元一緒のグループだった子は私のことを見ていない「推しが武道館いってくれたら死ぬ」11話 シビアな競争の世界(1/2 ページ)
あなたのスマホの待ち受けに、推しは写っていますか?
大好きなアイドルがいる。彼女は生きているだけでファンサ。だから人生を賭けて推します! 「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(原作/アニメ)は地下アイドルChamJamの市井舞菜と、彼女を命がけで推すドルオタえりぴよを描いた、情熱的でコミカルな物語。
11話ではついにChamJam以外のアイドルが登場。真剣に外向きの活動を考えるターンに入っていきます。アイドルは夢を見せる分、ときに過酷な現実と戦わねばいけない。
フェスへの不安
くまさ「まあ、楽しいものではありますが…なんていうか…推しの現実をまざまざと見せつけられますよ」「武道館なんて夢のまた夢なんじゃないかなぁ、とかですよ」
フェスの話です。ChamJamがついにフェスデビュー、これは大事件! うれしいものですね、と言いたい所ですが、いろいろな思いが飛び交います。
出演するのは「せとうちアイドルフェスティバル」。瀬戸内海を中心とした地域のローカルアイドルが集う祭典。なおレポートしているのは、ChamJamの伯方眞妃。岡山と香川に配信しているローカル局とはいえども、これは大きな進歩。
ChamJamは初のフェス参加。並ぶアイドルユニットの中でも、広島県のめいぷる☆どーる(※☆はハートマーク)はメジャーデビューしており、東京で月一のライブをしているほどの人気。
……と言っても関東での人気は不明ですが、少なくとも瀬戸内海周辺では間違いなく、集客を見込めるほどの人気。一方でChamJamは、メジャーデビューもしていないし、東京に行ったこともありません。ファンの動員数の違いは目に見えています(原作ではえりぴよらが偵察にいく様子も)。
こういうのは勝ち負けではない。そんなのはファンもアイドルも分かってはいるけれど、並ぶとどうしても観客数や実力の差が見えてしまうのはなんとも残酷。
文「なんでそんなに危機感ないの!? これ見なよ!」「活動はじめた時期同じくらいなのに、ショッピングモールの吹き抜け3階まで埋まってるんだよ! この子たちとフェスで一緒になるんだよ!?」
比較的のんきなChamJamの中で、負けん気が強く、怒りを表に出しやすい横田文が、今回の火付け役になります。人気の差は自分たちの実力不足にある、と考える彼女。ダンスと歌のレッスンを大幅に増やすことを提案。ChamJamのエンジンが一気に動き始めます。このあたりはそれぞれアイドルでやっていきたいことの違いがある(例・好きだと言ってくれる人たちと一緒にいたいという優佳、眞妃を追いかけ続けているゆめ莉、えりぴよに見ていてもらいたいという舞菜、など)ので、誰かが言い出しっぺになる必要がある。そしてスイッチが入りさえすれば、一気に動けるのがChamJamというグループのいいところ。今まではれおがその役をかっていました。
レッスンが増えてからは、みんな非常に真面目に打ち込みます。どうしても感情が爆発しやすい文がこういうとき目立ってしまいますが、基本的にはみんな「アイドルでありたい」「武道館に行きたい」という気持ちは同じ。多少きついメニューでも挑みます。これからフェスに向けて実力が問われる、というのはみんな感じ取っているようです。特にセンターの五十嵐れおは気にしすぎているようで……ここは後述。
そんなところまで来ても「しんどい!」と言ってわがままを言う寺本優佳の姿が。全員上は目指したいけど、体質が一致するとは限らない。「ある程度のことはなんでもできちゃう! でもいきなりこんなに動けないよ! 動けるけど!」というセリフが面白い。天才肌タイプの彼女は、今までの練習量で及第点はクリアできていたんでしょう。ただ、今回ばかりは及第点ではいけない。さらに上を目指し、ChamJamが一皮むけなければなりません。むしろ天才肌だからこそ、優佳はより高みに行けるであろうことも確か。
努力は、伝わるものだって信じたい。いつものイベントでダンスを披露したChamJam。えりぴよとくまさはそれを見て、成長にすぐ気付きました。えりぴよ「今日のちゃむのダンスさあ…」くまさ「えりぴよさんも思いました? すっごく揃うようになりましたよね。みんなフェスに向けて頑張ってるんですよ」
ファンがアイドルに求めているもの、ビジュアル、対応、サービス、歌とダンス。それだけではない、努力しているというドラマ性も、アイドルの絶大な魅力の一つです。推しの頑張りの過程は、ファン自身もアイドルの成長物語の中にいるのを肌で感じられる、かけがえのない体験になります。
れおの戦い
みんながフェスに向けてハラハラする中、いろんなしがらみで苦悩していたのがセンターの五十嵐れお。
れお「でもチャンスだよ。これを大きな一歩にして……目指すは武道館! ねっ
ChamJamのメンバーは比較的がっついておらず、むしろ「私達がそんな大舞台を夢見るなんて思いもしなかった」くらいに一歩引いている部分が、以前はありました。しかしリーダーとしてれおは、武道館を目指すことを言葉にして激励し、仲間をまとめ続けています。彼女のポジティブな言葉と細かい気配り、そしてたゆまぬ努力は、仲間にもファンにも強く信頼されている様子。
