世界文化遺産都市を駆け巡る「かわいいプラハの路面電車」ディープな歴史とその魅力に迫る(2/3 ページ)

» 2019年12月06日 12時00分 公開
[新田浩之ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

プラハ路面電車の歴史:はじまりは馬車鉄道から

 プラハ市電が開業したのはオーストリア=ハンガリー帝国統治下の1875年のこと。プラハ市北東にあるカルリーンから国民劇場まで「馬車鉄道」が開業しました。プラハ市交通博物館には1886年以降に使われた車両が展示されています。

 上半分が外気にさらされるオープンエアのトロッコ型客車であることから「夏の車両」と呼ばれましたが、なぜか涼しい日に運行されていたようです。その後、路面電車への対応工事を受け1925年まで活躍しました。

photo プラハ市電は1875年に馬車鉄道として開業した

 電気運転は1891年に開始しました。第一次世界大戦前に製造された電車の中で独特な存在が「サロンカー200号」です。

 サロンカー200号は同時期に製造された車両と比べると、側面の窓が大きいのが特徴。主にツアー向けの貸切列車として使われ、「市長」というあだ名で1970年代初期まで活躍しました。200号は1900年のパリ万博に出展され、1951年まで代々のプラハ市長を乗せました。そんな経緯から市長と名付けられたと思われます。

photo 「市長」と呼ばれたサロンカー200号

 第一次世界大戦が終わり、チェコは「チェコスロバキア共和国」として独立しました。独立後、多くの2軸車(車軸が2本、車輪が4つの車両)が製造されました。

 付随車(動力を持たない車両)を引っ張る「電動車(モーターを備えて自走できる能力を持つ車両)」の2294号は1932年に登場しました。なお、第一次世界大戦から第二次世界大戦の間に製造された車両は観光用として、今なお41系統に使われています。

 この車内はうっとりしてしまうくらいにレトロです。シートは木製。2軸車特有の揺れが直に伝わってきます。

photo 第二次世界大戦までは2軸車が主力だった
photo レトロ感たっぷりの車内。41系統には第二次世界大戦以前の車両も未だ使われている

チェコ市電の代名詞「タトラカー」の歴史と変遷

 チェコはドイツ労働者党(ナチ党)政権下のドイツに併合されますが、第二次大戦後は再びチェコスロバキアとして独立を回復します。しかしチェコスロバキアは共産主義陣営に組み込まれ、ソビエト連邦の衛星国家として歩むことになります。

photo 電車に掲げられたチェコスロバキアとソビエト連邦の国旗

 戦後復興により、プラハ市電の需要は急増。これまでの単車では需要に追いつかない状況となります。そこで登場したのが米国のPCCカーの技術を取り入れたボギー車「タトラカー」です。

 PCCカーは1930年代に米国の電気鉄道社長会議委員会(Electric Railway Presidents' Conference Committee)によって開発された路面電車車両およびその仕様・規格。高加減速、低騒音が売りで、直角カルダン駆動などの新技術を採用していました。運転台は自動車と同じく足踏みペダル式です。

photo 「タトラカー」は米国PCCカーの技術を取り入れて開発された

 ところで第二次大戦後といえば、米国の中心とする自由主義陣営(西側諸国)とソビエト連邦を中心とする共産主義陣営(東側諸国)が激しく対立した時代です。東西冷戦時代と呼ばれました。共産主義陣営だったチェコスロバキアがなぜ米国の技術を採用できたのでしょうか。

 タトラカーは、終戦直後からチェコのCKDタトラ社と米国の間で交渉が進められ、PCCカーのライセンス生産に関する契約が成立したのは1947年のことでした。その翌年の1948年にチェコスロバキアで共産党一党支配体制が確立し、冷戦が激化します。契約はギリギリセーフでした。

 初代タトラカー「T1形」は1951年に登場しました。米国PCCカーの窓は上部が固定されている”バス窓”で知られていますが、T1形は通常の二重窓でした。初代のT1形は何と1980年代後半まで使用されました。ちなみに形式の”T”は、タトラの頭文字ではなく「電動車=Triebwagen」を意味します。

photo 初代「タトラカー」は1980年代後半まで活躍した

 T1形の改良系にあたる「T2形」は1955年に登場。総計700両以上が製造され、チェコスロバキアだけでなくソビエト連邦にも納入されました。

 当時チェコスロバキアは共産主義陣営の経済協力機構「コメコン(Council for Mutual Economic Assistance/経済相互援助会議)」に所属していました。国内の生産物は共産主義国へ優先的に輸出されたのです。

photo タトラカー第二世代であるT2形。1955年に誕生した

 タトラカーの代表車が「T3形」です。T3形は1960年に登場し、約2トンの軽量化に成功しました。「タトラカーの決定版」として1989年まで約1万4000両が製造されました。

 プラハ市交通博物館にある車両は「登場時」のスタイルで展示されています。2019年現在はLED式の系統行先表示機が設置され、ドア横の小さな系統板は撤去されています。

 23系統には登場時に近い形のT3型が運行しています。その車内は駅のベンチのようなプラスチックシートが1席ずつ2列並んでいました。

photo 約1万4000両が製造されたT3形
photo 車内改造を受けたT3形も多い

 このT3形も共産主義陣営の諸国に輸出されました。例えばラトビア共和国のリガでは、集電装置がパンタグラフからトロリーポールに変更されたT3形が活躍しています。

 実は日本へも「土佐電気鉄道(現とさでん交通)」(関連記事)に譲渡されました。しかし残念ながら本格的な営業運転に就くことなく廃車となりました。2019年12月現在、タトラカーT3形が走っている日本に最も近いの都市は「北朝鮮の平壌市電」です。

photo リガ市電の車両はトロリーポールが特徴

 一部のT3形は低床式に改造されています。塗装はまるで金太郎(の前掛け)のような色で、遠目からでも目立ちます。

photo 金太郎カラーのT3形は中央が低床式に改造されたもの。色合いはロマンスカーSEにも似ていて親近感沸きまくり

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  6. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた