「尊い」とは「見えざる関係性」のこと――『どうして私が美術科に!?』×『ステラのまほう』作者が語る、“尊さビリティ”の正体(2/4 ページ)
どうしてどうびじゅが連載終了に!?
――『どうして私が美術科に!?』の連載を終えた今の気持ちを教えてください。
相崎:取りあえず最終話まで描き切れて、完結巻も出すことができてほっとしています。
――失礼な質問かもしれませんが。3巻での完結は予定していたものではなく、打ち切りということになるのでしょうか。
担当:読者、特に学生の方からの反響が大きい作品であることは編集部としても認識していたのですが……。単行本の売上などを見て、3巻あたりで「どうびじゅ」は一区切りにして新作にシフトしたほうが、今後の諸々の条件を鑑みて結果よくなるだろうなという判断ですね。相崎先生とは、3巻で締めましょうという話は前々からさせていただいていました。
――『がんくつ荘の不夜城さん』のインタビューのときに「2巻乙」の話も聞きましたが、2巻を越えても3巻の壁があるんですね……。
くろば:『ステラのまほう』も、本当は2巻で終わる予定だったんですよね。いろいろな幸運が重なって今も描かせてもらっていますけど、僕的には棺桶から出てきて街中を徘徊している気分です。
――世知辛い話をして申し訳ありません。あらためて、相崎先生は「どうびじゅ」の中でどういったことを一番意識して描かれていましたか?
相崎:はっきりしたテーマを決めずに描き始めちゃったんですけど、途中からキャラクターたちの内面や関係性を中心に描いていくようになりました。きららの美術4コマというカテゴリーで見たとき、美術の知識では『GA』に勝てないし、キャラクターのかわいさでは『ひだまりスケッチ』に勝てないし。それなら、私は関係性を描こうかなと。実際にありそうな等身大の悩みとか、キャラ同士の会話に力を入れようと思うようになったのが、1巻の終盤あたりですね。
くろば:相崎先生が仰っている「等身大の悩み」というものが最もよく表れているキャラクターは、僕は蒼ちゃんだと思うんですよ。ボケキャラポジションではあるけれど、同時に現実感のある悩みも持ち合わせている。「どうびじゅ」という作品に躍動感やリアリティを与えてくれているキャラクターだと感じます。
そこへさらに、美術の知識はあるけれど自分の実力とのギャップで葛藤する紫苑ちゃんの悩みとか、そもそも美術になじめないという悩みを持つ黄奈子ちゃんとか桃音ちゃんとか。そういう三者三様の悩みをお互いぶつけ合いながら成長していくところが「どうびじゅ」の魅力だと思いますし、僕が好きなところですね。
――描いていて特に楽しかったのはどのエピソードでしょうか。
相崎:1巻で夏服に衣替えして、雨の日に帰れなくてみんなで美術X室を掃除する話は楽しかったです。
くろば:あの話、よかったですよね。ただ掃除してるだけなのにめちゃくちゃ面白い。
相崎:別に走って帰ってもいいのに、わざわざ残って友達と無駄な時間を過ごしている学生っぽさがうまく出せたかなと思います。私が通っていた高校も美術科で、課題が間に合わなくてよく居残りしてたんですけど、あの自由なのか自由じゃないのか分からない時間が大好きでした。課題をしているという意味では不自由だけど、先生の監視がないから好きな席に座ったり友達とお喋りできたりして、結局作業が進まないみたいなふわふわした感じが。
――ある意味、相崎先生の実体験が最も反映されたエピソードだったと。
相崎:作中の学校は私が通っていた学校をモデルにしていて、同級生の子が読むと「ここあそこだよね」って分かるみたいです。実際に居残りしていた教室も「どうびじゅ」の美術X室と同じくらい汚くて、だけど掃除できないまま卒業しちゃったので、マンガの中で桃音たちにやってもらいました(笑)。
くろば:僕の大学の漫研もそうでしたけど、動かしていいのか分からないものがたくさんあるんですよね。先輩が描いたアナログ原稿がどっさり置いてあったりして。邪魔だけど勝手に捨てるわけにもいかないから、部屋のエントロピーが延々と増大していくという。
どうして桃音が主人公に!?
