高さ233m。世界最高クラスのバンジーから飛ぶと、人間の身体はどうなるか?(1/3 ページ)
細胞たちのブーイングに逆らう。
バカは高いところが好きというが、僕はもちろん好きだ。さらにいうと、高いところから飛び降りるのが好きだ。鳥のように飛びたいとかそういうのじゃなくて、ただ高いところから落ちていきたい。僕の身体は地球の引力には到底逆らえなくて、物理法則の言われるがまま墜落していく。そういう大きなものに、この身を委ねる快感がたまらないのだ。
岡田悠
夜は旅行記やエッセイを書き、昼は会計ソフトを作ってる人。2019年、noteに投稿した「経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった」と「近所の寿司屋のクーポンを記録し続けて3年が経った」により、一躍“イランと寿司の人”となる。好きな会計用語は旅費交通費。
飛び降りたい人生
小学校の時、校庭のフェンスから飛び降りた。足をくじいた。でも痛くはなかった。それよりも興奮というのか、高揚というのか、自分の細胞が身体中を這いずり回っているような、そんな激しいざわめきが僕を支配した。そんな感情を覚えたことはなかった。先生からはなぜ飛び降りたのとひどく詰問されたが、理由なんてどうでもよかった。
高校の時、家族と初めて富士急ハイランドに行った。そこでFUJIYAMAというジェットコースターに乗って、僕の中のスイッチが入った。そこから絶叫マシンの虜になって、ありとあらゆる遊園地を巡った。カリフォルニア旅行に行った時も、友人たちがディズニーランドへいく中、僕だけ「シックスフラッグズ」という絶叫マシン専門パークに一人でいくほどだった。
スカイダイビングに挑戦したこともある。ラスベガスで、砂漠の真ん中へと飛び降りた。オンボロの飛行機から雲の中に飛び込んでいくのは、怖いというより爽快だった。
それでも、どこか物足りなさを感じていた。ジェットコースターは機械で動くし、スカイダイビングはインストラクターが背中についてくれる。そうではなくて、僕は独りで飛び降りたいんだ。たった独りで、虚空にこの身を投げ出したい。校庭のフェンスから飛び降りた時のあの感情を、僕は探し続けていた。
細胞たちのブーイング
2012年。バンジージャンプを初めて飛んだ。群馬県水上町で、高さ45mからのジャンプ。ジェットコースターやスカイダイビングと違って、バンジーでは自分でその決断をしなければならない。一歩を踏み出すのも辞退するのも、選択は僕に委ねられている。
いざジャンプ台の上にたつと、その選択には大きな決心がいる。一度躊躇してしまったら、もう二度目は無さそうだ。僕は小刻みに震える唇をぎゅっと噛んで、そのまま重心を前に傾けた。
その瞬間、「ザワッ」という音が身体の内側で聞こえた。これだと思った。
かつてフェンスから飛び降りた時の、「細胞が這いずり回る」あの感じ。これはきっと、僕の身体が「あれ、これから死ぬぞ?」と勘違いして、必死の抵抗をしているのだ。
最初のバンジーの、その後の記憶はほとんど無い。足からゴムを外した後も、細胞たちのブーイングが鳴り止まなかったことだけは覚えている。
そこからバンジーの魅力に取り憑かれて、3度ほど飛び降りた。水上町でもう1回、遊園地で1回、そして3回目は茨城県の竜神大吊橋で、国内で最も高い100m級のバンジー。
どれも思い出深いジャンプだった。特に竜神大吊橋では地元の人も驚くほどの霧が出ていて、橋の下が全く見えないほどだった。
竜神大吊橋から霧中へのジャンプ。現実とは思えないような幻影の中に静かに呑み込まれていくようで、ひんやりとした水蒸気が僕を優しく包み込んだ。
天へ突き出た尖塔
もっと、もっと高いところへ。そうして行き着いたのが、マカオにある「マカオタワー」のバンジーだ。
高さ338mのマカオタワーには、地上233mに位置する展望台がある。そこからジャンプすることができるのだ。都庁よりも高く、東京タワーの最上階の展望台とほぼ同じ高さ。
日本最高の竜神大吊橋の2倍を上回る、世界最高クラスのバンジージャンプである。
補足
ギネスワールドレコードの公式サイトには「Highest commercial bungee jump facility (building)」としてマカオタワーが記録されている。ただ中国にそれより高い250mの吊り橋バンジーができるという記事もあって、2019年現在の世界一は確かでは無い。(なおアメリカのコロラド州に300m級のバンジーが存在するという情報もあるが、これは現在は封鎖されている模様だ。)よってこの記事では「世界一」ではなく「世界最高クラス」と表現している。
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