「どれだけ研鑽を積めばウメハラの領域にいけるのか」 東大卒プロゲーマー・ときどが語るeスポーツ界の新たな課題と“最強”への道筋(2/4 ページ)

» 2019年11月02日 13時00分 公開
[イッコウねとらぼ]
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ときど:今はゲームセンターがすごい勢いで減っていて、昔のゲームセンターの空気を知らない人たちがプロになる時代になってきたんですけど……。

 あの人は……社会から「ゲーセンでゲームやってるどうしようもない奴ら」というレッテルを貼られながら腕を磨いてきて、それなのに辞めたくなくても辞めざるを得なかった多くの人たちの思いを一心に背負って、今でも第一線でやっている人。もう亡霊の……親玉ですよね。あの人の後ろには辞めてった人たちの亡霊が山ほど……まぁ辞めてった人たちも生きてはいるんですけど(笑)。

 最近の梅原さんは自分の面白いところを隠さず見せてますけど、僕にとってはすごい怖い存在です。

――……怖いんですか?

ときど:僕は、強いキャラクターを使って簡単で強い行動をとって「勝つことだけが全てじゃないか」と思い込んでゲームを続けていて、美学やこだわりを持って戦っていたプレイヤーたちをどんどん辞めさせていった側なんです。梅原さんはそういう人たちの無念を背負っているように見えるので、後ろめたいんですよ。あの人は辞めていった人たちの希望になるような、“ゲームを遊び尽くして攻略で勝つ”というスタイルを貫き通しているので。

――2018年の春には「獣道」(梅原さん主催の格闘ゲームイベント)で梅原さんと10先で戦って、10-5で敗れましたよね。その際にインタビューで語った「ゲームの中でくらいは勝ちたかった」という言葉が印象に残っています。この言葉にはどういった意味が込められているのでしょうか。

ときど選手(豪鬼を使用)と梅原選手(ガイルを使用)は、2018年春に梅原選手が主催するイベント「獣道弐」で10先を行い10-5で梅原選手が勝利。試合後のインタビューでときど選手は「ゲームの中でくらいは勝ちたかったんですけど、また出直してきます」と涙ながらにコメントし、梅原選手は「ゲーム以外は全部勝ってると思うんですけど」とコメントした
なお、事前に公開されたPVで梅原選手は「やりゃあ絶対勝つから 俺が」「『君もよく頑張ったけど、そんなもんじゃないんだよ』っていうことを教えて終わりだね」と語っていた

ときど:あの人は、格闘ゲームのコミュニティーの中で最も信頼されてるプレイヤーですよ。特にコアなプレイヤーからの支持はものすごい。そんな人なので……あの10先くらいは勝ちたかったですね。自分のゲームへの取り組み方を正しいと思うために、せめて試合くらいは……勝ちたかった。

――あの対戦には気持ちを込めて臨んだと思います。今あらためて聞きたいのですが、敗因はなんだったと思いますか?

ときど:攻略差です。格闘ゲームの勝敗を決める要因は技術力、反応速度、読み合いの強さ、キャラ差などがあるんですが、ああいったルールでは攻略差以外で違いが出ないんですよ。キャラ差もあるにはあるんですが、そこはお互い納得した上で組まれていますから。

――攻略差ですか……それはどういったところで感じたのでしょうか。

ときど:(20秒ほど黙ってから)……分かりやすいところで言うと、迷いが全くなかったんです。梅原さんのプレイに。


ときど

 2013年に梅原さんがInfiltrationと10先で戦ったとき、試合前日に梅原さんとオンラインでスパーリングをしたんです。僕、その時に「コンピュータだ」と思ったんですよ、「チートを使っているんじゃないか」と。もう全く迷いがないんです。こちらの動きに対応する行動が判断する間もなく淡々と飛んでくる。そんなプレイをされたのはそれまでに経験したことがなかった。

※Infiltration:複数回EVO王者に輝いた韓国のトップ格闘ゲーマー。2013年の「Mad Catz Unveiled JAPAN」では梅原選手と10先で対戦し、10-2で敗れている。2013年当時はときど選手と同じ豪鬼を使用していた。


 その時も「この領域まで行くのに、どれだけ研鑽を積んだのか」と考えたんですが、獣道で去年僕が戦ったときも似たような感覚になりましたね。迷いなく、自信を持ってこの戦いに臨んでるんだなと。

 こっちも迷いがない状態にはなってたんですが、向こうの攻略差の方が上を行っていたので少しづつ差が開いていったときに迷いというか焦りが出始めて……そこからはきつかったですね。

――もう1年以上たったわけですが、また梅原さんと10先で戦いたいと思いますか?

ときど:どっちの思いもあります。負けた時はすごく嫌な思いをしましたし、またあの感情を味わうかもしれないと考えると……いや、でもやっぱりまたやりたいですね。あの後、自分でも敗因を考えたんですけど、「もっといい状態で臨むことができた」と思えてしまったのが悔しかったんですよ。練習に付き合ってもらった人たちに応えられなくて、「俺はなにやってたんだろう」と。

――今なら自信があると?

ときど:ちょっとねえ……甘く見てたんで。前回。


ときど

――……やる気満々ですね。

ときど:いや、本当にそうなんですよ。Infiltration戦の前に感じたことを、あのスパーリングで感じた「人間業じゃねえな」という感覚を、もっと衝撃的に捉えるべきだったんです。自分では分かっていたつもりでも、いざガイル対豪鬼で戦ったときに、「俺は気づいていたはずじゃないか、こいつがこんなに強いということを」と思ってしまった。だから、もっとできたんですよ。

 負けたとき、悔しかったんですが「何かは分からないけど、何かが足りてないんだ」と思ったんです。ゲームってまだまだ深堀りできるんだなぁと再確認させられました。前回はせめてもっと肉薄すべきでしたね、結果は10-5でしたけど、自分の中では10-3ぐらいですよ。

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