未成年が多いChamJamの中、22歳で唯一成人しているれお。最年少16歳の優佳と6歳も離れています。そうじゃなくとも、全員3歳以上離れている。これはれおが一度他のアイドルグループに所属していたから。今はそのグループはありません。
かつて彼女がいたアイドルグループで、れおは握手列に誰も並ばないくらい人気が低かったようです。これ、今のChamJamでの市井舞菜のよう。落ち込んだ顔の彼女に出会ってくまさは一目ぼれ。ここからくまさは、れおをさらなる高みに押し上げるべく、魂を注いで応援しはじめます。
つらい経験をしてきたからこそ、れおの前向きさがある。今は仲間に支えられて、充実しています。しかし今回のフェスに向けて「比べる」ことをしてしまい、傷口が開いてしまった。
テレビに映っていためいぷる☆どーるのメイは、元はれおと同じアイドルグループでセンターをやっていた子。一緒に走っていた仲間だけれども、今はメイはメジャーをひた走り、れおは地下インディーズのまま。インタビュアーが「ライバルだと感じているグループはありますか?」と質問したとき、れおの心はグラグラと揺れます。
れお「メイちゃんは、私の名前を挙げてくれると思ってて、ドキドキしちゃった、勝手に…ほんと勝手に…思い上がってたな」
もともと一緒にいたから、なんていう考え方はれおとしては「思い上がり」らしい。とはいえ既知の関係なら期待してしまうのは当然。それをスルーされ、眼中にない状態まできてしまうと、心が折れてしまいそうになるというもの。
この回ではれおは乗り越えきれていません。原作だとこの後まだまだ山も谷も越え続けなければいけない彼女ですが、アニメでは果たしてどう描かれるのか。考えてみたら以前彼氏疑惑のデマがあがった空音も、万全解決、という展開は無くて、やんわりと波を越えたような状態。ドタバタコメディーな展開に惑わされそうになりますが、割と精いっぱい踏ん張って生きている子、ChamJamには多いです。世の中すっきりすることばかりじゃないから、戦わねばいけない。
ちなみに原作では眞妃と関係のある香川のアイドルグループも登場していますので、ぜひ見てみてください。3つの県でアイドルの方向性バラバラなのが面白い。
それぞれの愛と待受け
今回はさまざまなキャラのスマホの待ち受け画面が描かれていました。スマホの待ち受け画面やSNSの壁紙は、自分だけのためのもの。ゆえに趣味や性癖が丸出しになります。
えりぴよのSNS壁紙はもちろん舞菜。元になっているのはおそらく原作2巻の表紙の衣装とポーズ。アイドルしきれていないのがかわいい。
前回(10話)はスマホの壁紙とアイコンが映っています。バックの舞菜はまあ分かるとして、アイコン群のインパクトたるや。「舞菜ブログ」でフォルダ化されているということは、この中に複数個別のURLに飛べるアイコンがあるんでしょう。「舞菜jpg」には鮭(舞菜のメンバーカラーはサーモンピンクだから)の写真を残しているのはなぜなんだろう。それでいて「舞菜チェキ」と「舞菜ジャケ写」が別扱いになっているのには、こだわりを感じます。にしてもロックしてある「舞菜秘蔵写真」が気になって仕方ない。あと「毎日舞菜」「舞菜可愛い」ってなに。
くまさのSNS壁紙は、もちろんれお。ただこの壁紙特別中の特別。なんせこの頭に耳をつけるれおのポーズは、くまささんだけに向けた固定レスだから。こんなんスマホ開くたびに見てたら、どれだけの力をもらえることか。れおとくまさの、近づきすぎないけど絶対的な信頼を寄せている距離感、本当に表現の仕方が絶妙です。
えりぴよの職場の同僚、美結。ChamJamがテレビに出るからということで一緒に見る羽目になった、非アイドルオタク。えりぴよの騒ぎっぷりに、沼にハマることはありませんでした。しかし、流れで見ていた深夜アニメの沼にハマることに。
彼女がえりぴよに見せて説明しているように、スマホの待ち受け画面を推しにしておくと、人に伝えやすくなるという側面もあります。このワンカットだけで、美結がどうハマったのか一目瞭然。「これ何?」と誰かに聞かれたら布教もできますね。
舞菜の待ち受け画面は、手です。これは以前えりぴよがチェキ会に来たとき、撮影ミスの撮り直しで余ったほうの写真を、舞菜が入手したもの。えりぴよが舞菜に向けてハートにしようとして向けた手です。
ファンとの特別な関わりを持てないアイドルたち。だからえりぴよの写真はこれしかない。唯一形として残ったつながりです。
えりぴよはSNSに疎いらしく、だいぶ前に作ってから一度もつぶやいたことがありませんでした。ところが舞菜の待ち受け画面に突然の通知。舞菜はえりぴよのアカウントを発見してから通知をオンにして常に見ていたらしい。ここまでえりぴよを追っている人間、多分舞菜だけだよ。
えりぴよ本人も、初めて行ったネット空間への熱い愛のつぶやきが、よもや舞菜の心を救っているとは思うまい。自分の「手」が推しの心の支えになっているとは思うまい。逆に考えると他の人が舞菜の待ち受けを事故で見てしまっても、えりぴよの手だとは気付かないからセーフ、という隠匿性もある……か?
いつかお互いのスマホの待ち受け・壁紙を見る日が来てほしいけれど、それは永遠に訪れないからこそ、やれることなんでしょう。
もっとも美結が二次元男子にハマったとき、えりぴよに突きつけた「お前は好きな相手が同じ次元にいるだけでありがたいと思え!!」という真実を考えると、接触できる二人の関係はまだマシなのかもしれない。なお美結は、ガチ恋スタイルのようです。
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