特集
» 2019年08月15日 20時00分 公開

ホラーは「因果応報」よりも「理不尽」の方が怖い? “こわい話”を解剖する(2/2 ページ)

[白樺香澄,ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

90年代を境に変わってきた「日本の怪談」

 ところで三宅氏は、こうした「因果が存在しないこわい話」は、決して日本の伝統的な怪談の主流ではなかったと指摘します。

 日本三大怪談と言われる「四谷怪談」「皿屋敷」「牡丹灯籠」を見ても、前者2つは非業の死を遂げた人物が怨霊となって加害者を祟(たた)るというストーリーですし、「牡丹灯籠」は生者と死者の恋愛を描いたいわば異類婚姻譚。いずれも、祟る側と祟られる側に密接な関わりがあり「祟られても仕方がない」だけの理由を有しています。

 小中氏は前掲『ホラー映画の魅力』で、寄席などでの口伝の怪談では因縁=分かりやすい「祟られる理由」を織り込むことは、聞く側が物語に「納得」し、「そういうことが起こってもおかしくない」とリアリティを感じてもらうためのテクニックとして有効だったのではないかと考察しています。

 他の要素でリアリティを担保することができれば、諸刃の剣である「因縁」はあえて取り入れる必要がないと、小中氏ら「Jホラー」の作り手たちは考えたのでしょう。

 「女優霊」(96年)を経て「リング」(98年)より始まった「Jホラーブーム」を、こうした「小中理論」に即した「不条理なこわい話」が、因果応報譚的「怪談」に取って代わったパラダイムシフトだと捉えるのならば、それが広く受け入れられたのが「1995年を経験した後の日本」だったことが重要であるはずです。

 つまり、阪神大震災と地下鉄サリン事件。天災と無差別テロという、いずれも被害を受けた個々人に「なぜ自分なのか」の答えを与えない“巨大な不条理”を日本人が経験したことが、「最もこわいことは何か」という質すらを変えてしまったのではないかと思うのです。

 「世界は不条理にあふれている」という気づきは、今まで語ってきたとおり、とってもこわいことです。しかし、絶対に必要なものです。

 「公正世界誤謬」という言葉があります。人は、「公正な世界」=「真面目に頑張って生きていれば報われるし、ひどい目に遭うことはない」という幻想を信じておきたいあまり、時に、理不尽な被害に見舞われた人に対して「その人に原因があるんだろう(だから自分は大丈夫なんだ)」という態度を取ってしまうことがあります。

 「過労死する前に会社辞めれば良かったんじゃないの?」

 「男を刺激するような恰好をしてたらレイプされても仕方ない」

 「いじめられる側にも悪いところはあるんじゃないか?」

 「世界の不条理」に対し、被害者に責任を押し付け「だから世界は変わらず公正なのです」と優しく語りかけてくる人がいます。

 注意してください。被害者の非を問う言説を疑ってください。自分が安心したいがために、暴力の犠牲になった人を傷つけてしまっていないか、私たちは立ち止まって考えなければなりません。世界は不条理で、こわいものに溢れているのですから。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10

  1. /nl/articles/2205/09/news144.jpg 誰にもバレずに20年 別荘を解体中にバスルームから“とんでもないモノ”が見つかる 「わけがわからない」と困惑
  2. /nl/articles/2205/23/news131.jpg ジャガー横田、愛車・BMWが高速手前でエンスト 九死に一生も原因不明の故障に「新車でまだ一年半なのに…」
  3. /nl/articles/2205/23/news185.jpg 中村江里子、174センチの長女&181センチの中学生長男に驚く声 「足ながっ!!」「モデルになれそう」
  4. /nl/articles/2205/23/news105.jpg キンコン西野、“勝手に出された婚姻届”にまさかの展開 証人欄にはお世話になっている「森田一義って名前が」
  5. /nl/articles/2205/23/news158.jpg 「チコちゃん」マナー講師が炎上で、エガちゃんの株が上がってしまう 「エンタメの見本」「エガちゃんはやっぱり偉大」
  6. /nl/articles/2205/23/news128.jpg ドワンゴ、「ゆっくり茶番劇」商標問題への対応策発表 商標権の放棄交渉や独占防止のための「ゆっくり」関連用語の商標出願
  7. /nl/articles/2205/22/news047.jpg Blenderで作ったパンケーキがなんかおかしい 作者も「なぜ…」と困惑するナゾ挙動に「電車で吹いた」「一生笑ってる」の声
  8. /nl/articles/2205/23/news025.jpg モッフモフの大型犬と娘が「すやぁ……」 大きなワンコに包まれ、添い寝する光景に「幸せな時間」の声
  9. /nl/articles/2205/23/news119.jpg 神田うの、元『プチセブン』モデルたちと“同窓会”ショット ほしのあき、SHIHOらが集合「豪華な顔触れ」
  10. /nl/articles/2110/24/news050.jpg 庄司智春、愛車ダッジ・チャレンジャーが廃車に ガソリンスタンドで炎上、ボンネットから発煙し「やばい」

先週の総合アクセスTOP10

  1. 人気動画ジャンル「ゆっくり茶番劇」を第三者が商標登録し年10万円のライセンス契約を求める ZUNさん「法律に詳しい方に確認します」
  2. 華原朋美、“隠し子”巡る夫の虚言癖に怒り「私はだまされて結婚」 家を飛び出した親に2歳息子も「もうパパとはいわなくなりました」
  3. フワちゃん、指原莉乃同乗のクルマで事故 瞬間を伝える動画が「予想の10倍ぶつけてる」「笑い事ではない」と物議
  4. 「ゆっくり茶番劇」商標取得者の代理人が謝罪 「皆様に愛されている商標であることを存じておらず」「爆破予告については直ちに通報致しました」
  5. YOSHIKI、最愛の母が永眠 受けた喪失感の大きさに「まだ心の整理ができず」「涙が枯れるまで泣かせて」
  6. 「ディ、ディープすぎません?」「北斗担、間違いなく命日」 “恋マジ”広瀬アリス&松村北斗、ラストの“濃厚キスシーン”に視聴者あ然
  7. 有吉弘行、上島竜兵さんへ「本当にありがとうございますしかなかった」 涙ながらの追悼に「有吉さんが声を詰まらせるとは」
  8. 岩隈久志、高校卒業式でドレスをまとった長女との2ショットが美男美女すぎた 「恋人みたい」「親子には見えません」
  9. キンコン西野、勝手に婚姻届を出される 「絶対コイツなんすよ」“妻になりかけた女性”の目星も
  10. 子猫のときは白かったのに→「思った3倍柄と色出た」 猫のビフォーアフターに「どっちもかわいい!」の声