辞書マニアが語る“『新明解国語辞典』第4版を43冊持っている理由” 繰り返しますが「第4版だけで43冊」です(1/3 ページ)

同じじゃないんだな、これが。

» 2019年09月07日 12時00分 公開
[ながさわねとらぼ]

 僕は国語辞書の収集を趣味にしています。中でも点数が多いのが『新明解国語辞典』第4版で、現在のところ43冊を所有しています。『新明解国語辞典』が43冊なのではありません。『新明解国語辞典』の第4版だけで43冊あるのです。

 みなさんも辞書の20冊や30冊はお持ちだと思いますが、『新明解国語辞典』第4版だけで40冊あるというご家庭はあまりないのではないでしょうか。あったらお友達になってください。


一部

ライター:ながさわ(Twitter:@kaichosanEX/ブログ:四次元ことばブログ

数百冊の辞書を保有する辞書コレクター。暇さえあれば辞書を引いている。「四次元ことばブログ」(http://fngsw.hatenablog.com/)で辞書や日本語について発信中。


 『新明解国語辞典』の初版は1972年に刊行されました。戦前の『明解国語辞典』を母胎に、内容を一新して成立した国語辞書です。「日本でいちばん売れている小型国語辞典」を自称しており、小型国語辞書ではトップのシェアを誇ります。

 最新版は2011年の第7版ですが、ファンの間では1989年の第4版の人気が高いことで知られています。その一因は、赤瀬川原平の『新解さんの謎』にあるとみられます。

 『新解さんの謎』は、『新明解国語辞典』のユニークな語釈(ことばの説明)を味わうエッセイで、ベストセラーとなりました。それ以前から『新明解国語辞典』の面白さに注目する識者はいましたが、これが広く知れ渡ったのは『新解さんの謎』のおかげでしょう。その『新解さんの謎』に登場していたのが、何を隠そう第4版だったというわけです。有名な面白い語釈が読めるのは第4版だと、今でもこれを探し求める読者が絶えないのです。

 とりわけ有名なのは「恋愛」の語釈です。各所で何度も引用されておりもううんざりだという辞書マニアも少なくないと思いますが(例えば僕など)、せっかくなので改めて引いておきます。

れん あい【恋愛】―する 特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持を持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。「―結婚・―関係」

※引用に際しては、約物(記号)などを省略しました

 多くの人の辞書のイメージを覆したこの語釈は、第3版とも第5版とも異なっています。「合体」が見られるのは第4版だけとなると、人々がこぞって第4版を買い求めるのもうなずけるでしょう。

刷が違えば別の辞書

さて、架蔵の『新明解国語辞典』第4版の内訳は以下のようになっています。

  • 通常版:36冊
  • 小型版:3冊
  • 革装版、机上版、グンゼ株式会社仕様、中国版:各1冊

 各1冊の革装版、机上版、グンゼ株式会社仕様、中国版は、いずれも見た目が通常版とはまったく違っています。中身が同じだとしても外見が違えばコレクターの所有欲を刺激する事実はどうにか分かってもらえるので、持っていることもそこまで不審がられません。それぞれの詳細については後述します。

 不可解に思われやすいのが、3冊ある小型版と、そして何より36冊もある通常版です。普段遣い用、鑑賞用、保存用、布教用……にしても多すぎる。以前、親に蔵書の整理を手伝ってもらったとき、「どうして同じ辞書が何冊もあるんだ」と問われました。

 否! 同じ辞書ではない!

 偉い人はこう言いました。“刷が違えば別の辞書”と。

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