「実在感」×「ほどよいエロさ」=『ゆゆ式』? 作者・三上小又に聞く、連載10周年のこれまでとこれから(2/4 ページ)
春になると交友関係もリセットされる「ゆゆ式時空」の秘密
――三上先生にインタビューする機会があったら、『ゆゆ式』の時系列について聞きたいと思っていました。作中と現実の季節を連動させつつ、だけどいわゆる「サザエさん時空」ではなく、3月から4月になるタイミングで交友関係などもリセットされるという珍しい構成になっていますが、ああいう描き方をしようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
あれは、『ひだまりスケッチ』のアニメを参考にしました。キャラクターたちが過ごしている1年間は固定しつつ、最初にタイトルで「何月何日」と出して過去や未来の話をバラバラに紹介していくという。その上で、きららの発売月にあったエピソードを描くようにした結果、工夫したというよりは自然と今の形になっていった感じです。
――なるほど、ひだまりからでしたか……。もしかしたら、似たようなループの仕方をしている『ふおんコネクト!』から着想を得たのかなと思っていたのですが。
あー、そこは偶然だと思います。『ふおんコネクト!』も好きな作品で読ませていただいていましたけど。
担当氏:以前は4コマ誌は雑誌発売時の現実の季節感に合わせたネタで構成するのが流儀のようなところがありまして、「きらら」もある程度その流れを汲んでいたんです。作品の正史みたいなものは崩さず、雑誌の発売月にあわせたネタを構成する方式は、「ループ時空」を避けつつ雑誌発売時の季節感も踏まえるというハイブリッドな手法です。最近は作中の時系列に沿って話を進める作品の方が多くなりまして、この手法を取っているのはきらら本誌では『ゆゆ式』くらいですね。
――ループする回数もだいぶ増えてきましたが、時系列の整合性を取るためにメモなどは取られていますか?
月単位にざっくり考えているくらいで、日にちまで具体的には決めていません。5〜6月に唯と岡野が仲良くなって、そのあと長谷川も絡んできて、夏の間にまた一歩親密になって、12月の初めに長谷川の家にみんなで行ってさらになかよし度が上がるといった感じで。
――そして3学期に入ると、相川さんたちが情報処理部の部室に遊びに来るようになると。
部室といえば、11月あたりにロッカーにシールが2つ貼られるようになるという設定があったりします。自分の中では一応守っているんですけど、それについてのエピソードを描く予定がまったくなくて。たぶん誰かが貼ったんでしょうね。
――『ゆゆ式』には熱心なファンもたくさんいますから、時系列に関しては読者のほうが詳しいかもしれませんね。
おそらく。細かく見ていくと矛盾しているところがあると思うので、指摘されると困ります(笑)。
――あらためて『ゆゆ式』10年の歩みについても聞きたいのですが、創刊初期から連載されていた『三者三葉』が完結したことで、きらら本誌では『ゆゆ式』と『あっちこっち』が最年長の作品(※)になりました。そういった実感はありますか?
※連載開始は『あっちこっち』が先だが、単行本の巻数は『ゆゆ式』の10巻が最多。
実感……あんまりないですね。連載を始めたころは作家さんの飲み会にちょくちょく参加させてもらっていて、そうすると周りはみんな先輩だから自分は新人だと思ったものですけど。そういう集まりにも行かなくなったので、十年選手としての実感は特に。
担当氏:編集部から新しい作家さんにお声がけするときも、きららで知っている作品はありますかと聞くと、『ゆゆ式』は知っていると言ってくれる方は多い気がしますね。
三上先生:そう言っていただけるのはありがたいんですが、代表作品なんて意識は全然ないです。むしろ『ゆゆ式』はずっと、本線から外れているものを描いていると思ってました。別のインタビューでも言った気がしますけど、かわいく描きすぎないようにしたりだとか、ひとつのコマにキャラがバーンと出てくるようなコマを描かないようにしたりだとか、美少女4コマの王道をいっている感じがしないので。
「実在感」×「ほどよいエロさ」=『ゆゆ式』?
――キャラクターについても伺わせてください。Twitterのツイートなどを見ていると、三上先生は縁が一番好きなのかなと感じるのですが。
「好き」というよりは、「かわいい」ですかね。存在が一番かわいいと思うのは縁です。
――ファンブックのインタビューで、ゆずこたちにかけている愛情と岡野たちにかけている愛情には差があると仰っていましたが、その後の単行本のあとがきでは「結構寄ってきた」とも書かれていました。最近はいかがですか?
