ニュース
» 2020年04月20日 12時30分 公開

結婚式を自粛したら100万円飛んだ末、それ以上のものを得た話 (1/2)

「この状況がいつまで続くのかは分からないけど、僕はまた旅行記を書き始めたいと思う」

[岡田悠,ねとらぼ]
オンライン結婚式

 本格的に式の準備を始めたのは半年前。僕はイベントごとが結構好きなので、カスタマイズできる自由度の高い式場を選んだ。いろんな企画を考えるのはとても楽しくて、思わず動画を4本も作った。これはやりすぎたと思う。


岡田悠

オンライン結婚式

夜は旅行記やエッセイを書き、昼は会計ソフトを作ってる人。2019年、noteに投稿した「経済制裁下のイランに行ったら色々すごかった」と「近所の寿司屋のクーポンを記録し続けて3年が経った」により、一躍“イランと寿司の人”となる。好きな会計用語は旅費交通費。

Twitternote



キャンセルという言葉がじわじわと現実味を帯びてきて

 1月。中国が大変なことになっているというニュースを見ながら、腹筋とスクワットに励んでいた。糖質制限も始めて、大好物のビールを我慢してハイボールに切り替えた。体重はみるみる減っていって、当日までには理想の体型になれそうだ。

 2月。日本での感染事例が少しずつ報告されて、これはまずいと思い始めた。式場と何度も話し合って、もう少し状況を見守るという結論に至った。

 2月末。事態は悪化していた。向こう2週間が山場ということで、学校の一斉休校が発表されて、会社もリモートワークに切り替わった。登壇予定だったイベントは中止になって、旅行の計画も全部潰れた。ただ不安を感じつつもどこか他人事な部分も確かにあって、リモートで飲み会やって盛り上がって、こっちの方が楽しいじゃんなんて言いながらハイボールを口に運んだ。式場との打ち合わせでは感染対策について議論し、内容を変えつつもまだ実施するつもりでいた。

 3月初旬。キャンセルという言葉がじわじわと現実味を帯びてきて、改めて式場に足を運んだ。契約書には、キャンセル料が発生するのは「ご契約者様のご都合でキャンセルした場合」と書いてある。国から施設の利用停止命令が出ているわけでもない中、自粛はあくまで自分から進んで行なう行為である。つまりは自粛すると、キャンセル料が発生するのだ

 それは目玉の飛び出る金額だった。僕の生涯で一番高い買い物が、キャンセル料になる可能性がある。考えただけで暗澹たる気持ちになって、ただ事態が収束することを願った。

 3月初旬。山場だったはずの期間を超えても改善する様子はなく、特に海外からの報道が盛んになった。僕は唯一の趣味は海外旅行で、世界中の国境が封鎖されていくのを見るのはとても哀しい。外務省の渡航危険情報のページは10年以上眺めているけど、「全世界」という文字を見る日が来るなんて思ってなかった。欧米では全面的な外出禁止令が出て、都市はロックダウンされ、人々は家に閉じこめられた。

 世界が、切断されていく。

 3月中旬。結婚式ができるのか、もう分からなかった。実現しないかもしれない式のために準備を重ねるのは、賽の河原で石を積むような徒労感があった。決行された様々なイベントへの批判を見るたびに、まるで自分が名指しにされてるみたいに感じた。本当にこの結婚式は望まれているのか、なんのためにやるのだろうか。

 旅行記を書くのが僕の日課の一つでもあるけど、とてもそんな気分にはなれなくて、旅への興味も自然と薄れていった。毎日がモノクロみたいに味気なくて、かろうじて仕事をして寝るだけの毎日だった。家での口数も減っていって、外への好奇心を失った僕は、切断されゆく世界と同じだった。

 一週間前。風呂に浸かりながら、呆然としていた。式で配布するマスクや消毒液が届いたけど、それでもこの状況で開催すべきかどうか、もうどう判断したらいいのか見当もつかない。ゲストの安全は確保できるのか、延期するとしてもいつになったら収束するのか、どこまでいったら何がどう大丈夫なのか、ああもうわからん。



 早く、早く止めてくれ。



 一言、「結婚式は中止しろ」と誰かに言って欲しい。さっさと僕に死刑宣告をくれ。

 そんなどうにもならないことをひたすら考えていたら、なんだか意識がぼうっとしてきて、ちょっと風呂に浸かり過ぎたかもしれない。立ち上がった瞬間に身に覚えのないような立ちくらみを覚えて、そこで一旦記憶が途切れた。

 「大丈夫!?」と呼びかける声で目が覚めた。僕は風呂場の脱衣所に体育座りしていて、横に立った奥さんが肩を揺らしている。何が心配なのかわからないまま、ああ大丈夫だよと生返事した。ぼうっとした頭で床に落ちたバスタオルを拾うと、端まで真っ赤に染まっていた。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先月の総合アクセスTOP10

  1. 「訃報」「愛猫」「手風琴」って読める? 常用漢字表に掲載されている“難読漢字”
  2. 自分のことを“柴犬”だと思っている猫ちゃん!? 犬猫4きょうだいの息ピッタリな「いただきます」がお見事
  3. 圧倒的疾走感ッ! 深田恭子、ドローン撮影のサーフィン動画が「うわぉ カッコいい!」「水を得た魚のよう」と反響
  4. セーラームーンを自分の絵柄で描く「sailormoonredraw」チャレンジ 漫画家やイラストレーターの美麗なイラストが集まる
  5. 印刷した紙がプリンタから次々消失 → 原因を突き止めた動画に爆笑 「紙隠し」「ピタゴラスイッチだ」
  6. 「イチャイチャ感半端ない」 ヒロミ、妻・松本伊代をヘアカットする動画が130万回再生超えの大反響
  7. 「パワポで作った」 離れると意味が分かる岐阜新聞の「Stay Home」広告が話題、制作したのはデザイン経験のない営業社員
  8. 仕事のLINEに「洗濯たたみましたほめてほめて!」 応募総数8000件の「LINE誤爆」最優秀作品が決定
  9. 「私も撮りたい、貸して!」と言われて娘にカメラを渡したら―― 26万いいねを集めた衝撃写真を御覧ください
  10. 「レターパックプラスがボロボロの状態で郵便受けに入ってた」 受領印必須のサービス、明らかな過失でも補償なし? 日本郵便に聞いた