好物を聞くとイメージが変わるマリー・アントワネット 彼女が愛した素朴な郷土料理「クグロフ」とは(2/3 ページ)
当時のフランスでは、トマトは貴族しか食べられなかった
――遠藤さんは、マリー・アントワネット関連の食事をクグロフ以外にも再現していますが、貴族ならではの料理というとどれでしょう?
バスティーユ襲撃の1年前、1788年に行われた小トリアノン宮殿(ヴェルサイユ宮殿の庭園にある離宮の一つ)での夕食会の記録が残っていて、そのメニューを何品か再現しました。出された料理は50品近く。おびただしい数の料理がビュッフェ形式で提供され、食事をつまみながらお客さまとお話しするという形です。ですので、食べたかどうかの確証はありませんが、出席はしているので食べたかもしれないという料理です。
中でも「牛とキャベツの煮込み」は面白いと思います。記録が残っているのはメニュー名だけなので、あとは当時の料理書などを参考に、想像で補いながら再現しています。そこで、宮廷料理らしさを出すためにトマトを入れました。1780年代、トマトはパリの庶民はまだ食べられておらず、フランス宮廷で味わえるものでした。
トマトは、新大陸から入ってきた食材です。ヨーロッパで1780年代に食べられていたのはスペインとイタリア、南仏の一部だけでした。南仏より北では食べられていません。パリの庶民がトマトを食べられるようになったのはフランス革命以降なんです。
“田舎風の生活”が流行し、ヴェルサイユに農場が作られた
――マリー・アントワネットが好んだ料理として、他にどんなものが知られていますか?
母親のマリア・テレジアとの手紙に、滋養に富んだスープ、牛乳、ロバのミルクなどが登場します。当時、ヴェルサイユの貴族の間で、田舎風の生活を楽しむことが流行していました。彼女もご多分に漏れず流行を取り込むということで、ヴェルサイユに農場や菜園が作られました。
牛、羊、豚、ヤギなどの家畜も飼われていて、健康にいいものをという形でミルクを飲んでいました。さらに、採れた食材を客人に振る舞って一緒に味わうのがマリー・アントワネット流のおもてなしで、中でもイチゴのシャーベットはお気に入りでした。
――そのイチゴのシャーベットは、どういったものですか?
フランス宮廷料理人ムノンが著した料理書を元に再現しました。材料はレッドカラント(赤スグリ)と砂糖と水だけとシンプルです。レッドカラントは酸味がある果物で、輸入食材店などで買えます。
実は、料理書にはイチゴ250グラム、砂糖250グラムと、砂糖の分量がとんでもなく多く書かれていたんです。そのまま作ってみたら、本当に歯が腐りそうなほど甘くて。何でこんなに甘いのかと考えたのですが、おそらく当時のイチゴは今ほど甘くないのではと思いました。ですので、書籍では現代のイチゴでおいしく作れるように砂糖の量を調整して紹介しています。アレンジで炭酸水を加えてもおいしいですよ。
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