「何言ってるか分からないけど面白い」が最強の記事 ねとらぼ編集部員に聞く「お前の原体験はなんだ」〜杉本吏編〜:ねとらぼの中の人インタビュー(4/4 ページ)
杉本:みんなビビったわけ。これも「何言ってるの?」ってなるけど、なんかすごいじゃないですか。「なんかわかんないけど面白い」ってのはこういうことで、ここで「要するにこういうことですか?」とか言うとだめだよね。他にも「トルネコの大冒険」を世界一遊んでる人が、「不思議のダンジョンにはまだ不思議がある」って言ったときは、渋谷の星乃珈琲店で感動したよ。言おうとして言ったセリフではなく、本当にポロッと出たから(笑)。
あとは、当たるとは限らないんだけど“その書き手が居なければ世に出ていない記事”は尊い。例えば、橋本長道連載の第1回「藤井聡太五段を見たときに感じる『口の奥の苦み』」なんかは自分でもそういうものを編集しようと思ってやってた。あれは世に出せて本当に良かった。
ニュースは面白くなくていい?
――ちょっと予想はしてたんですが、こうやって「面白い記事」の話をしていると「ニュース」の話が全然出てこないですよね。
杉本:わかる。俺もニュース書いてたけど、やっぱニュースは面白くなくて良いってことじゃないかな……(笑)。もしストレートニュースが面白いんだとしたら、それはあくまで起こった出来事が面白いんであって、こっちの手柄ではないな。そもそもそのネタを取り上げるかどうかとか、視点を付けることはもちろんできるけど。
――まぁ、そういうことになるんでしょうね。
杉本:ジャーナリズムとかについても考えた事あるんだけど、俺やっぱ向いてないわジャーナリズム。というのも、記者には使命感とか「社会の木鐸である!」みたいなプライドがなきゃいけないんだろうけど、そういうの俺にはないからさ。まぁ将棋連盟がスマホ不正疑惑で適当なことやったときにはすげえ腹を立てたからすぐに自分の考えを書いて、結果的にたくさん読んでもらえたんだけど。
自分の中で怒りがあればそういうこともできるんだけど、俺はそれより変な人の話を聞いている方が好きなんだ。
「社内の人のSNSとかブログとかも見つけられるだけ見つけて毎日読んでたよ」
――将棋の話がよく出てきますが、現在も趣味で続けているんですよね。
杉本:それもここ6〜7年くらいのことで、あるとき人間とコンピュータが戦う電王戦の記事を他媒体で読んで、「この△6六銀が決め手だった」とか書いてあってさ。
手の意味がわからなくても十分面白い記事だったんだけど、「この手の何がそんなにすごいのかわかりたい」と思っちゃって。初段くらいあると、プロの解説を聞いてもある程度は理解できるらしいから、そこまでやってみるかと。そしたらこの文章の面白さを100パーセント享受できるかなと思ってさ。
――記事を読むというのが先にあったと。
杉本:競技クイズもそうで、東大クイズ王の伊沢さんの原稿を編集するようになって、このクイズプレイヤーならではの感覚をわかりたいなあーと思って始めてみた。こっちは将棋より適正があった気がする。
結局、「ある程度のところ」までは、わりとすいすいといけるわけでさ。で、そっからが長い。何かを極めようとしている人たちは「そっから」で勝負してるんだけど、自分はそういう人たちの話を最高に面白く聞いたり、書かれたことを楽しく読めたりすればそれでいいから、1つの何かでそこまで行く必要はないんだよ。代わりにいろんなジャンルで「ある程度」まではやってみる。
――将棋を初段になるまで続けたり競技クイズを始めたり、そういった“広い範囲をある程度まで理解する”という性質はいかにも編集者って感じですね。
杉本:全部、変な人の話とか文章を最高に楽しんで受け取るためにやってることだから。会社員を始めたころなんて社内の人のSNSとかブログとかも見つけられるだけ見つけて毎日読んでたよ。会話したことない人でも「何々さんは最近アレ買った人でしょ。知ってるよ」って言って「キモッ!!」ってなったり(笑)。
――(爆笑する)それ絶対記事に書きますからね。
杉本:いいよ別に(笑)。そのぐらい俺は人の日記が好きなんだよ。そして自分の日記はWebに書かないっていう安心感ね。
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