「出版社以外」からの収入のほうが大きくなった──うめ小沢高広さんに聞く「いま漫画家デビューを狙うならこうします」(4/4 ページ)
――どんな不運な出会いがあろうとも、力づくで突き進む。そんな才能の人ならいいですけど、そこまでの人はマンガの歴史上、ごく少ない。むしろ、もしかして担当ガチャの引きが悪くて、本来世に出たはずの才能の芽を枯らしているのではないか。そうした危機感は編集側にもあって、講談社なんかは、編集部横断的に投稿を受けつけていたりしますね。
小沢 あれくらい間口が広い取り組みであれば、ありかもしれないですね。でも、旧態依然の雑誌の賞であれば、絶対に出さないと思います。
ただ「Twitterでバズった本が実際に売れるか」というと、決してそんなことはない。100万単位でバズったのに本を出したら1000冊も売れないというケースもまだ聞きます。だから、1冊出したからそれで上がり、ということではなく、その後の戦略もまた考えなければならない。
あと「Twitterでバズるタイプのマンガと、本当に君が書きたかったマンガは同じ?」という疑問もあります。
数を打って、どんどん回転していく
――SNSの世界では「12ページのストーリーでも重い」という声がありますね。それよりもエッセイだったり、変わった体験だったりがバズりやすい。その意味では、ショートで売れるマンガはもはやWeb発が主流という意見もあります。
小沢 日常の小ネタだったり、自分自身や身近な人の病気の話だったりですね。それが描きたかった人なら、ぜんぜんいい。問題ないんです。
しかし、スケールの大きいストーリーが書きたい。自分がかつて血沸き肉躍ったような冒険活劇を描きたい。そういう願望を持ってるにもかかわらず、SNSでバズりやすいからという理由だけで、エッセイマンガを描いて、それで「マンガ家になったね、良かったね」という未来しかこの業界が提示できてないんだとしたら、それはちょっと残念だな、なんとかしたいなとは思います。
大きなストーリーを描きたいのであれば、集英社や講談社がやっているような、ある程度は編集者も見るけれども、Webにも同時に公開するという場のところでやっていくのが可能性は高いでしょうね。
でもそれでも、やっぱり数を打って、どんどん回転していくことが大事だと思います。昔だったら、編集者がある程度、こっちだよと道しるべを示してくれた、手を引いてくれたりした。今は、それもない状態なので、自分で数を描いて、当たりを模索していくことになる。そのためには、絵のコストをどこまで下げられるか。具体的には、渾身の絵、渾身のネームを描くのをやめる。絵にコストをかけない、ネームにコストをかけない、どんどん量産する。
――渾身のネームを考えて、1年かけて渾身の絵を描いた。自分の人生をぶつけた投稿作を送って、3カ月後に落選が分かる。それを2、3回も繰り返したら、もう詰んでしまいます。それに、渾身の作品で見事、賞を獲ったとしても、担当ガチャに負けて、最初の打ち合わせで終了して唖然としてしまうこともある。コストを思い切りかけた一作で勝負しようとするのは、あまりにリスキーですね。
小沢 やりたいことをゆがめるのは、僕は良くないと思うんです。だから冒険活劇を描きたい人は、まずはそれを目指すほうがいい。
ただ、それでたまたま10代の少年少女の恋愛を描いたら、サイトですごく伸びたとします。そのときは、そこは信じて伸ばすのがいいと思います。やっぱり、自分の中にどんな引き出しがあるのか、自分が一番分かっていないところがありますから。
だから、もし思っていたのと違う作品が伸びたとしても、それは編集者に意外な引き出しを提案されたのと同じようなものです。まず半年くらいは、信じてやってみてもいいと思いますね。伸びると人間嬉しくなるもので、本当に嫌じゃなければ、案外それも悪くないかな、と思い始めたりもするものです。
- うめ小沢高広さんインタビュー後編「お金はゲームでいえばパラメーターのひとつでしかない」に続く
堀田純司 大阪生まれ。作家。主な著書に「僕とツンデレとハイデガー」「オッサンフォー」(講談社)、「メジャーを生み出す マーケティングを超えるクリエーター」(KADOKAWA)、編著に「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)などがある。日本漫画家協会員。Twitter @h_taj。
関連記事
- 「漫画家はTwitterなんてやっている暇があるなら漫画を描け!」に対する答え――2018年に漫画を描くということ(2)
ネットで漫画が「動く」時代。 - 「今のマンガ家って売れても儲からないんですか?」 『アホガール』のヒロユキ先生に聞く、マンガの現状
他にも「同人の方がいいってホント?」「電子書籍よりも紙の本で買ってほしいのが本音?」など聞いてみました。 - 漫画家ってどんな食生活? 『響〜小説家になる方法〜』作者の執筆現場を取材、大ファンという“けやかけ”話も
“漫画家はどんなご飯を食べて執筆に励んでいるのか”に迫る「漫画家メシ」。 - 「電子書籍より紙の本を買ってもらえるとうれしい」――漫画編集者の意見に賛否 「出版のシステム自体に問題があるのでは」
「紙の本が売れないと、次巻も売れないと見込まれて部数が減る」という理由に対し、「電子書籍の売り上げも評価に含めればいいだけでは」との指摘が寄せられています。 - “読み捨てされる作家”が個人で電子雑誌を創刊したら何が起こったか 漫画家・青木光恵に聞く
自らを「読み捨てされる作家」と称する漫画家・青木光恵さん。夫の小形克宏さんと二人三脚で個人電子雑誌『スマホで光恵ちゃん』を創刊して約半年。その取り組みの経緯と成果を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
【ハンドメイド】余った布が大変身! 捨てるのがもったいなくなる活用法に「天才じゃないですか!」「素敵なアイデア」
-
庭に置かれた“普通の物置” → DIYで“まさかの姿”に大変貌 「え?物置ですか?」「すごすぎ」
-
クルマのドアが開かない……! 車内から緊急脱出する“驚きの方法”に目からウロコ 「貴重な情報」「良い知識」
-
両親の離婚を機に、男子高校生が初めて作った“お弁当” その出来が「すごい」「なんか泣ける」と300万再生突破
-
コストコで人気「ヨーグルト」に大腸菌群陽性の可能性…… メーカーなど謝罪「深くお詫び」 5万8000個自主回収
-
買ったばかりの家の風呂場に”ありえない欠陥” 信じられない状況に「そんなことある?」「取り付けた業者……」
-
大人なら5秒で解きたい!「9+0÷2−3」の答えは?【算数クイズ】
-
天皇皇后両陛下と愛子さま、“おそろいコーデ”に23万いいね 着用アイテムに同系色
-
高校生のときに出会った“同級生カップル”→「親に頼らん!」と必死に貯金して…… 19年後、現在の姿に反響
-
「上達すごくね!?」 中学生絵師、小1→中2の成長ぶりに思わず感嘆 「人間の可能性を感じる」
- 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
- DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
- 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
- スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
- 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
- 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
- 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
- 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
- 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
- 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
- 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」