「劇場版名探偵コナン 紺青の拳」ネタバレなし最速レビュー! 「見たかったもの」が詰まっている“王道回帰作” すごい爆破もある(2/2 ページ)

» 2019年04月12日 18時00分 公開
[赤いシャムネコねとらぼ]
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ミステリ、爆破、ミステリ、爆破

 キャラの魅力だけで何時間でも話せてしまいそうなのですが、ネタバレにならない範囲でストーリーについてもお話ししていきます。

 今回のストーリーを一言で言えば、“先が読めない”。最後の最後になるまで、事件の構造を視聴者につかませません。作中でコナンとキッドが翻弄されるように、観客も「この先何が起こるんだろう?」「マジ? このタイミングで人が死ぬの?」とワクワクしながら見られるのです。

 投入されているアイデアの量は、劇場版コナンの中でもトップクラスでしょう。冒頭から衝撃を受けます。殺人事件の直後にホテル爆破で大停電ですよ? もうどれが重大事件かわからないじゃないですか! しかもマーライオンは吐血する(ちゃんと吐血の理由は明かされるのですが、「マーライオンが吐血したらかっこいいのでは?」というアイデアから生み出されたシーンではないかと思います)。これだけのシーンが、オープニングテーマが始まる前に一気に流れるんですよ。

 登場キャラクターも多く、しかも全員の思惑や意図が微妙に違っているので複雑ではあるのですが、人間関係の整理や解きほぐしていく筋道がうまいので、混乱することはありません。最初から怪しげな行動を見せるレオン・ローも「こいつはどういう男なんだ?」と底が読めない魅力的なキャラでした。

 脚本は「から紅の恋歌」でミステリとラブコメのクライマックスを見事に両立させていた大倉崇裕さん。「こんな変なあらすじだけれど、きっと本作もきっちりミステリなんだろうな」と見に行きましたが、期待を裏切らないプロットでした。フーダニットやハウダニット、ホワットダニットと、手を替え品を替え、視聴者を驚かせようという心意気が素晴らしい。しかも、単にミステリとして面白いだけではなく、“キャラクターの活躍のために逆算されて仕込まれたアイデア”という印象がありました。

※フーダニット、ハウダニット、ホワットダニット……ミステリ小説用語で、順に「誰がやったのか」「どのようにしてやったのか」「何が起きているのか」。

 効果的に働いていたと思うのは、メインシリーズキャラクターをコナン、キッド、京極、蘭、園子、小五郎と大胆にしぼったこと。今回のように複雑な話だと、「サブキャラのエピソードを深掘りするあまり、メインキャラクターの描写が足りず、シリーズ作品として物足りない」ということが起こりえます。本作はシリーズファンに向けての描写もしっかりあって、満足度が高い作品でした。

 ちなみにやや中身に踏み込みますが、本作のメイントリックは「コナンの犯人は気軽に爆薬が使える」という世界観を利用したもので、コナンの世界観では200点〜!!!! て感じでした。大倉さんは「から紅」のときも思いましたが、爆破に理由をつけるのがうまい。完璧に意味のある爆発なんですよね……!

紺青の拳 「から紅の恋歌」ノベライズ。この爆破もすごくいい爆破です

シンガポールという最高の舞台

 本作は劇場版コナン史上初めて海外を舞台にしています。それが、こんなに面白く結実するとは! ラブコメ、アクション、ミステリ、爆破、その全てを生かすためにシンガポールが万遍なく使われていたのです。

 キッドのアクションの場として最高。シンガポールの空でのキッドが、めちゃくちゃのびのびとしているんですよね……。シンガポールの中心地は開けた空、青い海、高層ビルの印象が強く、その中を縦横無尽に飛び回るキッドという映像的な快感も強いです。

 そしてやはり言及せずにはいられない爆破。予告の段階から「マリーナベイ・サンズが爆破されるんでしょう? 知ってるんだぞこっちは」と構えていたわけですが、参りました。それどころじゃない。想像をはるかに上回ってくれました。「劇場版シティーハンター 新宿プライベートアイズ」の新宿御苑バトルを見て「すごい、好き放題やっている……」と感動しましたが、本作は劇場版コナン史上でも最大級の破壊規模ではないでしょうか。実在する建物をまさかあんなことにするとは……。シンガポールはよくこれをOKした……。

 実在の場所をモデルにしていることもあって、毎年おなじみの「実写エンドロール」も素晴らしかった。シンガポールってそもそも絵としてすごく力があるんですよね。ドローンなども使って撮られた美しい映像がふんだんに使われていて、「業火の向日葵」の100倍くらい素材がありそう。エンドロール前のシークエンス、エンドロール、そしてエンドロール後の一幕(青山作画まで待ってる!)と、しっぽまでおいしい、完成度の高いラストでした。

ラスト、気が付けば泣いていた

 クライマックスのアクションシーン、気が付けばメチャクチャ泣いていました。コナンファンは、このラストシーンであらためて思い出すはずです。コナンはまぎれもなく世界一の主人公で、キッドはみんなのハートを射抜くかっこよさだし、京極さんは人類最強で誰も勝てず、でも蘭や小五郎も実は超強くて、そして園子が最高にいい女であることを。

 クライマックスは全員に見せ場があり、それが爽快感につながっている。初期の名作「天国へのカウントダウン」は、少年探偵団みんなに見せ場があって、1人でも欠けていたら“あのラスト”を迎えられなかったという感動がありました。本作は、それを高校生チームでやってくれたのです。

 コナン映画はさまざまなパターンがあり、毎年基本となるルールを踏まえながらも、何かしら新しい挑戦をしています。本作は一見何でもありの破天荒さとは裏腹に、“王道への回帰”というチャレンジだったのではないでしょうか。それは、いままでにない新しい形で、完璧に達成されたと断言できます。みんなが見たかったキャラの姿と、みんなが見たことのないキャラの魅力があり、そのどれもが生き生きと描かれている。見終わったあとに「楽しかった〜!!!」と拍手したくなりました。

紺青の拳 よかった……。
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