日本の学生が作ったコマ撮りアニメが国内外でアニメアワードを受賞 「マイリトルゴート」作者に聞く制作の裏側
暖かさとダークな世界観の融合に目を奪われる作品です。
日本人クリエイターによるコマ撮りアニメ「マイリトルゴート」が国内外で絶賛され、各所でアニメアワードを受賞しています。
同作は、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科を経て、東京藝術大学大学院アニメーション専攻を修了した見里朝希(@Mitotoki)さんが制作。「狼と7匹の子ヤギ」を題材に、羊毛フェルトの人形を使って撮影した作品で、フェルトが持つ温かみとダークな世界観を併せ持ちます。アニメーション特有のデフォルメされた表情の変化が秀逸で、視聴者を引きつけています。
物語は狼のお腹から子ヤギが帰ってきたところから始まります。1匹だけ見つからなかった子ヤギの代わりに人間の男の子が連れられて来ました。狼の胃の中で体がただれてしまった子ヤギたちに囲まれた男の子は恐怖しながらも暮らし始めますが、ある日お父さんが迎えに来て……というもの。
同作は日本では「新千歳空港国際アニメーション映画祭」の審査員特別賞、TBSが主催するアジアの映像コンテスト「DigiCon6 JAPAN」の金賞を受賞し、「第24回学生CGコンテスト(Campus Genius Contest)」では史上初のアート部門とエンターテインメント部門の最優秀賞をダブル受賞しました。
国外ではスロベニアのマリボルで開催された「StopTrik IFF 2018」の「International Stop Motion Competition」グランプリ、韓国「Indie-Anifest 2018」でAudience Choice of ASIA ROAD 'Star of Festival'(観客賞)などを獲得。イタリアで開催された「ASFF As Film Festival 2018」ではBest Animation ShortとIdea Academy賞(学生審査員賞)も受賞しています。
作者の見里さんに「マイリトルゴート」の裏側や、過去の作品、今後についてなどを聞きました。
テーマは親の愛情の狂気
――「マイリトルゴート」にはどういったテーマが込められていますか。
見里:テーマは親の愛情の狂気です。この作品を通し、親の行き過ぎた愛情は果たして正義なのか? という疑問を観る人に提示したかったのです。ネグレクトは問題視されるし犯罪ですが、過保護は犯罪ではない。しかし、子どもに自分について学ばせる機会を失わせます。一方的な愛情に対する違和感を余韻として残したいと思い制作しました。
――確かにその考え方に共感する人が多いからこそこれだけの評価されている気がします。できあがったときに「これはいける!」というような感覚はありますか?
見里:企画段階から自分で「これはいけるんじゃないか?」とワクワクしたり、撮影で良い動きが撮れたら自分で何度もプレビューボタンを押していたので、完成したら早くこの気持ちを色んな人達に共感してほしい! という気持ちで作っていました。しかし、作品の内容が大勢の観客に正しく伝わるか、本当に楽しんでもらえるかは実際に見てもらうまでわかりませんでした。
――周りの方からどんな反応をもらいましたか。
見里:最初の上映会で楽しかった、怖かった、演出が良かったというコメントをいただけたときうれしかったし安心もしました。きっと色んな映画祭に入選するはず! という気持ちにもなりました。
――映像を見ていてフェルトの柔らかい印象がありつつ、内容の怖さが印象的でした。現代のアニメはデジタルやCGが主流になっている中で人形アニメで表現したのはなぜでしょうか。
見里:人形の方が手触り感や温かみを伝えることができるからです。ストップモーションの場合、人形制作から始めるのですが、触っているうちに魅力的な角度やポーズ見つけられるので、作っているうちにどんどん愛着が湧いてきます。撮影も時間がかかる作業ですが、初めてできあがった動きを見たとき、人形に命が吹き込まれているように見えて達成感があります。小さい頃、ぬいぐるみや人形で遊んでいたからか、直接手で触って人形を演技させるというやり方が自分に合っていると感じました。
――作品はどの位の期間で制作しましたか。
見里:大学院の修了作品として制作したため、期間は1年でした。撮影のみで4カ月くらいですね。この作品は1秒で24枚分の写真を撮ってアニメーションを作っています。1日4秒撮影できたら良い方です。
――1日当たり96枚撮影することになりますね。リテイクを考えると膨大な作業だと思いますが、特に苦労した点はありますか。
見里:時間のかかる撮影作業でしたが、特に苦労した点は本編後半にあるアクションシーンです。約35秒のやや長いカットなのですが、カメラワークが含まれたカットなので、撮影のたびに人形だけでなく、カメラも動かして撮影するのが大変でした。しかも特別な装置を使っているわけでもなく、ただ箱やスタイロフォーム(押出発泡ポリスチレン。建材の一種)の上にカメラを載せているだけです。でもそのお陰で、手持ち風で自由度のあるカメラワークを表現できたと思います。また、6体の人形が合体して戦うシーンも、人形が倒れないように針金や虫ピンで固定するのに苦労しました。
――すごくアナログですね。以前も羊毛フェルトを使ったコマ撮りアニメ「あたしだけをみて」を制作していますよね。カメラワークや登場人物の顔が変化してヘビのような見た目になるなど、カートゥーンの「おくびょうなカーレッジくん」(※)を思い出しました。インスパイアされている部分はあるのでしょうか?
