若者の政治離れの理由は「わがままを言わない」から? 社会学者たちの“わがまま”入門 (1/2)
「わがまま」は悪いことじゃない。
「わがまま言っちゃいけません!」このセリフを親に言われて育ったという人、多いのではないでしょうか。浮きそう、ひとりだけズルい、自己中……何かと悪いイメージの強い「わがまま」。その価値観をさっそうと塗り替えてくれる1冊が、社会学者である富永京子さんの新著『みんなの「わがまま」入門』です。
どうして社会運動は近寄りがたいのか、なぜ私たちは意見を言うことに抵抗感をもってしまうのかを、“遠い”社会運動ではなくて、「オフィスの冷房が寒すぎるから、温度を上げてほしい」 「売店のパンの種類を増やしてほしい」といった日常の「わがまま」の例から考えています。
本書の発売を記念して、著者の富永さんと、『民主主義のつくり方』『未来をはじめる』などの著者で政治学者の宇野重規さんのトークイベント「『わがまま』時代の民主主義」が8月7日に下北沢B&Bで開催されました。意見を主張するのは恥ずかしい、選挙の度に気が重くなる……そんなモヤモヤに効くトークが繰り広げられました。
政治=「えらい大人が決める、自分より困ってる人のためのもの」?
『みんなの「わがまま」入門』と宇野さんの『未来をはじめる』には、中高生向けの講義内容を書籍化した、という共通点があります。大学教授としても多くの学生と触れ合う2人は、日々「声を上げてもらう」むずかしさに直面しているそうです。
宇野「男子は発言をしてくれるけれど、実は自分の知識をひけらかしたいだけということも多いんです。授業で触れていないことばかり質問したり、知識合戦になってしまう」
富永「男子学生は賢いことに屈託がないですからね」
宇野「一方、女子学生は空気を読んでオズオズしてしまいがちで。次第に家での自分の扱われ方などの悩みを話してくれるようになり、安心しました」
授業の中で意見を言わない生徒が勉強をしない子かというと、決してそうではありません。
富永「真面目な子や、社会的な事柄に関心がある子ほど『すべてを把握していない怖さ』『間違いを言ってしまう恥ずかしさ』から声を上げることをためらってしまうように思います」
先日の参議院選挙でも10代・20代の投票率が低いと問題になりました(10代は31.3%、20代は35.6%)。これも原因は同じで、「こんな中途半端な知識しかない私が投票するのは申し訳ない」と躊躇(ちゅうちょ)してしまう人が多いというのです。また生徒からは、「政治は自分より偉い大人が決める、自分より困ってる人のためのものだ」という意見も出たそうです。
富永「今社会が若者にするべきことは『政治に関心を持たせる』ことと考えられがちですが、まずそのために『自分のためにわがままを言っていい』と理解してもらうことが必要だと思っています」
私も上司や親の顔色を伺って、つい気に入られそうな回答をしてしまうことがあります。でも、政治や社会についての問いに“正解や答え”は存在しないわけですから、そもそも間違ってもいいはずなんですよね……。
政治の話をする人、意識高い説
政治のことをもっと知ろう! と言われたときに私たちが感じてしまう「ウッ」というためらいは、玄関の前で押し売りをされた時によく似ている――と宇野さんは語ります。意識の高い人が、自分に必要のない主張を押し付けてくるもの……啓蒙活動を「上から目線」なニュアンスで受け止めている人は多いかもしれません。
宇野「日本では『啓蒙』という言葉が”優れた知識人が遅れた民衆を引っ張る”というニュアンスで訳されてしまいがちですが、実際は”各個人の中にある理性や知性を使えるようにしてあげる”こと。上から下に何かをインプットするという意味ではなく、元々その人が持っている勇気をわかせてあげることなんです」
富永さんは「何かに反論する際に立派な対案が含まれている必要はなく、とりあえず嫌なことを嫌だと言ってみることが大事。わがままのハードルを下げていきたい」と語りました。
不真面目デモ講座
宇野さんは、政治思想史の専門家としてフランスの政治思想家トクヴィルの研究をしています。2002年に研究の一環で訪れたパリで、社会運動観のパラダイムシフトとなる出来事に遭遇しました。
ソルボンヌで散歩をしていたら、道の向こう側から中学生くらいの女の子たちがキャッキャと歩いてきたそうです。楽しそうに遊んでいるなと思って眺めていたら、近付いてくる彼女たちが持っていたプラカードには”Le racisme Non”の文字が。なんと「反レイシズム(人種差別反対)」デモの真っ最中だったのです。あまりに楽しそうだったので後日別のデモに参加してみたところ、ラップ、ダンス、お芝居、歌……行進はエンターテイメントであふれかえっていました。通りの家がトイレを貸してくれたり飲み物をくれたりと、街一体となってお祭りに参加している感覚に衝撃を受けたといいます。
一方富永さんは、社会運動の研究者として一度は実際のデモに参加してみなければ、と行動した際の息苦しさを吐露(とろ)しました。そのデモは新宿のアルタ前から200人規模でスタートしましたが、当日ホテルで友人とランチをする約束があり、途中で抜けなければいけませんでした。「デモを抜けて遊ぶなんて、裏切り行為だ。誰かに見られたら社会運動研究なんてもうやめないといけない……」そう思ったと、笑いまじりに語ります。日本ではまだまだ、デモは「真面目にやらなきゃいけない」という思い込みが根強く残っています。
肩ひじをはらず、声を上げたくなった時だけ。タピオカを飲みながら、友達とおしゃべりしながら。勇気を出して、楽しく不真面目な社会運動をやってみる必要がありそうです。
家庭内での「わがまま」入門
多くの人にとって最も身近で小さな社会の単位、それは家族。家庭内で「わがまま」を言うことの難しさについて、富永さんは母親との関係について語りました。
富永「私は子供の頃、母親に『なんで普通にしてくれないの?』と叱られて育って。大学に入って女友達とお泊まり会に行くといったとき、『ああやっとこれで普通になってくれた』と言われたんです。どうしても子供は、親の期待を自分の中に引き受けようとしてしまいますよね。私も、その時は『やっと母に認めてもらえたかな』と思いました」
宇野「先日富永さんと上野千鶴子さんがトークショーをされた際は、親から押し付けられる『普通にしなさい』という同調圧力から解き放たれるべきだという『脱・洗脳』がキーワードになっていましたね」
富永「はい。あの時は上野先生の手前『脱・洗脳』できたと言ってしまいましたが、実際はそれこそ、母でなく、上野先生の期待に応えてしまっただけで、まだ脱せていないかもしれません(笑)」
親が子に普通でいろと指示することと、親が子に「太った」「服が変」など”いじり”とも取れる発言をしてしまうことの原因は同じであると富永さんは言います。それはどちらも、家族を「自分とは異なる個として認め尊重していない」ことを意味します。
富永「『その発言を、果たしてよその家の人にも向けられるか?』と立ち止まって考えて欲しい。このお願いも十分、家庭で実践すべき『わがまま』と言えます」
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