監督デビュー作品から「さらざんまい」まで 事件的才能とアートワークを堪能できる「幾原邦彦展」レポ

イクニワールドをソラマチで。【10月17日/京都会場の情報を追記】

» 2019年04月29日 18時15分 公開
[ひらりさねとらぼ]

 「尻子玉搾取」「カワウソイヤァ!」――癖になるせりふ回し、カラフルで奇抜な映像演出、そして一見素朴に見える少年たちが隠している「欲望」……。独特過ぎる世界観で話題になっている、今期放映中のアニメ「さらざんまい」。

 同作を深く楽しみ、そのルーツを知ることができる「幾原邦彦展 〜僕たちをつなげる欲望と革命の生存戦略〜」が、現在、東京ソラマチ スペース634(東京都墨田区)で開催されています。同作の監督をつとめる幾原邦彦さんにフォーカスし、その30年以上のキャリアを振り返る特別展です。

幾原邦彦展幾原邦彦展 「幾原邦彦展」が東京ソラマチで開催中。左:告知用ビジュアル、右:メインビジュアル

 東映映画(当時・東映アニメーション)で「美少女戦士セーラームーン」シリーズなどに携わり、「少女革命ウテナ」で、90年代のアニメファンに未体験の衝撃を与えた幾原監督。これまでも「少女革命ウテナ TVアニメ放送20周年記念展」など、作品を中心に据えた展示は開催されていたものの、監督自体を扱う展示は今回が初めて。「さらざんまい」からイクニワールドを知った人も、長年イクニファンだった人も、両方が楽しめる内容になっています。

 ゲートをくぐり会場へと進むと、まずは歴代の幾原作品の関連ポスターが勢ぞろい。期待が高まるなか歩いていくと、「幾原邦彦展」のタイトルがバーンと目の前に現れます。

幾原展 作品展ではなく、監督展は初めて。これまで手掛けた作品を通して見ることができます
幾原展 歴代の作品ポスターが勢ぞろいした先には、サインの入った「幾原邦彦展」のタイトルが!

 添えられた監督直筆のサインに興奮しながら、メインエリアへ。場内は大きく2エリアに分かれており、前半では、幼少期から青年期、東映時代の仕事の紹介が展開されます。「アニメーションの世界において…(中略)…絶えず時代意識と呼応し、事件と呼べる出来事と向き合ってきた作家は他にいません」という力強い展覧会序文にグッと感じ入り、横に目を向けると、壁一面を使っての「年表」展示が。幾原監督の半生、各作品の発表年度が、同時代の時事的な出来事とともに紹介されており、単純にキャリアを知れるだけでなく、監督が触れてきた作品や時代のにおいが読み取れる構成となっています。

 前半エリアを埋め尽くすのは、東映時代の絵コンテや、映画「美少女戦士セーラームーンR」のセル画、「ウテナ」構想初期の制作ノートといったアートワーク……だけではありません。現在にも通じる面影を持った若き日の写真の数々や、高校時代に描いていた漫画の原稿、影響を受けたという映画作品も、ずらりと展示。ひとりの人間としての「幾原邦彦」が、濃厚な密度で浮かびあがってくる内容で、監督の頭の中をのぞかせてもらっているようなドキドキ感が止まりません。

 「ファビュラス!」と叫びたいくらいの満足感にひたったところで、後半エリアへと進むと、そこからは作品を中心に据えた展示群がスタート。

幾原邦彦展 作品展示コーナーには「奇跡」「罪」といった垂れ幕が

 「ウテナ」ほか、「輪るピングドラム」「ユリ熊嵐」「ノケモノと花嫁」……、監督が東映独立以降に手がけ、数々のファンを魅了してきたオリジナル作品が目白押しです。天井には、「革命」「罪」「壁」「欲望」と、それぞれの作品を象徴するキーワードを配した垂れ幕も。人間としての幾原邦彦から、作品としてのイクニワールドへと、自然と意識が切り替わります。

 制作ノート、キャラクター設定表、絵コンテ、原画……過去の作品展で観た時も「贅沢だなあ……」「最高すぎる……」と思った資料の数々が、作品横並びで展示されることで、贅沢感も最高感もさらにパワーアップ。キャラクターも、線の強弱も、色彩設計も、世界観も、作品ごとにしっかりと練られていることを実感しつつ、前半で垣間見た監督の美学を通じて、すべての作品に通じる「つながり」を見出そうと試みるうちに、あっという間に時間が過ぎてしまいます。

 もちろん、「さらざんまい」関連の展示も見逃せません。監督自らが描いた尻子玉搾取の初期ラフや、レオとマブの「カワウソイヤァ!」な絵コンテなど、垂涎ラインアップが盛りだくさん。そして何と……リアル人力車に乗って、劇中の“ケッピ人力車”シーンを再現できるフォトスポットまで!

幾原展 ケッピ人力車に乗れるフォトスポットにテンションが上がります

 初日だけで1000人以上が来場したという本展示。すべての作品に通底する幾原監督の「時代意識」に深く感じ入り、一人で噛みしめるも良し、「この作品まだ見てなかったけど、おもしろそう!」「ウテナのTV版と劇場版ってどう違うの?」と同行者と盛り上がるのも良し。広い間口でどこまでも深く楽しめる展示で、むしろ「イクニ歴」が違う人間同士で語り合うのも面白そう、と思わされました。

 観終わった後は、浅草の街に繰り出して、作中スポットの「聖地巡礼」をするのも一興。物販コーナーで販売している「SNS風アクリルキーホルダー」を購入して臨むと、グッと楽しくなりますよ!

幾原展 左から展覧会図録(1998円)、SNS風アクリルキーホルダー(1080円)

「幾原邦彦展 〜僕たちをつなげる欲望と革命の生存戦略〜」

幾原邦彦展

会期:2019年4月27日(土)〜5月6日(月・振休)10:00〜17:00 ※最終入場は各日閉場の30分前まで

会場:東京ソラマチ スペース634

料金:当日券2200円

主催:「幾原邦彦展」実行委員会

京都で開催!(10月17日追記)

 「幾原邦彦展 〜僕たちをつなげる欲望と革命の生存戦略〜」が、京都・大丸ミュージアムで10月16日〜21日に開催されています。

 京都会場でも、東映動画(現・東映アニメーション)時代に監督を担当した映画「美少女戦士セーラームーンR」の原画、セル画約50点を展示。また、春の東京ソラマチでの展示から、一部展示資料を追加。京都会場からの新商品や、9月に開催した「さらざんまい展」のイベント記念商品も購入できます。

 当日券2200円、限定グッズ(イベントオリジナルタンブラーグラス)付き当日券が3700円。営業時間は10〜20時です(最終日21日は17時まで。最終入場は閉場の30分前まで)。

幾原展 京都会場のメインビジュアル
幾原展 京都会場の入り口の様子
(C) 1997 ビーパパス・さいとうちほ/小学館・少革委員会・テレビ東京
(C) 1999 少女革命ウテナ製作委員会
(C) イクニチャウダー/ピングループ
(C) 2015 イクニゴマモナカ/ユリクマニクル
(C) イクニラッパー/シリコマンダーズ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた