「ゆっくりしていってね!!!」の声はどうやって生まれたのか 開発者が語る“起業エンジニアの生存戦略”(3/3 ページ)
ゆっくりボイスが10年以上変わらないワケ
―― AquesTalkが目指しているのは「人間“らしくないけど”聞きやすい声」とは、どういうものなのでしょうか?
最近、キーワードだと思っているのは「慣れ」ですね。
活字からヒントを得ようと研究していた時期があるのですが、明朝体とかって手書きではあり得ない形をしていて、人間らしくないですよね。私たちは普段から見ているから特に読みにくいと思いませんが、初めて見た人はきっと違和感を覚えたと思うんです。
―― 「手書きの文字しか見たことない人が、生まれて初めて活字を見た」という状況ですか。
慣れてしまうと、違和感が消える。それどころか、美しさを感じることさえある。人間はそういう“適応能力”がかなり高いんじゃないか、と思っています。
自分で合成音声のチューニングをしているときもすぐに耳が慣れちゃって、1週間くらい空けてから自分が作った音声を聞くと「なんじゃこりゃ!」となるんですよ。
例えば、ゆっくりボイスは、聞いた瞬間に「人間ではない」と分かる機械らしい音声だと思うんですが、ゆっくり系の動画制作者さんのように長時間聞いていると、特に違和感も覚えず、むしろ聞きやすく感じるという可能性は十分あると思います。
―― あの“味がある声”が、気に入っている人は少なくないでしょうね。ずっと同じ声が使われていますから。
AquesTalk自体は進化しているんですけどね(笑)。ゆっくりボイスといわれているのは「AquesTalk1」。その後、「2」「10」と出していて、音声合成のアルゴリズムから別物です。
―― あれ、動画を見る限り、声が変わっていないような気がしたんですが……。
動画制作に使われるSofTalkなどのソフトは、最新のAquesTalk10に対応してくれているのですが、制作者さんたちは10年以上前からある「1」を使い続けているんです。「サザエさん」の声優のように、声とキャラクターのイメージが定着していて、新しいものを取り入れる理由が特にないのかもしれません。
―― これもまた人間の“適応能力”なのかなあ……。
旧エンジンとの継続性を意識して開発していますし、私としては新しいものを使ってもらえるとうれしいんですが……なかなか難しいところですね。
―― 動画視聴者には気付きにくいですが、バージョンアップが続いているAquesTalk。今後も開発を続ける予定ですか?
聞きやすくて、機械らしい合成音声の追求はライフワークだと思っています。いつできるのかは分かりませんが、それこそ“ゆっくり”やっていけばいいかな、と。
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