“1つの身体に宿った双子”の苦しみを救う物語 漫画「消えた双子」に引き込まれる
恐ろしく悲しく、不思議でせつない物語。
双子の妊娠時には、生まれる前に1人が母体の中で亡くなり、消えてしまうことがあります。この「バニシングツイン」と呼ばれる現象がテーマの漫画「消えた双子」が、巧みな構成で読者を引き込み魅了しています。
双子のアランとアンは、ビデオカメラを手に街の不思議を調査中。「怪物のように暴れ回る3つ目の男」が住むと聞いて、古びた屋敷を訪れます。
ドアから出てきたのはうわさのような怪物でなく、物静かで紳士的な男。彼は「グレン」と名乗り、「“彼”のことは『グレンダ』と呼んでくれ」と、左目の下についた「もう1つの目」をさらします。うわさは作り話のようでいて、おおむね事実だったのです。
グレンは本来グレンダとともに双子として生まれるはずだったのに、彼がバニシングツインとなり消えてしまった過去を語ります。しかしグレンダは完全に消滅しておらず、グレンに吸収されてその一部に。つまり、開かない3つめの目はグレンダのものだったのです。
その影響でグレンは激しい頭痛にさいなまれ、ときには気を失い、痛みでのたうち回ることも。それが「怪物のように暴れ回る」と伝わったのが、事の真相のようです。医者が言うには、頭痛はグレンダの目を切除すれば治るかもしれないとのこと。それでもグレンは「どんな姿形でも私の弟だ」と断り、1つの身体でグレンダとともに暮らしてきたのでした。
アランとアンはすっかりグレンと仲良くなりました。ところが、翌日も訪ねてみると、屋敷がどうもおかしい様子。開かないはずの「グレンダの目」が開き、代わりにその上の「グレンの左目」が閉じていて、言葉も「誰だテメェら」と、別人のように乱暴になっていたのです。
アランとアンは、そこにいるのがグレンダであることに気付きました。これまでグレンとグレンダの人格は当人たちも知らぬうち、頭痛による気絶をきっかけにして交互に現れていたのです。グレンダは不本意に怪物と呼ばれてきたことで、心がすさんでしまったのでしょう。酒瓶を振りかざしてアランたちに襲いかかります。
それでもアランたちは「2人一緒なら何も怖くない」と、一歩もたじろがず、グレンと会ったときに撮ったビデオをグレンダに見せます。映っていたのは、「どんな姿形でも私の弟だ」と語るグレン。初めて見た兄の姿とその優しい言葉に、グレンダは泣き崩れるのでした。
「次はグレンダの姿をグレンに見せてあげてね」と、ビデオカメラをグレンダに渡すアランとアン。そしてまた、街の不思議を求めて去っていくのでした。
「起承転結や、伏線とその回収を、破綻なく12ページに詰め込む構成力が異常なまでにすごい」と絶賛されたこの漫画は、短編集『ブラック・テラー』の著者、三堂マツリ(@mido_mads)さんの作品。実はアランとアンが最後に話した「部屋中に目の写真を貼ってる男」は同書の第1編に登場する人物で、いわば「消えた双子」は短編集のプロローグなのでした。そこまでひっくるめて構成力にやられた感がある。
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