天才役者とその代役が、組んだ肩を離すまで 「2人の関係性」を愛するすべての人に野田彩子『ダブル』を読んでほしい(2/4 ページ)

» 2019年06月25日 20時00分 公開
[不義浦ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

野田彩子作品の魅力

 作者の野田彩子は、「新井煮干し子」名義でボーイズラブジャンルでも活躍してきた作家である。

 恋人にしてスーパーモデルの「ジョゼ」を信仰するイラストレーター「天羽」の孤独と、天羽の愛情を正面から受けたいと感じているジョゼの孤独が不意に開放される『渾名をくれ』(祥伝社)、誰かに向き合ってもらえている実感が得られずにわざと悪意で人を振り回そうとする美少年と、彼に一目ぼれをしてまっすぐに愛を渡そうとするクラスメイトとの青い恋愛を追った『GATAPISHI』(祥伝社)など、これまでも奇妙に絡み合う「2人の関係性」を描く名作を世に送り出してきた。

野田彩子漫画ダブル 『ダブル』表紙

 その手腕において特筆すべきなのは、登場人物ひとりひとりが独自の論理で生きていることが徹底して練られている点ではないかと思う。「2人の関係性」の魅力を最大限に引き出しているのが、キャラクターを「1人の人間」として描く力なのだ。それこそ多家良の演技のように、ただこの漫画で描くために2人の人間を作り出したのではなく、この世のどこかで生きている2人の人間を漫画に落とし込んだのだと思わされるほどに、その人物描写はマンガの枠外にある人生まで想像させる。

 例えば事務所との契約の最中に「玄関」という言葉を耳にした多家良は、そこから自宅の鍵について連想して「友仁さん鍵返して」と唐突に告げる。友仁はそれに対して、多家良の連想を瞬時に理解したうえで「今ゆーな」と叱った。あるいは飲み会の場面で、多家良がひじを動かしたために下に落ちたわりばしを、友仁は何も言わずに拾い上げて机に戻す。

野田彩子漫画ダブル 玄関の鍵について唐突に思い出す多家良
野田彩子漫画ダブル 多家良が落とした割りばしをそっと拾う友仁

 多家良という才能の塊の残酷さを一身に浴び、引き裂かれる己を認識する一方で、多家良のことを素直にいつくしんでいる……「役者人生」という大きなうねりの内側にある些細な日常の機微、暮らしの中で染みついた行動原理が、ここに垣間見えるのである。

 繰り返すが、きっと2人はどこかで違う道に行くはずだ。しかし読者はその分岐点ばかりに集中すべきではない。重要なのは選択に至るまでに積み重なった2人の生活であり、あまりにもいとおしい人間の暮らしである。カレンダーに予定を書くとか、カレーの匂いに喜ぶとか、そういった1つ1つの感覚は、人生の岐路と同等に尊い。

 『ダブル』は6月14日に単行本第1巻が発売されており、現在「ふらっとヒーローズ」で連載中だ。1人でも多くの人が2人の行く先と足取りを目撃することを、心から願ってやまない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/18/news145.jpg “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
  3. /nl/articles/2412/16/news079.jpg “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/17/news060.jpg 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  5. /nl/articles/2412/17/news197.jpg 「巨大なマジンガーZがお出迎え」 “5階建て15億円”のニコラスケイジの新居 “31歳年下の日本人妻”が世界初公開
  6. /nl/articles/2412/17/news078.jpg 鮮魚コーナーで半額だった「ウチワエビ」を水槽に入れてみた結果 → 想像を超える光景に反響「見たことない!」「すげえ」
  7. /nl/articles/2412/18/news059.jpg 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開【大谷翔平激動の2024年 「妻の登場」話題呼ぶ】
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2411/25/news189.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  10. /nl/articles/2412/18/news056.jpg 日本人ならなぜか読めちゃう“四角形”に脳がバグりそう…… 「なんで読めるん?」と1000万表示
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」