アニメ映画「幸福路のチー」を何としてでも見てほしい「3つ」の理由 空想好きな少女時代と、30代になった私(2/2 ページ)

» 2019年12月01日 10時30分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
前のページへ 1|2       

 誰でも多かれ少なかれ、人生を振り返って「うまくいかなかった」「こんなはずじゃなかった」と思ってしまうことがあるはずだ。この「幸福路のチー」では、過去と現在を並行して描く特殊な構成を持って、その普遍的な葛藤や後悔を浮かびあがらせる、ある意味では残酷な作劇になっている。

 しかし、物語は最終的にそのままならない人生を、思いもしなかった形で肯定してみせる。それは激動の時代の台湾を過ごした主人公に限らず、世界中の全ての人が共感しうる、これから未来を生きる希望がもらえる結末であった。

advertisement

 全ての物語が集約する、涙腺決壊必至のラストを見届けてほしい。


4年の歳月をかけた労作

 この「幸福路のチー」の製作期間は約4年、製作費は約1億8000万円だそうだ。監督のソン・シンインは、まず12分の短編をわずか200万円の予算、大学を卒業したばかりの無名のスタッフたちと共に作り上げた。長編映画化が決まってからは、ソン監督は貯蓄を崩し方々に借金をして制作費を工面。画風も意見も主張も異なるスタッフたちを統率する監督業は、並大抵の苦労ではなかったという。

 本編を見れば、その“労作”ぶりは間違いなく伝わる。シンプルにも思える絵柄ながら、キャラクターたちは生き生きと動き回り、現実のシーンはリアルに感じられ、空想のシーンはファンタジックで楽しい。何より、1人の女性の半生を111分という上映時間をたっぷりと使い追体験でき、“ぜいたくなアニメ映画を見た”という多幸感が得られるのが、この「幸福路のチー」なのだ。

 同作は東京アニメアワードフェスティバル2018ではグランプリを受賞している他、2019年アカデミー賞長編アニメーションの25作品にも選出されるなど、すでに各所で評判となっている。その評価を信用して、とにかく劇場に足を運んでほしい。

 なお、本作は日本語吹替版も上映されており、安野希世乃、LiLiCo、高森奈津美、沖浦啓之(「人狼 JIN-ROH」「ももへの手紙」の監督で知られる)、宇野なおみ(「ホーホケキョ となりの山田くん」の“のの子”役など)といった豪華なキャスティングとなっている。

advertisement
『幸福路のチー』日本語吹替版ダイジェスト

おまけ:海外アニメ映画をもっと知ってほしい!

 最後になるが、2019年は海外製のアニメ映画が小規模であるがいくつか劇場公開(または配信)され、高い評価を得ていたことをご存じだろうか。ここでは筆者が厳選した、絶対に子どもから大人まで楽しめる3本の作品を紹介する。

「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」

 中国製作。クールだけど間の抜けている美青年と、ツンデレでかわいいケモノの男の子が冒険するロードムービー。まるで「ドラゴンボール」や「NARUTO」のような大迫力ハイスピードアクションも満載。

「羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)」予告編
アクションも満載

「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」

 フランス・デンマーク合作。14歳のお嬢様が行方不明になった大好きなおじいちゃんを探すために北極点を目指す冒険アニメ映画。その旅路がガチ過酷であるがゆえの感動がある。

advertisement
「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」予告編

「クロース」

 スペイン製作。Netflixで配信中。自己チューでだらしないおぼっちゃまが争いが絶えない村で手紙配達員の仕事に就く。“サンタクロースの誕生譚”であり、“本当に欲のない行動は人の心を動かす”というメッセージも秀逸。

「クロース」予告編
3DCGと見紛う立体感だが、2Dアニメである



 この他にも、フランスの「ディリリとパリの時間旅行」、イギリス・ルクセンブルク合作の「エセルとアーネスト ふたりの物語」、フランス・ベルギー・カナダ合作「アヴリルと奇妙な世界」なども公開されている。Netflixで11月29日より配信開始となったフランスの「失くした体」や、12月20日公開のアヌシーで観客賞に輝いたアイルランド・カナダ・ルクセンブルク合作「ブレッドウィナー」も見逃せない。

