レビュー
» 2020年03月20日 11時45分 公開

仕事へ行く前、毎朝「SHIROBAKO」を見続けた――あおいと頑張り矢野さんに支えられて働いた女が見た劇場版 (1/2)

“脳内矢野さん”に叱咤激励されて働き続けた日々。

[芦屋こみね,ねとらぼ]

 私がアニメ放送の「SHIROBAKO」を見たのは、放送終了から約1年経った、2016年冬のことだった。

 知人が面白いと言っていたし、ちょっと見てみるか。ふーん、アニメ業界のお仕事ものなのか……。そんな軽い気持ちで1話を鑑賞した私は、そこから一気に24話まで、テレビにかじりついて見終えてしまった

 同じ高校のアニメ同好会で、アニメを自主制作していた5人の女の子たち。彼女たちは将来、仕事としてアニメ制作に携わり、一緒にアニメを作り続けようと約束する。数年後、武蔵野アニメーション――通称ムサニの制作進行として働きはじめた主人公・あおいを中心に、5人が夢を追う姿、アニメ制作の裏側を描いたのが「SHIROBAKO」だ。「働くとは何か?」という問いについて、真正面から取り組んだ作品でもある。

 大学卒業を控えた当時の私は、働くことについて悩んでいた。「好き」を仕事にしたあおいを見たとき、「私はこんな風には働けない」と、うらやましさで涙が出たのを覚えている。

 私は主人公・あおいのように「何でもやります!」とは言えなかったし、夢を共有する友達もいなかった。こんなキラキラした未来が、私にもあったなら……。結局そのまま大学を卒業し、働きたかったわけではない職場で働くことになった。

SHIROBAKOレビュー

仕事へ行く前、毎朝「SHIROBAKO」を見続けた

 働き始めた私は、毎朝「SHIROBAKO」を見ながら朝の支度をしていた。朝起きたら、顔を洗う前にまず配信サイトを開き、「SHIROBAKO」を流し始める。前日の朝見ていたところから、何話目でもいいから流す。顔を洗っている間にOPが終わり、化粧をしながら本編を見る。だいたい1話見終わるくらいで化粧や身支度は終わり、私は職場へ出かける。

 やりたいことでもなく、意欲もわきづらい仕事だったけれど、1日の始まりに「SHIROBAKO」を見ることで、何とかテンションを上げて家を出ることができていた。「あおいのようには働けない」と思いつつも、あおいが仕事に振り回される様子は、働き始めたばかりの自分と重なる。そのうち、あおいにはげまされるようになっていた。

SHIROBAKOレビュー 主人公のあおい(予告編より)

 あおいの先輩キャラ・矢野さんのことは、もはや拝む勢いで尊敬していた。彼女はすごく仕事ができる。仕事は素晴らしいが手が遅いスタッフの手綱を握り、見事スケジュールに間に合わせた手腕にほれぼれした。疲弊して限界のあおいを「今日はもう帰りな」と諭すシーンは、矢野さんのきびしい優しさがにじみ出る、私の好きなシーンだ。

 矢野さんは作中、一度ムサニから離れる。矢野さんは父子家庭なのだが、父の体調が悪化して看病をすることになるのだ。休職している間もあおいと連絡を取り、「ムサニを支えててよ」とはげまし、そしてあおいのピンチに駆けつけるかのように復職する。「ただいま」とほほえむ矢野さんを見て、思わず「矢野さん……!」と声が出てしまった。理想の先輩すぎる……好きになっちゃう……!!

 あまりに何回も矢野さんの登場シーンばかり見ているので、「脳内矢野さん」が私に語り掛けてくれるようになった。私が回らない頭で残業していると「今日はもう帰りな」と言ってくれるし、締め切りが近くなると「進捗、いかがでしょうか?」とニッコリたずねてくれる。働き始めて4年、私はなんとか社会人を続けることができていた。

 そして、2020年。劇場版「SHIROBAKO」が公開された。ムサニのみんなはどうしていたんだろう? 最終話のあと、どんな風に過ごしていたんだろう? その続きが見られるなんて、思いもしなかった。期待で胸を高鳴らせて、劇場へ足を運んだ。

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