「趣味がないから、働くことを趣味にしたかった」霞が関で20代を過ごした女性職員が、国家公務員を辞めた理由:女子と労働(2/3 ページ)
――最近、女性の働き方や抑圧についての話はよく耳にしますが、女性だけでなく社会全体で変えていかなければならない部分が大きそうですね。では、省庁の仕事で特に辛かったことは何でしょうか?
質問主意書という、国会議員が内閣に対して文書で質問できる制度があるんです。国会に立つ時間をあまり与えられない議員の方が、代わりに紙で質問できるというか。
それが、毎日たくさんくるんですよね。質問主意書が提出されると、各省庁に割り振られて、回答を文書で作るんですけど。文書って記録として残るので、正確さが求められるんです。内容もそうだし、審査があって、大臣の決裁があって、閣議決定をして、という大量のプロセスが必要で、しかもそれを1週間くらいでやらなきゃいけないんですよ。
――聞いているだけでもう辛くなってきた……。
それが1日2本とか来たりすると、もうその日は帰れない。しかも、制度上しょうがないんですが、突然降って来るんですよね。その上、朝までに資料をととのえて、省内の審査をはじめなきゃ、みたいなルールになっていたりするので……。
質問の内容も、正直「なんのためにこんなこと聞くんだろう」とか、「制度のこと、全然勉強していないんじゃないかな」と思ってしまうものもあって。時間もかかるし、他の業務もできなくなるし、自分のやっていることが無駄な時間のように感じられて辛い時もありました。
――国会全体のレベルが上がらないと、減らない無駄もあるって、かなりつらいですね……。夜通しひたすら印刷をしまくっていたというお話も耳にしましたが。
結構大きい法案を作る機会があって、条文を印刷した500ページくらいの資料を何百部も刷らなきゃいけないことがあったんですね。
こういう法案って、数が多いだけではなく、会議の直前まで条文の修正があるので、会議の直前まで原稿が決まっていなかったりするんです。だから、会議の直前にみんなで集まってコピー機を回したりして。
案文って公布されちゃうと、その通り効力が発生しちゃうから、ミスがあってはいけないものなんです。落丁とかもあってはいけないし、毎回落丁がないかページ数をチェックする、みたいな作業もあって……休日の夜に、1人でチェックしていたこともありましたね。
ある時、次の日が友達の結婚式で、夜中に印刷しきらないと、会議に間に合わないから行けなくなっちゃう、っていうことがあって……。印刷もタダじゃないのにこんなに刷って、何やってんだろうなと。とにかく感情を無にしながら資料を作っていました。
――壮絶と言っていい働きぶりですね……。頑張っていた省庁での仕事を辞めようと思ったのは、どういったきっかけだったのでしょうか?
仕事をしているうちに、自分の仕事である “制度を作る”ことが、自分に向いてないんじゃないかと思うようになったんです。
国民のために制度を作る仕事は意義があると思っていたし、意義があると自分が理解しているからこそ、できると思っていた。でも、実際に働いてみて、わからないと思うことが本当に多くて。
自分には、制度がどう現場で運用されていくかっていう想像力とかが足りてないんじゃないか、ということがずっと不安でした。まだ気づけていない論点があるんじゃないかな、とか。世の中の人に広く影響のある仕事なので、細かなことも正しく判断しなければいけないため、そうした不安が本当にたくさんあって。
時間もないし、人もいないから、実際に現場にいなくても、頭の中で考えて判断しなきゃいけないことたくさんあるんですけど、それがちゃんとできる人もいるなかで、自分にはできなかった。それで、向いてないんだなって思いました。私、実際に自分で動いてみないとわからないタイプなんだなって。
――仕事の大変さではなく、自分に適正がないと思ったから辞めたんですね。
正直無駄な仕事も多いし、残業代とかも全然でないけど、それは国の予算で最初から額が決まっていたり、しょうがない部分多いので。とにかく、職場の人は良かったです。省庁職員は批判されることも多いけど、みんな必死に頑張っているし、もっと無駄が減って、働きやすくなって、志望者が増えてくれるといいなと思っています。
――今は違うお仕事をされているということですが、省庁を辞めてから生活に変化はありましたか?
実は、公務員をやめるって決めたときから、自分の好きなものを見つけようと思ってヨガをはじめました。まだ、ハマるという感じはありませんが……。
以前は、仕事を趣味にしようと思っていましたが、今は、やっぱり仕事以外に好きなものがあったほうがいい、と思うようになりました。仕事は生活をする上で必要なものなので、それ以外にも自分の場所があったほうがいいな……と。
実際に社会人になったことで、仕事でしんどいことがあっても、没入できる何かがあるといい切り替えになるんだろうな、ということが分かったというのもあると思います。 以前は、趣味がない自分を「何もないなぁ、つまんないなぁ」と感じていて、趣味がある人をただ羨ましいと思っていました。でも、今はそういった憧れに加えて、現実的に自分を救う術としても趣味って必要なんだな、と思ってます。
また『リボーン』くらい、今の自分が全力でハマれるものが現れるといいんですけどね(笑)。
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