推しの前で2推しを暴露しなければいけない地獄「推しが武道館いってくれたら死ぬ」10話 アイドルとファンは友達にはなれないんです(1/2 ページ)
アイドルがファンへの贈り物に連絡先を入れてはいけないんです。
大好きなアイドルがいる。彼女は生きているだけでファンサ。だから人生を賭けて推します! 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(原作/アニメ)は地下アイドルChamJamの市井舞菜と、彼女を命がけで推すドルオタえりぴよを描いた、情熱的でコミカルな物語。
10話はバレンタイン回。普段は接触でアイドルと握手するのがオタクの幸せ。しかし、この日だけはオタクはメモリアルな物品としてアイドルからチョコをもらえるという、貴重すぎる日。だからバレンタインは終了のお知らせしなくていいんだ。みんなで幸せになろうよ。
舞菜との遭遇inメイド喫茶
今回は一話まるまる通じて「アイドルとファンは友達にはなれない」という部分を舞菜中心に描いています。
オタク側のえりぴよやくまさらはしっかり心得ており、アイドルの私生活に深入りすることは一切ありません。あくまでも自分たちが見ているのは「アイドル」として輝いているChamJamです。
しかしChamJamの市井舞菜は、自分を愛してくれるファンのえりぴよのことが気になって仕方ない。できれば仲良くしたい、という思いで悩んでいる子です。
意識のギャップが出たのは、メイド喫茶で舞菜とえりぴよが遭遇してしまった時。本来はライブがなかった時期のため、えりぴよとくまさが横田文が働いているメイド喫茶で、舞菜の誕生日のお祝いをしていただけでした。オタクはアイドルやキャラの写真を飾って勝手にお祝いすることが多々あります。思いよ届け。
ところがそのメイド喫茶で舞菜が短期バイトをしていたから大変。ファンであるえりぴよ側は、見せてはいけない姿だったという捉え方をしています。「舞菜に恥ずかしいところを見せてしまった」「舞菜以外の女の子たちと会っている姿まで」と、一応恥ずかしいことだという意識はあった様子。
えりぴよの会話や対応へのスタンスが興味深い。「お金出してないのに舞菜ちゃんと会話なんかできない!」「五百円でチェキ頼むなんて、そんななれなれしいことできる!?」メイド喫茶の中のルールでの会話やチェキなので何ら問題がないのですが、普段えりぴよが接しているのは「アイドルの舞菜」なわけで。アイドルしていない状態の舞菜と触れ合うなんて許されないのではないか、というブレーキがかかっています。メイド喫茶も仕事なので、気にする必要はないんですが、それがえりぴよの持つ舞菜への仁義のようです。この感覚がなんとなく理解できるかどうかで、「推し武道」の見え方が大きく変わると思う。もちろん分からなくていいんですが。
一方で舞菜は、「えりぴよと自分」という人間対人間の感覚で物事を捉えています。「誕生日当日にえりぴよさんに会えたのすごくない!?」「それでお祝いまでしてくれて…わたし、どうすればいいのかな…」
舞菜は「えりぴよさんと会える」のであれば、アイドルライブの現場でも、プライベートでもいい、という思考。ただし自分はアイドルだから、自分から声をかけてはいけない、と踏みとどまっている状態。会いたいけどえりぴよがライブに来てくれないと会えない、というこじれた状態になっています。
完全プライベートで、たまたま出会ったことは何回かあります。一度は帰りの電車の中。もう一度はオタクメンツの帰り道ですれ違った時。どちらも、双方が言葉を交わし合えるわけでもなく、気まずい感じになって距離を取ることになりました。これが空音のようなプロ意識が高い子なら、ファンサービスで笑顔を見せて、次のライブにも来てねくらいの軽いかわし方もできたのかもしれませんが、舞菜はそもそもえりぴよに会いたい思いが強すぎた。とっさに出会った時アイドルのスイッチがなかなか入りませんでした。
今回のメイド喫茶でも、えりぴよと舞菜はお互いが一歩引く微妙な状態に。ここで文が機転をきかせます。撮るかどうするか迷っていたチェキを、「舞菜・えりぴよ」で撮らず、「舞菜・文」で撮って渡す、という手段。これならえりぴよの中の「アイドルに会う」という面目も保たれますし、舞菜の「チェキを撮ってえりぴよに渡す」という思いも達成。アイドルとファンの間に(メイド喫茶店員として)入って仲介した形になりました。
