高さ233m。世界最高クラスのバンジーから飛ぶと、人間の身体はどうなるか?(2/3 ページ)
マカオへは日本から直行便が出ていて、所要時間は5〜6時間。頑張れば週末でも行けるので、「日々が単調だ」「仕事で嫌なことがあった」「今すぐ飛び降りたい」みたいな人はぜひおすすめのスポットだ。
今回、そのマカオには友人と2人でいく事にした。誰かを道連れにしたかったからだ。友人はバンジーは初めてで、どちらかというと高い場所が苦手な方だ。しかしギャンブルが好きなので、カジノを餌に誘い出した。飛行機の中でポーカー入門を読み自信をつけた我々は、金塊を持って帰るぞ! と意気込んでカジノへ臨んだ。
ポーカーテーブルでは3人の中国人がプレーをしていて、僕たち2人はそこへ混ざった。テーブルの使い方がわからず、最初は店員に教えてもらいながら、それからだんだんと慣れていった。なんだか周りも大したことが無いように見えて、金塊がちらついてきた。
「ポーカーをやり始めて20分たっても、まだ誰がカモかわからない人は、自分がカモなのだ。」
これはウォーレン・バフェットの言葉だという。カモは2匹いて、それは僕と友人で、1時間で手持ちの金が無くなった。あとはカモらしく飛び降りるのがお似合いだった。
カジノを出て、カモ2匹はまっすぐマカオタワーへと向かう。友人もヤケクソになっていたので、一緒に飛ぶことを承諾してくれた。地上から天へ突き出た長い尖塔が見える。マカオタワーだ。
受付にいくと、長蛇の列ができている。「スカイウォーク」と呼ばれる、展望台の外縁を歩くアクティビティが人気らしい。僕たちはその行列をスルーし、人混みの少ないバンジーの窓口へと向かう。バンジーおなじみの「死んでも文句言わないです」みたいな真っ赤な誓約書にサインして、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターは音もなく滑るようにして高速で地上から離れていく。高度と比例して友人の表情が強張っていく気がするが、見えていないふりをする。
展望台ではバンジーの説明が長々と書かれていて、よく読むと「このバンジーのゴムはパンツのゴムをリサイクルして作られています」みたいな環境への配慮が記されていた。安全への配慮は大丈夫なのだろうか。友人の顔はどんどん白くなっていく。
あっという間に僕たちの番がやってきて、分厚い扉が開いて外に出る。吹き上げる強風に、思わず後ずさりしてしまう。後ろに並んでいる友人は「無」の表情をしていて、もはや何も喋らない。カモとしての覚悟を決めたのだろう。
上からはマカオの全景が見渡せる。さっき負けたカジノはあのビルだろうか。ポーカーはどうしたら強くなるんだろう。ブラックジャックのジャックってなんだ。帰ったら鴨南蛮を食べたいな。とりとめのない思考もどきが、シャボン玉みたいに浮かんでは弾ける。
Next, You!
現地スタッフが真っ白な歯をにっと見せて、満面の笑顔で僕を呼んだ。近寄った僕に力一杯のハグをして、 Have a nice trip と肩を叩く。バンジージャンプのスタッフというのは、なぜ皆一様に陽気なのだろうか。ご機嫌に歌う彼を見て思う。きっとここまで来て辞退する人が出ないよう、全員でその場のテンションをあげているのだろう。つられてハイになってるうちに、いつの間にか人は飛び降りるのだ。新興宗教みたいなもんだな。
そんなことを考えていたら、いつの間にか準備は万端で、足と腰にしっかりとゴムが巻かれていた。僕の命をつなぎとめる、パンツの紐からできたゴム。
一歩前へ進み、いよいよその時がくる。海賊の映画なんかで生贄が立たされる、船頭に突き出た飛び降り台みたいなスペースに立つ。友人が能面のような表情で僕を見守っているのが見える。
身体が熱くなる。細胞がざわつき始めた。全身の毛が逆立って、呼吸が荒くなっていく。ドーパミンとかアドレナリンとかエンドルフィンとか、この世の全ての化学物質が僕の脳内でダムの放流みたいに吹き出して、小さな思考のシャボン玉を全部破裂させる。
スタッフが片言の日本語でカウントダウンを始めた。
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