※「おくびょうなカーレッジくん」:米国で1999年から放送されたテレビアニメ。アメリカのある田舎町のはずれに住んでいる老夫婦と飼い犬のカーレッジの話。街に次々と訪れる宇宙人や怪物、怪奇現象に臆病なカーレッジが主人を守るべく勇気を振り絞って立ち向かう、コメディホラーな作品となっている。CGや実写も取り入れるなど、挑戦的な演出も評価が高い
見里:正に「おくびょうなカーレッジくん」が幼少期から大好きで、「あたしだけをみて」もバリバリ影響を受けています。カーレッジくんはワンシーンを見ただけで、そのエピソードの題名を言えるくらいハマっていました。ちょっとしたホラー要素が好奇心をくすぐるし、手描きアニメかと思いきや突然3Dや実写、ストップモーションにもなるところが面白いです。そして何より、キャラクターの表情やアクションがこれでもかというくらいオーバーなところに引かれています。
カーレッジくんだけでなく、ディズニーやピクサーなど、さまざまな海外アニメを参考にしています。キャラクターの仕草、表情の細かさの他に、お話のテンポも勉強になります。
――フェルトアニメ以外のアニメも制作されていましたよね。
見里:「あたしだけをみて」の前は手書きアニメーションを制作していました。「コララインとボタンの魔女」や「コープスブライド」などのストップモーション映画の影響を受けてストップモーションに興味を持ち始めたのですが、手描きからストップモーションに乗り換えたとき、手描きにはなかった欠点を感じるようになりました。ストップモーションの場合、重力があるし、人形には骨格がある。手描きだからこそ表現できた自由な動き(メタモルフォーゼなど)が制限されているように感じてしまいました。
アニメーションとは虚構が許される世界だと思っています。だから「あたしだけをみて」では、布に直接フェルトを刺す方法を用いて、同じ素材で違和感を与えずに手描きアニメのような自由な動きを表現できないか挑戦しました。
――話作りやコンテは教授と話し合ったりしていますか、それとも同期生に意見をもらうことが多いでしょうか。
見里:話作りや絵コンテは1人で作り続けてしまうと、独りよがりなものになってしまい、見る人に理解してもらえなくなる恐れがあるので、絵コンテを修正しては教授や同期生、家族に見てもらって、お話がスムーズに理解できるか、飽きないかどうかなどを確認してもらい、アドバイスももらっていました。
――大学は武蔵野美術大学、大学院は東京藝術大学で教授の視点やコメントが違ったりしますか?
見里:ムサビ(武蔵野美術大学)は視覚伝達デザイン科で、藝大(東京藝術大学)はアニメーション専攻だったため、教わる内容や環境は違いましたが、作品に対するコメントはそんなに違わなかったと思います。
ムサビでは学科名の通り視覚的にデザインを伝える方法を学びました。なので、主に物語制作やアイデアについて教授からコメントをいただいていました。「映像は見る人の時間を奪うものだから、見て良かった、ためになったと思えるようなプレゼントを与えなければならない」という言葉が今でも胸に刺さっています。藝大でももちろん作品の中身について評価を受けますが、それに加え、監督として制作のディレクションスキルが身に付いているかについてもコメントをいただきました。
――将来はどういう道に進む予定ですか?
見里:アニメーション制作はずっと続けていきたいと思っていますが、具体的に何になりたいかは正直なところ考え中です。しかし、やりたいことはたくさんあります。それは短編アニメだけではなく、シリーズ物や長編映画、ゲーム、VRなどいろいろです。また、海外のアニメスタジオに憧れてもいます。世界に認めてもらえる制作者になりたいです。
――次の作品は考えていますか? 意地悪な質問ですが、プレッシャーを感じてしまうのかな? とも……。
見里:考えているのですが、確かにプレッシャーを感じています……。多くの映画祭で作品が評価されたのは本当にうれしいのですが、今後も似たような作品を作り続けていると飽きられてしまい、映画祭に応募しても審査が厳しくなり通りづらくなるんじゃないかと思っています。次回作を作るときは何か新しいことに挑戦する必要がありそうです。でも見る人を楽しませる、言葉ではなかなか伝えられないメッセージを与える、という2つの要素は常に大切にしたいです。
見里さんは、世界に向けて日本のアニメーション作家を紹介するNHK WORLDの番組「Anime Supernova」にも出演し、世界から注目を集めています。これからの活躍にも期待が持たれます。
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