真価を発揮するのは1年に1度だけ…… お坊さんが作った超ニッチなアプリが「じわる」「確実に誰かを救っている」
全国の除夜の鐘を鳴らすお坊さんに届け……!
大晦日に梵鐘(ぼんしょう)を108回つく「除夜の鐘」。その1年に1度だけ行われる行事でのみ、真価を発揮する超ニッチなスマホアプリ「JoyaTimer」がをご存じだろうか? お坊さんによるお坊さんのためのアプリ……!
「JoyaTimer」とは、すなわち除夜タイマー。除夜の鐘を鳴らすタイミングを知らせるためのタイマーアプリという、お坊さん以外の人は考えもつかないアプリで、作者の浄泉爺(Daishin Ueyama/@JyousenJii)さんは山口県長門市にある「鯉原山 浄泉寺」の住職さんです。
さらに「とても助かりました」と寄せられた満点レビューも、もちろんお坊さんからのもの。大晦日当日は、慌ただしい中で鐘をついていくと“数え忘れ”が気になったりするようで、その不安が解消されたとのこと。ちなみに「108回が終わった時に何か起こるのかな?と皆期待して画面を見て」いたそうで、画面に何か出てきたら面白そうという意見も。なんだか和むと同時にじわじわくる。
アプリの使い方は、「鐘をつく回数(デフォルトは108回)」と「鳴らす時間の間隔(デフォルトは20秒)」を設定すれば完了。右下のスタートをタップすれば、画面に鐘をつくタイミング(カウントダウン)と残り回数が表示され、正確についていくことができます。また「除夜の鐘モード」をオンにすると、左下に翌0時ちょうどにつき終わるための開始時刻が表示され、回数と間隔の設定によって時刻が変化します。
今回Twitterユーザーの投稿がきっかけで話題になり、「クスッとくる」「おもしろい」といった反応から、実用性のある内容に「超ニッチだけど確実に誰かを救っている素敵なアプリ」「素晴らしい」といった声も寄せられ、注目を集めています。
そんな便利でユニークな“除夜タイマー”を作ったお坊さん、浄泉寺の浄泉爺(Daishin Ueyama)さんに詳しい話を伺いました。
――開発のきっかけを教えてください
浄泉爺さん:除夜の鐘は近所の方などと一緒に手分けしてつきますが、その際つくタイミングを考える必要があります。自坊(※鯉原山 浄泉寺)では、23時24分20秒より20秒間隔でつけば新年0時につき終わるため、カウント係を置いて、電波時計とソロバンでカウントしていました。本堂内から20秒ごとに「ハイ!」と大声を上げてついてもらっていましたが、ご高齢の方が「ハイ!」の掛け声が聞こえないとか、カウント係が雑談で失念とかあり、「途中抜けたりしたかも?」といった疑念がよく起こりました。そのため、見た目にもわかりやすいタイマーがあれば、複数人で行う除夜の鐘がスムーズにできると考えました。ちょうどiPadなどが出た頃で、機運を感じました。また、寺によってつく間隔が30秒ごととか40秒ごととかまちまちであるようでしたので、開始時間の計算が自動でなされると便利だろうとも思いました。
――アプリ開発は独学ですか? それともなにかしら前職の経験からですか?
浄泉爺さん:C言語でのプログラミングは、大学の授業で学び、その後、理系の研究者としてシミュレーションなどのコードは書いていました。ただし、iOSプログラミングで必要となるUI等の設計はまったく知識がなかったので、Stanford大学のiTunesUを見ての独学でした。C言語等のプログラミングの経験が前提ですが、わかりやすい授業ですぐに理解できました。
――話題になってからの反響、ダウンロード数などに変化はありましたか?
