レビュー
» 2019年07月01日 12時15分 公開

見事な最終回「きのう何食べた?」 「腹八分目で長生きしような、俺たち」期待が高まる“シーズン2をゴールデンで” (1/2)

原作からカットされた部分もあった(支持します)。

[大山くまお, イラスト:たけだあや,ねとらぼ]

 「俺もさ、相方としては、なるべくお前にはハッピーでいてほしいと思ってるんだよ。だから、お前がうれしいなら、別に全然いいんだって」

 「……」

 「お前が幸せ感じるなら、これからカフェぐらい何度でも付き合うよ」

 「……!(無言でバックハグ)」

 ドラマ24「きのう何食べた?」が最終回を迎えた。ドラマは終わっちゃったけど、シロさんとケンジはどこかの街で幸せに暮らし続けているような感じがして、なんだか「ロス」とか言うのも無粋な気さえするような、多幸感あふれる素敵な最終回だった。


きのう何食べた? 最終回、大切な人と食卓を囲むことのありがたさが痛感されたドラマだった イラスト/たけだあや

ケンジ、シロさんの実家へ行く

 ケンジ(内野聖陽)がシロさん(西島秀俊)の実家で両親(梶芽衣子、田山涼成)と会うことになった。ヒゲを剃っていくかどうか悩んでいるケンジに、勤め先の店長・三宅(マキタスポーツ)の妻レイコ(奥貫薫)がこう言う。

 「ごまかさないって決めたのに、そんな細かいところごまかしてどうするの?」

 この人の言葉はいつも直球、そして本質を突く。ごまかしてばかりの三宅とは、そりゃ早かれ遅かれ離婚するわな。

 トレンチコートにスーツ姿でカチコチになって実家に向かうケンジと心配そうなシロさん。シロさんに「なんかヘン」と言われてしまったが、そもそもトレンチコートは軍用の服であり(トレンチは塹壕という意味)、はからずも戦場に赴くケンジの心情が服装に表れてしまっている。フォーマルな席にはトレンチコートは着ていかないほうがいい、という人もいるので注意。シロさんの両親は気にしていなかったけど。

 印象的だったのは、ガラス戸の向こうにいるシロさんの両親が近づいてくるショット。そこにいることはわかっているのに、2人と2人の間には厳然とした境目がある。姿がだんだんはっきり見えてきて戸が開かれる。それでもまだ表情は硬い。

 食卓を前にしても両者の距離は開いたまま。ケンジが数の子を食べる音だけが響くのがなんともおかしい。お母さんとシロさんが台所へから揚げを作りにいってしまったので、お父さんとケンジはシロさんのアルバムを見ることにする。

 学生時代のシロさんの写真がそのまんま過ぎて驚いた。写真の彼の名前は山本楽くん(16歳)。所属事務所のプロフィールによると、特技は「バレーボール・エアリアル・土鍋でご飯を炊ける」だそうだ。最後まで細かなキャスティングにも手を抜かないドラマだったとしみじみ思う。

 アルバムを見ながらケンジは10代の頃のシロさんの心情を代弁し、お父さんはそれを理解する。あれだけ距離のあった2人が、寄り添うように並んでアルバムを見るところまで近づいている。

 一方、台所ではシロさんとお母さんの料理を通したコミュニケーションが続いている。お母さんの表情がなんとも柔らかい。いい会社に就職したり、孫を見せたりすることだけが親孝行じゃないということがよくわかる。

 帰り道の坂の途中(OAUの主題歌の歌詞のとおり)、ケンジはこう言って泣く。

 「夢みたい。恋人の実家に遊びに行って、親御さんとご飯を食べる日が来るなんて。だって……俺には、そんな日が来るなんて、永遠にないって思ってたもん。もー俺、ここで死んでもいい!」

 「何言ってんだ。死ぬなんてそんな、そんなこと言うもんじゃない。食いもん、油と糖分控えてさ、薄味にして、腹八分目で長生きしような、俺たち

 原作でも、とても印象に残るシーンだ。既刊15巻のうち、7巻にあたるこのエピソードは「きのう何食べた?」の一つのクライマックスにあたる。ドラマではシロさんの両親の存在感が大きかったこともあり、最終回でこのエピソードが映像化されると予想していたファンも少なくなかっただろう。


きのう何食べた? 12話の見どころ。タイムラインも幸せの涙で濡れていた イラスト/たけだあや

 一つ、原作からの大きな改変がある。原作には寄り添う2人を見る若い男たちが登場するのだが、彼らはこう言うのだ。

 「うわ キモ!!」

 「まじかよアレ うわキモイキモイキモイキモイ」

 「おっさん2人いつまでもよりそってんじゃねっつーの」

 「ダメオレ生理的にダメ ホモってマジ死んでほしーんですけど! 死んで! てゆーか死ね!! ギャハハハハ」

 この言葉を聞いて2人は死なないことを決心するのだが、ドラマでは存在がまるごとなくなっていた。最終回に視聴者の気持ちをザワつかせるような存在を出したくなかったという制作側の気持ちはよくわかるし、支持したい。原作が発表された2012年から7年の間に世の中が少しでも変わったというなら、それは素晴らしいことだと思うからだ。

 お正月、シロさんとケンジは中村屋で買い物して、シロさんはケンジに髪を切ってもらう。いつものような生活だけど、2人は少しずつ変化している。加齢で白髪が増えたり、髪が薄くなったりした。かわいいカフェでお茶をして、周囲に何か囁かれても気にしなくなった。そしてシロさんがケンジに向かって言ったのが冒頭の言葉だった。周囲の目よりも、一緒に暮らす相手の幸せが一番。

 アルバムを見るケンジとシロさんのお父さん、台所に立つシロさんとお母さんも素敵な後ろ姿を見せていたが、バックハグするケンジとシロさんの後ろ姿も印象的だった。2人は孤立なんかしていなくて、まわりの人たちとちゃんとつながっている。同じ方向を見る家族だということなんだろう。

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