※注:以下、本文中で『どうして私が美術科に!?』3巻の内容に触れています
――「どうびじゅ」のキャラクターたちのように、おふたりには“何か”を間違えた経験はありますか?
相崎:中学1年生のときから行きたいと思っていた高校から、成績などの理由で受験シーズンになって急に別の高校に変えたことがあります。学科を間違えた桃音と違って、どちらも美術科の高校だから大きな問題ではないですけど。最初に目指していたところとは違うから、入学したばかりのころは早く卒業したいなってずっと思っていました。
だけど、高校生活は本当に楽しかったですし、今となってはこっちの高校のほうが自分にはあっていたのかなと。最終回で桃音が言っていたように、間違っているかどうかを決められるのは、その道を選んだ自分だけなんだと思います。
くろば:相崎先生のエピソードみたいにきれいなオチではありませんが……。高校時代、すごく懇意にしていただいていた恩師のような方がいたんですけど、僕の行動の悪さでその方の不興を買って絶縁してしまったことがありました。
あれだけ大切に想っていた人との関係すら、たった一度の間違いで簡単に切れちゃうんだって、当時は精神的にもだいぶ参ってしまって。どんなにがんばっても人と人は根底では分かり合えない、理解できないという、他者に対する諦めのようなものが僕の内面に根付いてしまったように思います。
――くろば先生のその経験が、『ステラのまほう』の作風にも表れているのでしょうか。
くろば:もちろんマンガなので、最終的にはハッピーエンドでまとめようとは考えています。ただ、予期せぬトラブルが起こって今までの関係が崩れかけたり、その関係を修復するためにお互いの感情をぶつけあったり、破壊と創造を繰り返しながら成長していくというところが、キャラクターたちの人間性を描くうえで僕が重視していることじゃないかなと思います。
――「どうびじゅ」のすいにゃん先輩と黄奈子、『ステラのまほう』の照先輩と藤川さん、関係性は似ていると思うのですが、描く人によってこんなにも印象が変わるんだと驚きました。そこにおふたりの価値観や人生経験が反映されているのかも。
相崎:似てますかね、照先輩とすいにゃん先輩?
くろば:過去にいろいろあった先輩後輩、という相対的は立ち位置は似ているかもしれませんね。ただ、すいにゃん先輩と黄奈子ちゃんは3巻の収録分でお互いの意見をぶつけあってわだかまりがなくなりましたけど、照先輩はまだまだ面倒臭い感情を抱えているはずなので、今後の展開で解決させてあげたいですね。
――相崎先生が、キャラクターの人間性を描くにあたって大事にしていることは何ですか?
相崎:大事にしていること……。あまり考えたことないですね。自分がキャラクターを描くというよりも、キャラクター同士が勝手に話しているのを描き映している感じなので。昔は桃音たちそれぞれに自分に似ているところを少しずつ投影させてたんですけど、連載を続けていくうちにだんだんキャラが自分から離れていって、1人の独立した人間になっていきました。
くろば:分かります、その感覚。
相崎:だから最近、桃音のことも他人行儀に「桃音ちゃん」って呼んじゃうんですよ(笑)。メインの5人の中で、桃音が一番遠くに行ってしまった気がします。5人の中で最後に考えたキャラクターということもありますけど。
――主人公の桃音が最後に生まれたんですね。
相崎:最初の設定案では5人じゃなく4人組で、黄奈子が主人公でしたね。その案を担当さんに見せたら「主役らしい子がいないね」といわれて、ピンク髪で見た目的にも主人公っぽい桃音を足しました。
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