文のスタンスは非常にフラット。ちょいちょいメイド喫茶に来ているえりぴよらに対して、アイドルとしては接しません。メイド喫茶のルールに則った一人のメイドとして、職務をまっとうしています。こちらでもプロです。
文は気が強いので、えりぴよに対してはガンガン自分の意見を言います。えりぴよも打ち返してくるのがわかっているので、文に対してはあまり気構えずに話せます。
2人の関係が友達のように感じられるようで、舞菜にはすごく羨ましいらしい。自分はえりぴよとフランクには話せない…舞菜が思い込みゆえの小さなジェラシーで揺れます。
アイドルはファンと同じラインでおしゃべりはできない
風邪が流行ってChamJamメンバーが2人休んだ時、それを埋めるためにフォーメーションチェンジをしました。ここで初めて舞菜が前列で踊る瞬間が来ました。えりぴよ大歓喜か!? と思いきや、えりぴよも風邪でいないというね。タイミング悪いねとことん。
問題はChamJamメンバーがその帰りに、来ていたファンのくまさがえりぴよに連絡しているのを見てしまった時に起こりました。くまさはえりぴよに「舞菜、前列にいた?」と聞かれた時、前列に出ていた事実を話したら傷つくんじゃないかと感じて、とっさに「舞菜が前列に行けるわけないですってば!」と切り返してしまった。もちろん後ろでChamJamメンバーが見ていたなんて知りません。
一緒にいた文とゆめ莉は焦ったり怒ったりと大変。しかし、それを聞いた舞菜の捉え方は違いました。
舞菜「くまささん、きっと気を遣ってる」「電話の相手、えりぴよさんなんだろうな。いいなあ…」「わたしは友達にすらなれない…」
くまさとえりぴよは電話で他愛もない話ができる。友人だから。でも舞菜とえりぴよはおしゃべりできない。友達になってはいけないから。くまさのこの行動ですらも、「うらやましい」に変換されています。
もし生まれ変わって、玲奈やくまさのような「えりぴよの友達」になれたら、舞菜は幸せだったのか? その場合、「アイドル舞菜」を見て応援してくれるえりぴよはいなくなります。輝いている自分も、存在しなくなります。
奇跡でも起こらない限り永遠に無理なんです。アイドルとファンとして出会ったからには、友達にはなれない。アイドルの友達は、並列にアイドルである人か、ファンではない一般人だけ。そういうストイックなお仕事です。
「だってわたしアイドルだもん」
ついに訪れた、みんなお待ちかねのバレンタインデー! …ただしChamJamのバレンタインは(スタッフがチョコ大量に仕入れてしまったため)2人のアイドルに挟まれて写真を撮る「3ショットチェキ」形式に。推し以外に1人選ばねばならない…一見お得に見えますが、2推しを推しの前で言うのって地獄でしか無い気がする。浮気じゃないんだよ…。
くまさは誰もが認めるれおのトップオタなのもあって、このへんはブレなし。選んだのはれおと空音。空音は友達である基の推しなのでセーフ。この時の2人の会話が、ちょっと特別感のあるものでした。
くまさ「れおちゃんは、僕がれおちゃんに夢見たことを全部叶えてくれる」れお「そこにね、全部くまささんがいるね。くまささんの次の夢は?」くまさ「…れおちゃんが、武道館に行ってくれること」れお「一緒に行こうね」
れおはアイドル意識が高いから、ファンに優劣はつけませんし、1人だけを特別好きになることもしません。しかし常に傍らにいているくまさの存在が大きな心の支えなのは間違いありません。「アイドルとファン」の線引をした枠の中での、特別な関係が2人には見て取れます。
空音ガチ恋の基は、しっかりメンバーカラーの青でまとめたスーツ着用。指名したのは空音と、妹の玲奈の推しである舞菜。大義名分のあるくまさと基はこういう時有利。
基と空音の関係はくまさと全く別。ガチ恋基に喜んでもらうよう、空音のプロフェッショナルなアイドルムーブが冴え渡ります。
空音「これからちゃむが大きくなって、きっとわたしもアイドルとして初めてのこのいっぱいしていくと思う。だから、初めてのことでも基君が一緒にしてくれるなら、わたしも心強いな」
こんなこと言われたら一生ついていってしまうってもんです。
一方舞菜のえりぴよへの意識は、今回のメイド喫茶や初前列の件もあって、どうにも複雑。「これにわたしの連絡先とかいれたら…お友達に…なれたりなんて…」とつい考えてしまうほどに心揺れています。あかんよ。アイドルは全てのファンに、平等であるべし。
