秩父鉄道の「夜行急行」で夜明かし、その懐かしさにむせび泣く:月刊乗り鉄話題(2019年1月版)(1/4 ページ)
夜中の長時間停車、駅ですする立ち食いそば!!
夜行急行は乗り鉄の格安ホテルだった
「夜行急行」。その言葉を聞いただけで、中年以上の鉄オタは胸を締め付けられます。満員のボックスシート。着座姿勢のまま眠れず、悶々と過ごした時間。居心地が良いとは言えません。でも、僕らは期待しました。夜が明ければ、日常とは異なる遠い場所に着く。今まで行ったことのない世界。そこにはどんな景色があるだろう、と。
例えば上野発青森行きの夜行急行「八甲田」や「十和田」。八甲田は東北本線経由。十和田は常磐線経由。夜明けに青森駅に着き、青函連絡船の桟橋に向かいます。待合室のみんなでラジオ体操をして、青函連絡船に乗り換えて函館へ。そこから北海道各地へ人々は旅立っていきます。そう、まさに石川さゆりさんの名曲「津軽海峡冬景色」の歌詞の世界です。
東北だけではありません。北海道には札幌発で釧路行き「まりも」、稚内行き「利尻」、網走行き「大雪」がありました。九州は門司港と西鹿児島(現・鹿児島中央)を結ぶ夜行急行がありました。鹿児島本線経由が「かいもん」、日豊本線経由が「日南」です。これらの列車は乗り鉄少年たちの「定宿」でした。なぜなら、当時の国鉄には「ワイド周遊券」という乗り放題のきっぷがあり、列車をホテル代わりにできたからです。
北海道ワイド周遊券は北海道の国鉄線を乗り放題。九州ワイド周遊券は九州の国鉄線を乗り放題。エリア内は急行自由席も利用可。後に特急自由席も乗れるようになります。また、出発地から乗り放題エリアまでは急行自由席も利用可能でした。寝台特急には乗れなかったけど、そのきっぷを持っていれば、夜行列車に泊って宿代を浮かせました。
新幹線が普及し、LCCが空を飛び交い、夜行バスがそこそこ快適になった現在とは異世界のようですね。僕らは夜行列車が好きでした。いや、好きではない人も、夜行列車によく乗りました。
夜行急行が現代に復活!? 「行ったり来たり作戦」で運行
その夜行列車の旅を再現しようというツアーが2018年12月22日から23日にかけて行われました。日本旅行大阪法人営業支店の企画で、場所は埼玉県の秩父鉄道です。
SL列車「パレオエクスプレス」でおなじみの秩父鉄道は、羽生〜三峰口間71.7キロ。全区間通しの列車に乗っても所要時間は2時間ちょっと。そんな距離ではすぐ終点に着いてしまいます。
そこで編み出された方法は「行ったり来たり作戦」です。熊谷駅を23時頃に出発して三峰口駅に到着。折り返して秩父駅まで戻り、また折り返して三峰口へ。また折り返して、熊谷駅に5時33分に戻ってきます。なんだこれ。書き起こして、あらためてウケる。そこまでして夜行列車を走らせたいですか。もちろん乗りたいですけどね!!
……というわけで、12月22日。年末の空気が漂う上野東京ラインで熊谷に向かいました。
東京では混み合っていた車内も都心を離れると空いてきます。上尾をすぎるとガラガラ。まだ夜行列車に乗っていないのに寂寥(せきりょう)感。夜行列車の情緒はもう始まっていました。寂しい列車から寂しい列車に乗り継ぎます。それも夜行列車の旅です。
ところが、秩父鉄道の改札前でツアーの受付を済ませてホームに降りるとたくさんの参加者で大にぎわい。中には秩父鉄道の電車に乗る地元の人もいらっしゃいますが、電車が出たあともにぎわっています。そうでした。夜行急行全盛期はこんな風に混んでいたものです。これも懐かしい。
「間もなく、急行三峰号が入線します。全車指定席です。指定席をお持ちでない方はご乗車になれません──」と駅の案内放送が盛り上げます。ツアー参加者しかいないから、この放送はなくてもいいはず。地元のお客さんも客車を見れば、これは乗れないと分かるはずですからね。でもワクワクです。
そして列車が到着しました。茶色い電気機関車に茶色い客車。このレトロな組み合わせ。ふだんは石灰石輸送の貨物列車や、SL列車の支援に使われている機関車と、SL列車「パレオエクスプレス」に使われている客車です。この客車は旧国鉄の12系客車。そう、これは、国鉄時代の夜行急行に使われていた車両です。パレオエクスプレスでも乗りましたけれども、プラットホームの蛍光灯に照らされた車体、客室の照明のまぶしさ、まさにあの頃の夜行列車です。
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