岡野と長谷川は、僕の中でだいぶエロくなってきました。さっきも言いましたけど、「かわいい女子高生実在していたらエロい説」、あるじゃないですか。それはつまり、岡野と長谷川の実在感が増したということになるので、前よりもかなり愛着度は上がってきていると思います。
――しきりに「エロい」というワードが出てくるので、記事にどうやって書こうか悩みますが……(笑)。三上先生の中で、「実在感」と「エロさ」は密接に関係しているんでしょうね。
そうですね。会話もリアルであってほしいし、動きもリアルであってほしい。昔、とある作家さんと飲んだとき……詳しい内容を話すとカットされると思いますけど(笑)、「実在感」と「エロさ」と「レア度」のバランスという話をしたことがありました。アイドルのグラビアよりも、気になっているクラスメイトの後ろ姿のほうがドキッとするみたいな。そのへんの感覚、『ゆゆ式』にも入っていると思います。リアルにいそうな女子高生が、リアルにやりそうな会話や動きをして、時々エロさを見せる。それらがいい具合にあわさると、読者にも好きになってもらえるんじゃないかなと。
――好きになってもらうというのは、作品ではなくキャラクターを?
はい、キャラクターです。少年マンガの目的が「読者に興奮してもらう」、少女マンガの目的が「読者にキュンとしてもらう」なら、『ゆゆ式』の目的は「キャラクターを好きになってもらう」なので。かわいく描きすぎないというのもそういうことで、最初に「かわいい」が来ると、「好き」になってもらいづらいという感覚がなんとなくあるんですよね。かわいい見た目をしていて、かわいい服を着ていて、かわいいポーズをしていて、あまりにもかわいいが多すぎると、かわいい止まりというか、好きにつながらないというか。
――嘘くさい、ということでしょうか。
そうですね。手の描写にしろ、本当にしないようなポーズはさせないとか、全部「実在感」につながっているのかもしれないです。いま自分で喋っていて、なるほどって思いました。明確な根拠があるわけではなく、なんとなくの感覚で描いているので。
――三上先生がどのように『ゆゆ式』を描いているのかが少し分かった気がします。最後に今後の展望について伺いたいのですが、ほかのインタビューでもこの話題になると先生のテンションが下がっている気がして、聞いてもいいものかどうか。
3年生に進級するのかどうか、という話ですよね。ゆずこたちはみんな頭もいいし、家庭もしっかりしているので、大学には絶対に行くと思います。でも、受験勉強ってやっぱり大変じゃないですか。かといって受験の話を避けるのも不自然だし、そういう状態で描いていて、「気持ちいい」と感じられるのかなと。
――やはり、今のところは2年生の話を描き続けたい?
はい。だけど1回、読者の方に指摘されてなるほどと思ったことがありました。単行本7巻の巻頭で岡野たちが部室に来る話で、6人がだいぶ仲良くなっているから2年生の冬以降なんですけど、誰もコートを着ていないんですよ。3月ならまだコートは着ているはずだから、「このシーンは3年生の話なんじゃないか」と考察している方がいまして。
――確かに……。無意識のうちに3年生のエピソードを描いていたと。
まあ、たぶんコートを描き忘れただけなんですけど(笑)。けれど、いわれてみて自分でも「本当だ!」って思いましたし、あのシーンだけ3年生ということにしてもいいかもしれません。
――そうなると、新キャラを登場させる予定もないんでしょうか。個人的には、ゆずこのお姉さんが絶対美人だと思うので顔が見たいのですが。
新キャラは……考えてないですね。ゆずこが自分の家にいるところを描くイメージはあるんですが、挟める場所がなくて。
――3人はいつも唯の家に集まっていますが、ゆずこや縁の家に行ったりはしないのでしょうか。
僕の学生時代を振り返ってみると、大体ウチに集まることが多くて、こっちから友達の家に行くことがなかったんですよね。その感覚で描いているので、いつも唯の家に集まるのが『ゆゆ式』にとっての「リアル」なんだと思います。
(了)
『ゆゆ式』出張掲載! 2018年12月号掲載回(10巻収録)
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