浄泉爺さん:翌日32個の販売と、機能制限、広告付きの無料版が数百ダウンロードされました。除夜の鐘で実際に使うには、iPadで使えてランドスケープ表示できる有料バージョンが良いですが、お試しに無料版があるのでそちらをとりあえずということではないでしょうか。使い方ビデオを話題になる数日前に作成しましたが、かなり見られていて、面白く思ってもらえているようです。
また、当日にAbemaTV内のニュース番組「AbemaPrime」で紹介してもらいました。そこで、7年間で3000円程度の収益しかないといったツイートを紹介していただきましたが、その後そちらのツイートのいいね等が伸びています。こういう、素人ディベロッパーの苦悩を知ってもらえるきっかけになればと思います。特に、無料にはしづらいアプリ(例えば本例のように、一年に一度しか使わないものは広告モデルは難しい※1)があって、「120円は高い」と言われるともうどうしようもないので、開発する側からすると、趣味と割り切るか撤退するかであろうと思いますので。
※1:「JoyaTimer」の無料の広告版付き版も出していますが、浄泉爺さんのブログで「これは失敗だった」と語られています
――一部では除夜の鐘以外の使い方についても言及していましたが、オススメの使い方があれば教えてください
浄泉爺さん:いわゆるインターバルタイマーですが、回数をセットできるのは珍しい気がします。筋トレのインターバルトレーニングとか、最近は歩くことでもインターバルトレーニングが流行っているようなのでそういう応用もあるかもしれません。その時には、行先方角を設定して、おおよその方角で歩いてみるとか良いかも(※2)。あと音を鐘の音にして、瞑想的な用途で使えると思います。今流行りのマインドフルネスにどうぞ。点滴の間隔とかにも……など開発時には思ったこともありましたが、多分無意味でしょう。
※2:「JoyaTimer」には「コンパス(北を知らせる/対応機種のみ)」機能と、設定した場所の方角と距離がわかる機能が搭載されています
――浄泉寺さんでも除夜の鐘&キャンドルナイトが予定されているようですが、こちらではアプリお使いになられますか?
浄泉爺さん:もちろん使います。これなしでは除夜の鐘は成り立ちません。「JoyaTimer」は、除夜の鐘主催者の心の拠り所です(笑)
――昨今、除夜の鐘がうるさいとの苦情があって取りやめるお寺さんがあると報道され話題ですが、浄泉寺さんではいかがでしょうか?
浄泉爺さん:浄泉寺は田舎にありますので、人口も密集していません。今のところ、そのような苦情はもらったことはありません。
――ほかにもアプリを開発されているようですが紹介いただければ幸いです
浄泉爺さん:
- 「がまん貯金」……つもり貯金支援。Apple Watchの活用シーンを検討して作成しました。例えばジュースをがまんするというシチュエーションでは、わざわざスマホを取り出して入力などしないと考えました。使いやすいと思っています。無料。
- 「TheDLA」……パターン形成の問題に興味があるので、それに関するアプリ。海外でまとまってダウンロードされることがあります。おそらくなんらかの授業等で紹介されるとかそういったことでしょう。これはトータルダウンロード数は結構な数になると思います。無料。
――「JoyaTimer」について何かアピールがあればお願いします
浄泉爺さん:デザインは適当に考えたものですが、視認性も良く気に入っています。今のところ収録されている音色は、聞き逃しにくいという意味での「電子音」と「電子音での鐘の音」「浄泉寺の鐘の音(音色が悪い)」ですが、今後、より良い音の鐘の音を録音させてもらって追加しようかと思います。何か別の活用法がありましたら、コメントに書いてもらえると助かります。
今年もあとわずかで年越しですが、もし毎年の除夜の鐘で「ちゃんと108回つけた?」と心配になったり、カウントする人が大変そうといった場合、「JoyaTimer」を導入すれば楽になるかもしれません。またお坊さんでない場合には、ネットで必要そうな人に届くよう拡散したり、別の使い方を生み出すことが、除夜タイマーの配信維持費に繋がり、それがどこかの寺院の助けになることでしょう。
※画像は作者(@JyousenJii)さんから許可を得ています
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