 ぜひ、海外アニメ映画の今を知るという意味でも、「幸福路のチー」をまずは見てほしい。未知の歴史とぜいたくなアニメーションが、忘れがたい映画体験になるはずだ。

ヒナタカ

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/07/news042.jpg 「マジで天才」 無印良品から新発売の“350円文房具”に絶賛の声相次ぐ 「便利すぎる!」「これはいい」
  2. /nl/articles/2503/07/news174.jpg 「ウソやろ」 松屋の“530円丼”、衝撃的なビジュアルにネット騒然 「コレで良いんだよ丼」「開き直り感がすごい」
  3. /nl/articles/2503/06/news032.jpg ミス東大が、ルワンダの理容店で「おまかせ」と言ったら…… 衝撃ビフォアフが1000万表示「いかついいいい笑」「合成かと思った!!!」
  4. /nl/articles/2503/07/news043.jpg “小5年で170センチ”&“天然パーマ”の女性、33歳になると……? 「親を恨んだ」果てにたどり着いた“現在”に感動の声 「泣ける」「刺さった」
  5. /nl/articles/2503/06/news198.jpg 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシ、配布企業が謝罪…… ヤマト運輸が「配布中止」求めていた
  6. /nl/articles/2503/04/news040.jpg そうはならんやろ ヤマト運輸公式とLINEで遊んでいたら…… 突然訪れた“予想外の展開”に28万いいね
  7. /nl/articles/2503/07/news048.jpg 「騒がしい空」を1文字で表現したら……? 430万表示の“日本人なら読める文字”に悩む人続出 「1日考えた」「これはすごい」
  8. /nl/articles/2503/04/news027.jpg 壊れて捨てるしかないバケツをリメイクしたら…… 想像もつかない大変身が830万再生「想像力がすごい」【海外】
  9. /nl/articles/2503/06/news045.jpg 雨の夜、ひとりでさまよう子犬を発見→一時的な保護のつもりが…… 幼い息子の一言で決意「何回見ても泣きます」
  10. /nl/articles/2503/06/news036.jpg “156センチ80キロ”の50歳女性、努力し続けて半年後…… “衝撃の大変身”に「別人レベル」「こんなに変わるとは!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 40代女性、デートに行くため“本気でメイク”したら…… 別人級の仕上がりに「すごいな」「めっちゃ乙女感出てる」
  3. 30年以上前の製品がかっこいい ソニーの小型ラジオのデザインが「すごい好き」「いまでも通用しそう」
  4. 幼くてかわいらしい兄妹が4年後…… 同じポーズで撮影した“現在の姿”に「これはあかん」「よすぎて声出ました」
  5. 「早く買えば良かった」 無印の1490円“本格せいろ”が690万表示の反響 「ほぼ毎日使ってる」「まっっじでいい」と感動の声
  6. ごはん炊き忘れた父「いいこと閃いた!」→完成した弁当に爆笑「アンタすげぇよ!」 息子「意味ねぇことすんなよ」
  7. 使わなくなった折りたたみ傘→切って縫うだけで…… 驚きのアイテムに変身「こうすればよかったのか!」「見事」【海外】
  8. 高3女子「進学を機にイメチェンしたい」→美容師に依頼すると…… 仕上がりが「すげえええ」「鳥肌立ちました」と1000万再生
  9. とんでもない量の糸をくれた先輩→ママがお返しに作ったのは…… 完成した“かわいいアイテム”に「絶対喜ばれるやつ!」
  10. 「洗濯機が壊れた!」→修理を頼む前によくよく調べてみると…… 「えぇ~」“まさかの原因”が200万表示「何度もやりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  4. 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
  5. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  6. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  7. 希少性ガンで闘病中だったアイドル、死去 「言葉も発せないほどの痛み」母親が闘病生活を明かす
  8. “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
  9. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  10. 芸能界引退した「ショムニ」主演の江角マキコ、58歳の近影にネット衝撃「エグすぎた」 突然顔出しした娘とのやりとりも話題に