インスタを投稿しただけなのに世界を揺らしたテイラー・スウィフト Netflixドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ」がすごい(1/2 ページ)
2018年、アメリカの音楽界で起こった“事件”。
テイラー・スウィフトはすごい。出自も方向性もバラバラな強者たちが集まり、毎日が天下一武道会みたいになっているアメリカのポップス界にあって、彼女は確固たる地位を築いている。そんな彼女に密着したドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ」がNetflixで配信中。この良質な作品が捉えているのは、テイラーの“2つの魅力”だ。
「受賞歴」だけでwikipedia1記事がある女、テイラー・スウィフト
「ミス・アメリカーナ」の話に入る前に、まず「そもそもテイラー・スウィフトって何者だっけ?」という所から話を始めたいと思う。
最初に書いた通りの超売れっ子であり、英語版wikipediaには「テイラー・スウィフトの受賞歴」だけで1記事ある。グラミー賞だけでも10回受賞しており、そのほかの賞は数えきれない。親しみやすいメロディーを創る作曲能力と、共感できる歌詞(特に失恋の歌が強い)を武器に、世界中で熱い支持を得ている。
まだ30歳だが、人生の半分以上を歌手活動に費やしており、芸歴でいえばベテランといっていい。11歳でデモテープをレコード会社に送り、その後はシンガーソングライターとして研鑽(けんさん)を重ね、16歳で最初のスタジオアルバム「Taylor Swift」を発表。
同作からのシングル「Our Song」はBillboard Hot Country Songsで6週連続1位を記録する。カントリーといえば、日本でいえば演歌や民謡のようなもの。決して若者向きとは言えないジャンルだが、テイラーはそこにロックの要素を上手く持ち込んで、10代にして頂点を極めてしまった。
続くセカンドアルバム「Fearless」では早々にグラミーの最優秀アルバム賞を受賞。カントリーというジャンルを超え、スーパースターの仲間入りを果たす。そして「Speak Now」を挟んでの「RED」ではカントリーから、より広い意味でのポップミュージックへ変化していき、「1989」「Reputation」では完全に脱カントリーを果たす。
さらに2019年も通算7作目のアルバム「Lover」を発表して、世間を大いに賑わせた。10代から才能を爆発させ、キャリアを通じて変化し続けてきた人物――それがテイラー・スウィフトである。
世界の中心で、私が叫ぶ。インスタ投稿で世界は変わる
「ミス・アメリカーナ」の一つ目の見どころは、テイラーが「変わる」瞬間をカメラに収めたことだ。
ミュージシャンの密着モノは「情熱大陸」や「プロフェッショナル 仕事の流儀」などが日本ではおなじみだが、オンエアされた内容を見ると「日常を追いかけているだけだな……」と思うことがある。しかし本作はテイラーの過去を振り返りつつ、ちゃんとヤマ場になるキャリアの重大局面を捉える。それはテイラーが政治的な発言、2018年の選挙で民主党の候補者を応援するとファンに宣言するシーンだ。
テイラーのファンの基盤であるカントリーは、アメリカで民主党と対をなす共和党を支持する保守層が多い。その昔、イラク戦争を批判したカントリーグループが猛烈なバッシングにあった。日本で言えば大相撲の横綱が支持政党を語るようなものだろうか。つまりどう転んでもトラブルになるのだ。
実際、本編でもテイラーが民主党の候補者を応援することについて、周辺スタッフは「正直かなり怖い」「装甲車が必要になる」「そんなことをすれば、ツアーの動員が半分になるかもしれない」と心配する。しかしテイラーはやるなら今しかねぇ精神で周囲を説得。そして――
「過去には政治的な意見を公に表明することに消極的でしたが、過去2年間の私の人生と世界でのいくつかの出来事のために、私は今、全く違う考えを持っています」「LGBTQの権利をめぐる戦いを信じており、性的指向または性別に基づくあらゆる形態の差別は本当に間違っていると考えています」「肌の色、性別、愛する人に関係なく、全てのアメリカ人のために戦うつもりはない人には投票できません」。
Instagramで人種差別やジェンダーの問題に対して意見を明確に述べたうえで、共和党の候補者を批判し、民主党の候補者の名を挙げて「投票します」と言い切るのだった。
このシーンは非常に痛快だ。スマホを持ったテイラーの隣で、広報担当が「OK、想定しうる障害を挙げていくわ。その1、大統領」と語るが、テイラーは「関係ない」と一蹴。もうドラマや映画のワンシーンだ。そして「反乱軍に勝利あれ!」と乾杯をしたあと、上記の投稿をする。投稿を終えて「あ〜、ついにやっちゃった」とはしゃぐテイラーは見ていて清々しい。
さらに投稿を受けてファンたちが選挙に向けて動くのが数字として出てくるときの高揚感。一方で広報担当の予想通り、テイラーの投稿について「彼女の音楽が25%くらい嫌いになった」とトランプ大統領がコメント。テイラーの政治的発言についてニュースメディアは一斉に記事にして、「彼女の政治的発言をしないところが好きだった」といったネガティブなコメントも紹介した。インスタを投稿しただけなのに、世界を動かしています感がハンパじゃない。
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