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» 2020年03月19日 20時00分 公開

重量3.2キロ、総ページ数1328! 花嫁の欲望を解放させる最強の結婚ブートキャンプ『ゼクシィ』を、君は真面目に読んだことがあるか (2/2)

[しげる,ねとらぼ]
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ゼクシィって4冊読んだら十分って自分で言ってるの、知ってました?

 さて、ここからようやく雑誌を最初から読み始める。表2(表紙をめくった裏面のこと)の広告はカタログギフト形式の引き出物。なるほど、引き出物の広告という広告のジャンルがあるのか……と次のページをめくると、またしてもブライダルアイテムの通販専門店の広告。さらにめくってもまた広告。さすが、300円で売られている雑誌の広告の量は並ではない。

 その次の目次(ページ数でいうと9ページ)を見て、またしてもおれは驚いた。そこには「ゼクシィは4冊読めば安心です」という見出しが書かれた、大きな囲みが載せられているのである。つまりゼクシィは「4カ月購読すればそれでお前を一人前の花嫁にしてやる」と言っているのだ。まさにブートキャンプ、海兵隊の訓練もかくやという言い切りである。

 ゼクシィをちゃんと読んだことがなかったころ、おれはゼクシィについて「どの号を読んでも、書いてあることは一緒なんじゃないの?」と思っていた。この「4冊読めば大丈夫」という宣言は、ゼクシィ自身が「同じ内容が書いてあるけど、何か?」と開き直っているに等しい。

 もちろんゼクシィの内容は、時期やトレンドに合わせてアップデートされているのだろう。だからこその「結婚するまでに4カ月だけ付き合ってくれれば、現時点で最新型の花嫁にしてやるし、恥ずかしくない結婚式をあげさせてやる」という宣言なのだ。ずっと買っても意味がない雑誌、それがゼクシィなのである。

 この編集方針には衝撃を受けた。普通、世の中の雑誌というのは、読者になるべく長く書い続けてほしいと思って編集されている。例えば趣味の本であればその趣味をやっている間はずっと買ってほしいし、何らかの情報誌であっても、1冊買ってもらったら次の号も買いたくなるように作られている。だからこそ「連載」という形式が存在しているし、次回予告にわざわざページを割いたりするのだ。

 しかし、ゼクシィはそうではない。読者の一生のうち、4冊だけ買えばそれでおしまいという雑誌である。

 だからゼクシィの目次を見ても、編集部員の簡単な情報ページと囲みで構成されたニュースのページ、「BE IN LOVE WITH THE MOMENT」と題されたウエディングドレスなどファッションを紹介するページと、「What a Wonderful Wedding!」という全国のカップルの結婚式をレポートするページしか連載がない。しかも、これらは単に毎号掲載されているだけで内容的に大きな違いはなく、どの号から読んでも全く問題がない。

 例えばいろんな有名人に結婚について聞きに行ったりするような連載もなく、結婚式場や指輪やエステなどの紹介(というか広告)以外は、特定のトピックを取り上げた単発の記事だけが掲載されている。普通の雑誌で言う「連載記事」が、目次を見る限り1328ページの中に1ページも存在していないのだ。当たり前といえば当たり前だが、連載がない雑誌という構造におれは衝撃を受けた。ゼクシィ、連載ないんだ……。

ゼクシィ これだけ分厚いのにゼクシィには連載がない! 『ホビージャパン』と比較した

欲望を解放して花嫁となれ! 「ゼクシィメッセージ」という危険な檄(げき)文

 この目次をめくると、10ページには「ゼクシィメッセージ」と題されたページが収まっている。そこには、森の中の草原を歩きながら、こちらを振り返るウエディングドレス姿の花嫁の写真が、見開きでドカンと掲載されている。細かい情報に移る前のイントロ、まずはここを見て気分を盛り上げ、幸せな結婚のことで頭をいっぱいにしてくれよな、というページである。

 ここに掲載されているゼクシィメッセージの内容が、これまた凄まじい。大きく「結婚式だから、いいんです」と右ページ中段に見出しが入り、その下には中央ぞろえでなにやら詩のようなものが書かれている。それはまず「結婚決まっておめでとうございます」から始まり、次いで「ゼクシィから伝えたいこと」へとつながっていく。このメッセージの中で、ゼクシィは結婚が決まったカップルの特に花嫁の方に、結婚式だからできること、感じられることを、存分に味わってほしいと書いている。

 以下の文章は、文末がすべて「いいんです」で終わるものが続く。大好きな人に思いっきり「大好き!」と伝えてもいいし、家族に感謝を伝えてもいい。ドレス姿の自分に浮かれてはしゃいでもいいし、ふたりのしたいことや好きなことを好きなだけ詰め込んでいい。思い切り笑って泣いて楽しめ。結婚式だから全ては許されると、ゼクシィは巻頭で我々にメッセージを投げている。

 恐ろしいことである。「ふたりのお手伝いをさせてください」と言いつつ実際に語りかける対象が常に花嫁の方であり、4冊読めば大丈夫と豪語するこの雑誌が重要なメッセージとして伝えてくるのは、「欲望を解放しろ! 結婚式だから全ては許される!」という檄文なのだ。その檄文の横で振り返って微笑む花嫁の着ているウエディングドレスのレンタル料は、32万4000円である。う〜〜〜ん、32万か………………。

 第二次世界大戦でフランスを降伏させる原動力となったドイツ軍装甲部隊。その有名な指揮官であるハインツ・グデーリアンの口癖は「ちびちび遣うな、つぎ込め!」だったという。金とアイデアの逐次投入を許さず、結婚式というその一点に向けて全てのリソースをつぎ込むことを全力で肯定するゼクシィの檄文を読んで、ふんわりと幸せそうな花嫁とは正反対のいかついグデーリアンの顔がチラつくとは……。欲望を解放し、リミッターを外してやりたいことをやれというメッセージは、これ以降のゼクシィの全ページに影を落としている。

 ということで、奥付を見てたった10ページを読んだところで4000文字近くになってしまった。残りの1318ページにおいても、ゼクシィは花婿完全無視、花嫁だけに向けた豪速球を投げ込み、次から次に読者を波状攻撃するのだ。

ゼクシィ 付録はくまのプーさん超BIGお洗濯ネットとブライダルフェアBOOKでした
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