火10吉高由里子「わたし、定時で帰ります。」 無茶苦茶ブラック上司に立ち向かえ! 「定時で帰る」vs「死ぬ気でやろう」のお仕事ドラマ
「敵」はユースケ・サンタマリア? それとも向井理?
4月16日22時からドラマ「わたし、定時で帰ります。」(TBS系)がスタートする。朱野帰子によるお仕事小説「わたし、定時で帰ります。」シリーズ(新潮社)が原作だ。
「必ず定時で帰る」というモットーを貫く主役のワーキングガール・東山結衣を演じるのは吉高由里子。意外にも、ドラマで会社員役を務めるのは初めてだそうだ。吉高だけに、定時で仕事を切り上げて「ウィ〜!」とハイボールを飲み干すやる気のない女性を演じているのかと思いきや、そうじゃない。生産性を高めるため自らに努力を課し、仕事に向き合うヒロインの姿勢は真面目だ。やるべきことはその日に済ませ、明日の自分を信じてタイムカードを押す毎日。
「定時で帰る」が結衣のモットーになった一因は、家庭を顧みず働く父のせいで寂しい思いをした幼き頃の記憶にある。「自分は決してああなるまい」と心に決めたヒロイン。だから6時きっかりに帰り、行きつけの中華料理店でビールを飲むことを生きがいにしているのだ。(やっぱり飲むのか!)
「定時で帰る」と「死ぬ気でやろう」、いろいろな価値観が交錯する社内
原作小説は、現代の労働問題の縮図のような内容だった。登場人物はどこかにいそうな人ばかり。体調を崩しても休まない“皆勤賞女”の三谷佳菜子(シシド・カフカ)。役員を目指して産後すぐに職場復帰し、育休を取得しなかった賤ヶ岳八重(内田有紀)。能力不足がバレるのが嫌で会社に泊まり、皆がいない深夜から仕事する吾妻徹(柄本時生)。「死ぬ気でやろう」と煽り、今まで何人もの部下を壊してきた“ブラック上司”福永清次(ユースケ・サンタマリア)。仕事へ没頭することでほとばしるアドレナリンに取りつかれた元婚約者の種田晃太郎(向井理)。社内にはいろいろな価値観が交錯している。
当然だが、長時間残業している者がたくさんの仕事をこなしているわけじゃない。しかし、定時に帰れば「やる気がない」と思われがちだ。小説には、結衣が発したこんなせりふが登場する。
「定時に帰るは勇気のしるし、だよ」
バブル期にサラリーマンの背中を押した栄養ドリンク「リゲイン」CMソングの一節「黄色と黒は勇気のしるし 24時間戦えますか」を意識した、ヒロインによる信念の一言だ。
無謀な作戦を決行した日本軍とダブるブラック上司
部下にムチャを課す上司、そしてそれを受け入れる部下たち。この状況を、結衣は戦時中の日本軍の無謀な作戦とダブらせて悲観した。この作戦に参加した結衣の祖父は、日記に思いを記していた。
「真に恐ろしいのは敵にあらず。無能な上司なり」
そうはさせまいと結衣が立ち上がり、自ら動くと決意するに至るくだりはこの作品のクライマックスだ。残業しない組織づくりに彼女はまい進するのだ。しかし、彼女もいつしか無謀の最前線に立たざるを得なくなる。
とはいえ、結衣は孤軍奮闘しているわけじゃない。彼女のモットーを理解する元恋人の晃太郎は心強い存在。しかし、彼は“ブラック上司”福永の右腕でもある。スーパーサラリーマンゆえに、福永からの信頼も厚い。文字通り休む間もない長時間労働と生産性で福永のピンチを何度も救ってきたワーカホリック。果たして、結衣の真の敵は誰なのか?
仕事の効率、人間関係、早出、徹夜、休日出勤、持ち帰り仕事、会社に宿泊……、現代の働き方の問題点が「わたし、定時で帰ります。」には凝縮されている。ポップなガワして、身につまされるリアリティー十分のメッセージ性をはらむ小説だった。
だからこそ、実写化には意義があるのだ。「定時で帰る」を悪にする風潮と、働き方改革の到来。両者のはざまにふさわしいドラマになることを願う。
寺西ジャジューカ
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