?

 いえ、恋愛は禁止です。するならバイトが終わって下山してからにしろというルール。まあ、そんなことをしてる暇はないくらい忙しいですけどね。あと、さすがに男女で部屋は分けられます。

――ってことは、本当に食事しか楽しみがないのかー。

 僕の時代は「エロ小説の回し読み」が流行ってました。

――電源問題があるから紙メディアってのは理解はできますが、なぜに文字?

 いちおう、ビジュアルなエロ媒体は持ち込み禁止でして。なのでエロ小説にカバーをかけて持ち込む輩がいるわけですね。

――ほほう。

 詳細はご想像にお任せしますが……それをトイレで読むわけです。で、たまに便器に落とす奴がいて、当然水洗ではなく汲み取り式ですので救出不可能。そうするとほかの男子にむっちゃ怒られます。

――なんで?

 男子バイト間の共有財産だから。そういう媒体は、個人の所有物であっても自然と共有財産になるんです。

――なるほど(笑)。男子ならではの連帯感だ。

 ただ、フォローするわけではないですが、富士山の大自然に囲まれた環境で生活していると、俗世界のことを考えなくなり、性欲が不思議と収まるものです。その代わり、食欲と睡眠欲は巨大化します。



バイト代は安すぎる? でも時々のご褒美も

――そういえば、お風呂は? 水が貴重な場所なので湯船につかるなんてことはないでしょうが。

 週1回、洗面器1杯分のお湯をもらってそれで体を拭くだけ。その水も、雨水を濾過(ろか)したものです。水はむちゃくちゃ貴重な物資なので大切に使います。

――雨水なんだ。てっきりブルドーザーが食料と一緒にミネラルウォーターを運んでいるのかと。

 ブルドーザーは燃料(プロパンガス)と食料まで、ですね。水を上げるとコストにあわないのでやりません。

――じゃあ、飲食用の水は? 300人分の料理用とか、バイト生たちの生活水は?

 全部雨水です。しっかりした濾過システムがあるので、飲んでもまったく問題ないです。ちなみに僕は五合目と八合目を毎日往復する役割だったので、お湯をもらうタイミングを逃し、2週間に1回しか”入浴”できませんでした。

――じゃあ、1カ月ちょいのバイトでたったの2回?

 ですね。まあ、高地だとあまり体が臭くならないので、ふつうに過ごせました。どうでもいいことですが、高地ではオナラが臭くなるのは”あるある”です。

――富士山ではオナラが臭くなる……と。ん? ちょっと待ってください。五合目に毎日行くなら、そこでシャワーを浴びることはできたんじゃ? 潤沢ではないにせよ、八合目より水は手に入りやすいはず。



 それはそうなんですが、僕は入りませんでした。上にいる仲間は入れてないわけで、そこで自分だけがいい思いをするのはなんか違うかなって。

――いい話だ……さっきのエロ小説の話がかすんでしまいそう。ところで、そんなに大変な仕事なら、さぞかしバイト代はいいんでしょうね。

 いや、そうでもなくって、僕の時代は日当9000円。6時から21時まで働いて9000円。

――えっ? きゅうせん……?

 今はもうちょっと良くなっているかと……(太子館のサイトを確認して)1万500円なので1500円アップしてますね!

――さすがに安すぎません?

 学生なので、まあこんなものでしょう。食べ放題の食事と寝床込みですしね。それに、富士山で働いている者だけが味わえる特権もあります。

――例えば?

 “影富士”といって、富士山の影が雲に映し出される現象です。めったに見られないってうわさなんですが、山小屋にいるとしょっちゅう見られます。あと、当然ながらご来光は毎日拝めます。



――そっかー……大自然の美しさを独り占めできるのはいいな。

 バイト期間中、1日だけ休みをもらえるんです。その日は弁当をもらって、一人で登頂しにいくんです。やっぱり、てっぺんに登ると感激しますね。

――他では得られない役得ですね。

 五合目と八合目をつなぐ業務用ルートにはほかの登山人がまったくいないので、視界に人っ子一人いない瞬間があるんです。富士山の景色を独り占めしている感覚というか、完全に一人になれるのって、非常にぜいたくなことなんですよ。なにしろ、通常の富士山の登山ルートは人でごった返していますし、なんなら軽い渋滞を起こしてます。

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