「ただしイケメンに限る」を使ったことのある人に聞きたい、“イケメンとは何か”を真剣に考えたことはあるか?(2/2 ページ)
イケメンとは何かを知りたければ、「仁義なき戦い」を見ろ
そしてもうひとつ、「イケメンとは何か」という話である。前回このコラムに書いたのだが、おれはけっこう男を眺めるのが好きだ。正統派の二枚目を見れば「なるほど美形だ」となるし、ゴツい男性も「胸板があるとやっぱり洋服が似合うなあ」とか思うし、スティーブ・ブシェーミみたいなヨレヨレのおじさんにも他にない魅力があると思う。多分、一般的な男性よりは男性を見慣れている方だろう。
そういう立場からすると、「ただしイケメンに限る」と言っている人のうち、どれほどが「イケメンとは何か」という点について真面目に考えているのかという疑問が湧いてくるのだ。
これは無根拠な予想だが、「イケメン=女が好きなジャニーズとかEXILEみたいなの」くらいの認識ではなかろうか。そりゃまあ確かに、ジャニーズ的な顔が好きな女性は多いだろう。しかし彼らはアイドルであり、アイドルは顔の他に曲や振り付けやその他の文脈のような要素がまとわりついている。そんな複合的な存在に対し、「イケメンか否か」という部分だけを見るのは短絡的だろう。
さらに言えば、EXILE TRIBE(というかLDH)の人のルックスは相当に多様である。岩田剛典のような、まあそりゃ誰がどう見てもイケメンだわなこれは……という容貌の人もいるのだが、例えば小林直己や関口メンディーのような、「いわゆるイケメンっぽい見た目」ジャンルに収まっていない人もいる。
しかし彼らは総じてめちゃくちゃ動いて踊るし、自分がどうしたら面白くかっこよく見えるかを考え抜いている。そうした主に肉体言語的な工夫により、彼らもやはりどう見てもイケメンなのだ。LDHを褒めちぎりたいわけではないのだが、「イケメンとは何か」という問いに「ちゃんと考えて手を打つことで、そもそものイケメンという単語の指す範囲を拡張する」という回答を出しているところは、世の男性にとって希望の持てる話だと思う。
「イケメン」という単語が持つ意味合いは本当はずっと広い。さらに多様なイケメンの姿を確かめたいのなら、ぜひ一度「仁義なき戦い」を見てほしい。モデル体形(というか実際にメンズモデルをやっていた)のすらっとした菅原文太。革ジャンからタキシードまで、常に服装をチェンジする松方弘樹。理不尽な親分でありながら、出てくるだけで画面がパッと明るくなる金子信雄。はち切れんばかりのピチピチ感が漂う若い頃の梅宮辰夫。とぼけた風貌でありながら異常に生命力がありそうな田中邦衛。エトセトラエトセトラ……。
全員見た目の方向性は見事にバラバラだが、主演級から大部屋俳優まで、男たちが生き生きと敗戦直後の広島で元気に暴れまわっている。おれはもう全員をイケメンと言いたいし、しっかり見れば「こいつら、かっこいいのでは?」と思わされてしまうようなエネルギーにあふれている。世界にひとつだけのヤクザたちが互いに騙し合い殺しあうギャングスタパラダイスを見れば、「ただしイケメンに限る」などという言い様がいかに間口が狭くなんにも考えていないものか、しみじみとわかるはずだ。
というわけで、ことあるごとに「ただしイケメンに限る」みたいなことを言ってインターネットでクダを巻く人には、ぜひとも往年の東映実録路線ヤクザ映画を見てほしい。顔が多少よかろうが悪かろうが、そんなことは関係ない。そこには本物の生き様がある。少なくとも、大学時代のおれは実録路線の映画に出てくるめちゃくちゃで多様な男たちに救われた。あのガタガタと揺れまくる手持ちカメラの映像を見れば、多少モテなかろうがそんなことで男や女の価値は左右されないという勇気が湧いてくるはずである。
編集部からのひとこと
- 今年の正月に仁義なき戦いシリーズを全部見たらあまりに面白くて椅子から転げ落ちた(男性編集T氏)
- 「マーリンの顔は死ぬほど好きだけど、マーリンとは絶対に付き合いたくない」みたいなのがあるので、顔と恋愛観って一筋縄ではいかないですよね……(女性編集A氏)
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