なぜコインハイブ「だけ」が標的に 警察の強引な捜査、受験前に検挙された少年が語る法の未整備への不満(1/3 ページ)
検挙された少年が当時の状況や「Coinhive事件」の問題点について語ってくれました。
サイト訪問者のPCを使ってWebブラウザ上で仮想通貨をマイニング(採掘)させる「Coinhive(コインハイブ)」を設置したことを巡り、複数の検挙者が出ている問題(通称:Coinhive事件)について、検挙当時未成年だった少年がねとらぼ編集部の取材に応じ、当時の状況や「Coinhive事件」の問題点について語りました。
「Coinhive」とは
Coinhiveとは、Web運営者がCoinhiveのコードをサイトに埋め込むことにより、アクセスした閲覧者に「Monero」という仮想通貨をマイニング(採掘)させて、報酬を受け取るサービス。運営者は採掘で得た利益の7割を受け取ることができるとあり、2017年10月ごろから日本でも話題を呼びました。
Coinhive側は、これまで多くのサイトが広告収入に頼ってサイト運営をしてきたという状況に触れつつ「邪魔な広告の代替手段を提供することがゴール」とサービス内容を説明。広告表示を減らせるという点などがメリットとして注目され、「仮想通貨の新たな可能性を示している」と期待の声も上がっていました。
一方でスウェーデンのTorrentファイル検索サイト「The Pirate Bay」が、ユーザーへの説明なくCoinhiveを設置した際にはそのコミュニティー内で物議をかもした他、ネット上では「無断で訪問者のCPUを使用しているのでは」と批判的な声も上がるなど、賛否両論の状態が続いています。
また日本では2018年6月14日に警察庁が「マイニングツールの設置を閲覧者に明示せずに設置した場合、犯罪になる可能性があります」との注意を呼び掛けた他、同日、共同通信などが「神奈川や愛知といった全国の10県警が不正指令電磁的記録供用容疑などで計16人を摘発したことが14日、警察庁のまとめで分かった」とマイニングツール(Coinhive)を設置した16人が検挙されていたことを報じましたが、「なぜ犯罪になるのか説明がない」「どこからが罪になるのか示していないのは問題では」との指摘が相次ぎ、検挙についても「法の乱用」「恣意的な解釈」と批判的な声が上がっています。
少年はなぜ検挙されたのか
今回ねとらぼ編集部に情報提供を行ってくれたのは、この検挙を受けた少年(@coinhiveuser)。本人のプライバシーに配慮し、一部の情報は伏せるとの条件で当時の状況を語ってくれました。
――Coinhiveを知ったきっかけを教えてください。
少年:ニュースサイト「GIGAZINE」で2017年9月20日に公開された記事「人気サイトがアクセス数の多さを利用し閲覧者のCPUパワーで仮想通貨マイニング、広告に代わる収入源になるか?」を読み、Webサイトの新たなマネタイズ方法として興味を持ったのがきっかけです。記事にはCoinhiveの導入について賛否両論が上がっているとの内容が記されていましたが、このころはまだCoinhiveというサービスができたばかり(2017年9月14日にサービス開始)で、日本のユーザーも少なく、マナーやモラル的にCoinhiveの導入を問題視する声はあっても、違法となる可能性について、法的な意見は全く上がっていませんでした。
――ご自身としてはCoinhiveの導入についてどんな印象をもっていましたか。
少年:一般的にもよく知られるWebに埋め込むタイプのサービスで、自分のWebサイトで利用する分には何ら違法な点はないと思いました。例えば他人のWebサイトに埋め込めば不正に収益を得ることもできるかもしれませんが、それは基本的にどのプログラムでも悪意のある使い方をしようとすればできるので特別なことではないとも感じていました。
――それで自身のサイトにCoinhiveを導入したんですね。
少年:私が導入したのは自身が立ち上げた趣味のWebサイトです。9月下旬にCoinhiveのアカウントを作成し、導入しました。
――マイニングではどのぐらいの収益を得られましたか。
少年:お世辞にもアクセス数が多いとはいえないサイトでしたので、予想通りほとんど収益はありませんでした。引き出しの最低金額も一切満たしていませんでしたので、利益は手にしていません。
――サイト導入から間もなくCoinhiveを削除されたのはなぜですか。
少年:2017年10月ごろから日本でも利用者が増え始め、あまり評判のよくないブロガーがCoinhiveを設置していたことが明らかになると、批判の声が高まりはじめました。また市販のアンチウイルスソフトウェアがCoinhiveをウイルス扱いし始め、Coinhiveをよく知らない閲覧者がウイルスだと勘違いして評判が落ちることなども憂慮し、削除を決めました。設置から削除までの稼働期間は1カ月程度です。
――12月10日には日本経済新聞が「仮想通貨で不正サイト 『採掘』を無断で手伝わせる」という記事を掲載し、弁護士の見解として「サイトの閲覧者に告知せず意図に反してマイニングをさせる行為は、不正指令電磁的記録供用罪などに当たる可能性がある」と紹介したことが大きな話題を呼びました。これについてはどう感じていましたか。
少年:自分の見解とは少し違うと感じました。万が一捜査が始まるとしても、それなりに多くの人が違法だと思わずに利用していたのだから、何かしらの事前警告があったりするだろう、また捜査の対象となるのは「サイトを閉じても裏でマイニングが継続される悪質なもの(※)」「他人のサイトを改ざんし、Coinhiveを埋め込んで利益を得るもの」など悪質なユーザーだと考えていました。さらに言えば、ユーザー側は製作者の想定した使い方をしただけですから、それが不正指令にあたるのならば、基本的に利用者よりも先にCoinhiveの製作者が罪に問われるのではとも考えていました。
(※)サイトを閉じても裏でマイニングが継続される悪質なもの ……ブラウザを閉じてもタスクバーの裏に小さなウィンドウが隠れており、そちらでマイニングが継続されるもの。GIGAZINEなどの一部のニュースサイトや海外サイトでも2017年12月から問題が報じられている。
――この記事で話題になったことと言えば、「サイト閲覧者には多くのリスクが生じる」「個人情報を盗んで犯罪に悪用する恐れも出ている」といった弁護士の見解ですが、これについてはどう思いましたか。
少年:PCのCPUの使用率はマイニング時は100%になるとか、動作が遅くなるとか、バッテリーの過熱状態が続くことで製品の寿命が縮むとかという見解については、全く事実と異なっていると思います。特に「プログラムを改造し、個人情報を盗んで犯罪に悪用する恐れも出ている」という点に関しては、Webサイト上のプログラムで個人情報を盗み出すことが技術的に可能であるかどうかすら疑問ですし、全くの事実無根であるとしか言いようがないと思います。
突然の家宅捜索
――Coinhiveの削除からしばらくたってから警察が訪ねてきたそうですね。
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