「ハスラーズ」を漫画でレビュー 「女の敵は女」じゃない、ド直球シスターフッド映画(1/2 ページ)
実際の事件を映画化。
2月7日に公開された映画「ハスラーズ」。ストリップクラブで働く女性たちが、ウォール街のエリートから大金をだまし取った――という実際の大事件。本作は、その事件について、ニューヨーク・マガジンの記者が取材した記事を映画化したものです。
舞台は2008年に起こったリーマンショック前後の混沌とした時代のアメリカです(リーマンショックについて知らなくても楽しめます)。主役はアジア系の新人ストリッパーのデスティニー。彼女は自分を育ててくれた祖母の介護のため、ストリップクラブで働くことになる……というところから物語は始まります。
自分の人生に何の希望も持っていなかった彼女ですが、トップダンサーのラモーナと姉妹のように仲良くなり、真面目に働いて稼いだお金で生活も安定するように。しかし2008年に起こったリーマンショックのあおりで、ストリップクラブの経営も悪化。生活がガラリと変化してしまいました。そんな彼女たちが立てた計画は、ウォール街の裕福な男性たちからお金を騙し取るというものでした。
主演のデスティニーを演じるのは「クレイジー・リッチ!」のコンスタンス・ウー。ベテランストリッパー役を演じるのは世界的に有名なスター、ジェニファー・ロペス。この2人の女性の出会いや友情を軸に物語は進みます。
シスターフッドど真ん中
とにかくここまで女の友情(シスター・フッド)をど真ん中に描いた作品はあったでしょうか。脚本も務めた女性監督、ローリーン・スカファリアによって女性の心情が繊細に描き出されています。特にデスティニーのラモーナに対する強い憧れや尊敬、独占欲といった気持ちを見事に表現しています。
本作が他の作品と違うところは、くだらないキャットファイトなどなしに、女性たちがスムーズに仲良くなっていくところです。
ベテランストリッパーであるラモーナは新人のデスティニーにストリップクラブで働いて生きる術を教えていきます。女と女が出会うときはまずは無駄な争いを入れたがる作品が多い中、本作は先輩であるラモーナがとにかく仲間思い。自分と一緒に働く女性たちを「姉妹」と呼んで大事にする姿に胸を打たれます。度量の広い女に痺れる!
「女の敵は女」というのはよく聞く言葉です。これまでの男性監督による映画作品の中では、女性の方が女性に対し厳しい態度を取る場面がたくさん描かれてきました。例えば、同じく貧困ゆえの犯罪を描いた作品「万引き家族」では、罪を犯した女性に対し、池脇千鶴扮(ふん)する女性警官が厳しい言葉を投げかけ泣かせてしまうシーンがあります。
しかし本作は、女性が女性へ優しい言葉をかけるところがリアルだと筆者は思います。
現実の世界でも「ストリッパーが男から金をだまし取った!」とセンセーショナルに報道されたこの事件ですが、映画のもととなった記事「The Hustlers at Scores」は違いました。困難な環境におかれたがゆえに犯罪に走ってしまった事実を描き、はっきりとした問題提起になっていると評価されています(参考記事)。
本作は弱い立場に置かれた女性の現状や心情を描いたうえで、女性同士の友情の素晴らしさを描いています。だから胸に迫るものがあるのです。
実際に被害者もいる実在の事件の映画化なので、決して痛快な作品ではありません。しかし、男性に搾取され利用されてばかりだった彼女たちが、自分の人生を自分でコントロールできることの喜びを感じていく場面には、胸がすく思いになります。
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