アニメ化するも作画崩壊、絶版 → 自費出版で根性の復活 苦難を乗り越え描き続ける漫画の作者に話を聞いた(2/2 ページ)
―― アニメを見ていたときの心境と、絶版になったときの心境はどのようなものでしたか。
藍:当時は複雑な気持ちになる出来事もたくさんありましたが、作品を理解してくれた声優さん方に出会えたことや、主人公すう子役の楠田亜衣奈さんがずっとミリオンドールは面白いと勇気付けてくれたこと、今も仲良くさせていただいている製作の皆さまとの出会いがありました。当時は色んな出来事に流されてどう感じればいいのかまひしていましたが、今振り返るとたくさんの人から気持ちをもらいました。 全てが良かったわけではないけれど、アニメのすべてが悪かったわけではないし、2期を別の形で作りたいと思っています。
作者とアニメの製作側がよくもめるということは知っていたため別物と割り切り、「原作者は関わらない方がいいと思うが、アニメ製作側の意向があるなら協力したい」とお伝えしたところ、製作の方にぜひ関わっていただきたいとのお返事をいただきました。特に脚本の打ち合わせは、脚本家の村上桃子さんと楽しく進めさせていただきました。2人でいろいろ話していた脚本がテレビで動いているという感動は、すごくありました。監督とも放映終了後にメールでいろいろお話ししましたが、またチャンスがあるならぜひやりたいと真摯(しんし)に言ってくださったのがとても励みになりました。
noteのマンガにも描きましたが、絶版になったことは直接担当者から聞いたわけではなく、再出版化のために動いてくれていた他社の編集さんが調べて教えてくれたのですが、時間もたっていましたので「まあそうだろうな」と感じました。「断裁処理」という言葉は、この時初めて知りました。
―― 自費出版を思い付いたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
藍:フリーの作家になったときから、もし打てる手がなくなったら挑戦してみようと思ってはいました。私は大手出版社で安泰にヒットを飛ばせる作家だとは思っていなかったので、時代の流れも考えるといつかは1人で作品を売る選択をするときが来ると感じていました。
ただ、自費出版するということは、簡単なことではありません。やるならとことんやりたいし、ただ同人誌を出すだけで終わらず、色んな方に見てもらえる戦い方をしたいと決めていたので、他社での出版化が叶わなかった時の最終手段だと考えていました。
また、別作品の書籍を2018年の6月に出版してサイン会などをしていた時、「ミリオンドールを紙の本で続きが読みたい」という声を何回か聞くことがありました。一度商業出版された漫画はWebで読めたとしても、紙で欲しいと考える読者さんがいるのだなということに気付き、これも大きなきっかけでした。そういう流れもあり、再出版化で動いていた編集さんから「やっぱりだめだったよ」と伺ったとき、今こそやるタイミングだ! という決心がついた気がします。
何より、Twitterで試しに「同人誌のような形で出してもいいか」とつぶやいたとき、読者の方がそれでもいい! と言ってくれたことが心強い後押しになりました。
―― 元の単行本を出していた会社(アース・スターエンターテイメント)との話はスムーズに進みましたか。
藍:契約に関しては守秘義務があるので詳しくはお答えできないのですが、当時専属契約していた編集部を介して、こちらの希望通りに対応していただきました。
―― 自費出版に当たって一番苦労したところはどこでしょうか。
藍:写植を再度校正する作業が一番大変でした。Web掲載時は、作家が打った文字を簡単なチェックのみでそのまま載せていましたし、2013〜2014年ごろのiPhoneに最適化した文字サイズだったので、紙にするととても読みにくいのが気になっていました。
周りのスタッフや夫の手を借りて、改行の位置、行頭の括弧(かっこ)の頭をそろえる、表記の揺らぎを確認し合うなど、商業誌レベルの禁則処理を徹底して、まるまる1冊打ち直したので、とても思い出深い作業です。他は事務作業的な面ですが、作中に引用している歌詞の許諾をとるためにJASRACへの申請をゼロから調べて登録したり、ISBNを取得するための審査などもありました。印刷所の選定や紙の選択も、予算内でできるだけ自分のこだわりをかなえたかったので、当初の想定よりたくさんの時間をかけ、多岐にわたる雑務を現在抱えている連載の合間に進めることが大変でした。
―― 新装版作中は何をモチベーションにしていましたか。
藍:Twitterに途中経過の写真を載せることで、いいねをつけてくれる読者さんがいたことです。独りよがりではなく待っててくれる人が1人でもいるんだなと実感でき、寝不足で作業していても頑張ろうと日々を乗り越えられました。
―― 新装版購入者からの反応はいかがですか。
藍:「やっぱり紙はいい」と言ってくれることが、何よりうれしかったです。そう言ってくれる人に届けたい一心で作ったものだったので、報われた思いでした。
私が勝手にこだわっただけなのですが、紙はこういう理由で選んだよとか、そういう細かい部分の発信をキャッチしてくれて「確かに紙がめくりやすい!」と言ってくれる方もいました。SNS上で本が生まれる経過をリアルタイムに見せながらコミュニケーションをとっていた日々が、購入された方に形になって届いたようで、私もうれしかったです。
そんな『ミリオンドール』は、1月30日からcakesで再度連載を開始しました。また、1巻は好評だったとのことで、2月17日開催のコミティア127では2巻の自費出版本も販売予定。新しくなった「ミリオンドール」は、今後も続きそうです。
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