「“聞いた風”なことを言うな」→正しくは「利いた風」……ってホント? 近年現れたとみられる「聞いた風誤用説」(2/2 ページ)
明治期の文豪も使っていた「聞いた風」
辞書は現実の日本語をもとに編まれるものですから、「聞いた風」の用字にも実例があるはずです。これを探すのはそんなに難しくはなく、例えば『日本国語大辞典』第2版(以下、『日国』)が引いている内田魯庵の例では「聞いた風」の表記が用いられていることが分かります。
『あいあんびつく』とは何のこツたか『とろけいつく』とはどんなものだか一向夢中の先生方が聞た風に彼是云ふは大笑だ。
引用:「当世文学通」 内田魯庵(1889)/『内田魯庵全集別巻』ゆまに書房,1987年による
また、青空文庫を検索してみれば、芥川竜之介や富田常雄も「聞いた風」の表記を用いているのが分かります。これらも誤りなのでしょうか。
「聞いた風」の表記が誤用だとする説は、「きいたふう」というときの「きく」は、耳できく「聞く」ではなく、気がきいているという意味の「利く」だから、「聞く」はおかしいのだと主張しています。これを受け入れるなら、内田魯庵も芥川竜之介も漢字を誤用しているということになります。
「聞いた風」は誤用“ではない”と主張できる理由
この説は
- (1)「きいたふう」の「きく」は気がきいているという意味だ
- (2)気がきいているという意味の「きく」は「利く」と書き、「聞く」とは書かない
という2つの主張から成っています。別々に詳しく検証すべきところですが、(2)に関してはまず正当だろうということで受け入れ、以下は(1)についてのみ検討したいと思います。
※「利く」と「聞く」は同源ではないかとも思われるのですが、現在は別語と見なされており、当然に書き分けられていますから、ここでは突っ込まないことにします。「酒をきく」というときは「利く」「聞く」どちらも使われるなど簡単な話ではないのですが……。
確かに、「きいたふう」の「きく」は、最初期には「気がきいている」という意味で用いられたようです。語源に近い意味から説明する『日国』は、「利いた風」の第1番目の意味として、「気のきいたこと。また、その人やそのさま」という語釈を示しています。
ただしこれは、用例の「きゐたふうなる男ぶり」を見ても分かる通り、現在の「利いた風なことを言うな」というときの意味とは違います。「利いた風なことを言うな」は「生意気なことを言うな」ということであって、「気のきいたことを言うな」という意味ではありません。
これが後に、「いかにもその道に通じているようなこと。また、その人やそのさま。知ったかぶり。半可通」という、マイナスイメージの意味へと変化しました。これは『日国』の2番目の意味です。ここまでくると、ほとんど現代の用法と同じです。先に挙げた内田魯庵の例もここに収められています。
最後の3番目の意味として「なまいきなこと。また、その人やそのさま」を挙げていますが、個人的には、これはあえて2番目の意味と区別しなくてもいいようにも思います。現に『広辞苑』の場合は、「利いた風」を「気が利いているさま」と「いかにも物事に通じているように気取るさま。知ったかぶりで生意気なさま。また、その人」の2つに分けています。
問題になっているのは、後者の、現代語の「きいたふう」をどのように書くかということです。この用法での「きく」の意味は、「物事に通じている」すなわち「利く」と、「知っている」すなわち「聞く」のいずれにも解釈できることが、『日国』『広辞苑』の語釈からも分かります。
現に「聞いた風」という表記がこの意味で古くから見られたことがそれを裏付けています。先に引いた『現代国語例解辞典』の「耳にして事情を知っている意で、『聞いた風』と書くこともある」という記述も、至って穏当なものであると納得できることでしょう。
いやいや、それでも語源にまでさかのぼれば「きいたふう」は「気が利いている」ということだったじゃないかと主張することもできなくはありませんが、そうなると、例えば「さかな」はもともとは「酒+菜」であって魚類のことを指したわけではないから、「さかな」を「魚」と書くのは誤用だとか、何でも言えてしまいます。
というわけで、本稿では、「聞いた風」は誤用ではないと結論したいと思います。もちろん、自分が「利いた風」と「聞いた風」のどちらを使うかは自由です。しかし、他人が「聞いた風」と書いているのを見て、誤りだと糾弾することはできないでしょう。
(ながさわ)
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