えりぴよにチョコを渡す際、超絶低姿勢お辞儀になる舞菜。彼女の「えりぴよと友達になりたい」と「アイドルとして接しなきゃいけない」の葛藤はめちゃくちゃに大きい。
今回彼女の背中を押したのは、以前空音が語った一言でした。空音「だってわたし、アイドルだもん」。アイドルとファンだからこそ生まれる絆がある。舞菜「わたしはアイドルだから…! えりぴよさんが好きでいてくれる、アイドルとしてのわたしと見てもらうんだ…!」
メイド喫茶でえりぴよがアイドルではない舞菜との接触を申し訳ないと遠慮したように、アイドルだから、ファンだからお互いが好きでいられる、というのは忘れてはいけない。舞菜としては、なれることなら友達になりたいという思いがそれでもまだ強いのですが、「友達になれない」のは不幸ではありません。「アイドルとファンでいられる」から幸せなはずです。くまさとれおはアイドルとファンだからこそお互いに勇気を得て、さらなる高みに向かっていけます。2人の見ている景色は、他の関係では見られないものです。舞菜とえりぴよにも、その景色は見えるはずです。
タイトルの「推しが武道館いってくれたら死ぬ」というえりぴよの言葉は、推しに対して見返りを求めない無私の愛情です。えりぴよはそれで損をしているとは1ミリたりとも思っていません。彼女は今が、何より幸せです。もしさらなる幸せを求めるならば、舞菜が有名になって武道館に行けるほどに成長して、輝くこと。舞菜がくまさに「えりぴよさんの為にも、また前列にいけるよう頑張って」と励まされた時の満面の笑顔。これが舞菜の歩む道の、答えになっていってほしいです。
……と外野が言うのは簡単なんですが、人を好きになることってそんな簡単じゃない。「友達にどうしてもなりたい!」という「えりぴよガチ恋」な舞菜の思い、叶わないのはちょっぴり切ない。
あーやの悲劇
今回のMVPは、誰がなんと言おうと文(あーや)です。踏んだり蹴ったりのひどい扱いでした。いやあおいしいキャラだ。ふびん芸人枠だ。トムとジェリーのトム枠なので、いじめじゃないよ。
文の悲しみその1・チェキの扱い
メイド喫茶で舞菜と自分のチェキを撮ってえりぴよに渡すことで場を収めるウルトラCを見せた文。えりぴよに大変感謝されましたが、その後のチェキの扱いがひどい。2人の写真の内、文の写真の上に別の舞菜の写真が貼られている。あんまりじゃぁないか。単に興味がないだけで悪意はないんでしょうけれども……。
文はファンとの距離が近い、インファイター型の妹キャラなアイドル。えりぴよとの関係もまるで友達のよう。そこが舞菜の「友達になりたい欲」とぶつかって軽い嫉妬が芽生えてしまうのですが、だからこそ扱いはこの写真程度です。実際友達じゃないですしね。偶像になれないのも、悲しいなあ。
文の悲しみその2・余ったから舞菜とセットにされることがやたら多い。
3ショットチェキで「舞菜以外に誰かを選べるとでも……?」とだだをこねるえりぴよ。それに対して運営は文をあてがいました。理由はあまっているから。
ひどい、人気ってそんなに残酷なのか。もちろん文本人には言っていませんが。それでもめげないくじけない。普段からメイド喫茶で会っているだけに「なんでわたし!? こわ!」と、えりぴよに対してはぶりっ子をせずガンガン文句も言います。
このへんが文がファンをふるいにかけている要因かもしれない。「なんで!?」と言われて一緒に笑える層なら、たまらない子なんだけどなあ。あーや、俺は好きだぞ。
文の幸せ・でもきちんと信じてくれる仲間がいる。
そんなドタバタコメディーな彼女にも、救いはあります。ChamJamメンバーの中でも比較的仲の良い優佳は、ケンカ友達であり、ボケとツッコミの相方。優佳はが風邪をひいた時、真っ先に文に連絡が来ます。
文「今日はわたしも前列に立つから。あんたはしっかり休め」
優佳「おー、文ちんが代理なら超安心」
こんな事言われたら、本気見せるしかない。そしていずれ自力で前列に立つしか無い。いい友人に恵まれたものです。
ボケムーブの多いChamJamにおいて、ツッコミの文の存在は貴重。野心家の彼女の存在は刺激的。これからもひどい目にあいながら、さらなる高みを目指していただきたい。わざと雑な扱いを受ける子って、愛着わきますよね。
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