こわい話に潜む「女性への抑圧」とは? “こわい話”を解剖する(1/2 ページ)

なぜ、そのこわい話は「こわい」のか?

» 2019年08月12日 20時00分 公開
[白樺香澄ねとらぼ]

 ――私の母の友人で、北海道に住むKさんの話。

 昨年のお盆のこと。Kさんの二十歳になる一人娘が帰省してきた。大学進学で上京し、一人暮らしを始めてからはバイトや課題で忙しいからと、夏冬の長期休暇にも帰ってこず、顔を見るのは二年ぶりだった。

 空港で待っていたKさんは、久しぶりに会う娘の表情が硬く、伏し目がちで、夏だというのに黒い長袖のニットを着ているのもあってひどく暗い雰囲気だったのに驚いた。

 元々、人懐っこく明るい娘だったのだ。

 帰りの車の中でも娘はほとんど喋らなかった。

「そうだ、昔よく一緒に行ったお風呂屋さんに、久しぶりに行ってみようか」

 Kさんが後部座席を振り返り、娘がぽたぽたと大粒の涙を流していることに気づいた。

 家に着き、Kさんは言った。「何かあったなら教えて? お母さんはあなたの味方だから」

 すると娘は泣きじゃくりながら、着ていたニットを脱いでKさんに背中を見せた。

「私のこと、嫌いにならないで」

 娘の背中には、卑猥なスラングやイラスト、男の名前の刺青が、びっしり彫られていた。

 上京してすぐに付き合い始めた恋人が異常に嫉妬深い男で、浮気防止と称して無理やり、彫らせたのだという。――

 ……というこわい話は、私がでっち上げた大ウソです。サイコ男にタトゥーを彫らされた女の子は居ないので安心してください。ここからは、この“こわい話”を解剖していきます。

怖い話

白樺香澄

ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。クラブのことを恋人から「殺人集団」と呼ばれているが特に否定はしていない。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba


「整形失敗者」の物語でもある口裂け女

 前回は、怪談が「都市伝説」として長く・広く語り継がれるために必要な条件のひとつが「多くの人が共感する教訓性を含んでいること」だと紹介し、1979年の「口裂け女」譚の流行には、「受験戦争」へのネガティブな世論が反映されていたのではないか……という話をしました。

 「口裂け女」にはもうひとつ、見逃せない要素が含まれています。

 それは「女性への抑圧」という、この手の都市伝説にたびたび見られるプロットです。

 「口裂け女」の正体はしばしば「美容整形手術に失敗した女性」と説明されます。

 ここには、「美容整形」に対する不信感と嫌悪感が反映されています

 美容整形に批判的な人の常套句に、「親からもらった体を傷つけるなんて」というのがあります。実はこの言葉のルーツは儒教で、『孝経』巻頭に「身體髪膚、之れを父母に受く、敢へて毀傷せざるは、孝の始なり」とあります。

 2018年に大阪樟蔭女子大学の松下戦具氏が発表した質問紙調査の結果によれば、上述のような「道徳的信念」は、回答者が美容整形に否定的な感情を抱く、最も重要な因子となっています

 「整形=親不孝=悪」という、クラシカルな家父長制に根差した「道徳観」は、今日においても多くの人に内面化されており、「口裂け女」譚にもそれが教訓として織り込まれているのです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
先週の総合アクセスTOP10
  1. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  2. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  3. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  4. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  5. 田代まさしの息子・タツヤ、母の逝去を報告 「あんなに悲しむ父親の姿を見たのは初めて」
  6. 「遺体の写真晒すのはさすがに」「不愉快」 坂間叶夢さんの葬儀に際して“不適切”写真を投稿で物議
  7. 大友康平、伊集院静さんの“お別れ会”で「“平服でお越しください”とあったので……」 服装が浮きまくる事態に
  8. 妊娠中に捨てられていた大型犬を保護 救われた尊い命に安堵と憤りの声「絶対に許せません」「親子ともに助かって良かった」
  9. 極寒トイレが100均アイテムで“裸足で歩ける暖かさ”に 今すぐマネできるDIYに「これは盲点」「簡単に掃除が出来る」
  10. 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」