「攻殻機動隊 SAC_2045」の「7つ」の魅力 これは史上もっとも親しみやすく、エンタメにシフトした「攻殻機動隊」だ!
全12話を見終えた感想(ネタバレなし)。
Netflixで「攻殻機動隊 SAC_2045」の全世界独占配信が4月23日にスタートした。まずは全12話を見終えた率直な感想をお伝えしておこう。「掛け値なしにめちゃくちゃ面白い!」「今すぐに第2シーズンを見せてくれ!」ということだ。その魅力を、本編のネタバレにならない範囲でたっぷりとお伝えしていこう。
1:史上もっとも親しみやすい「攻殻機動隊」
「攻殻機動隊」はもともと士郎正宗によるマンガ作品であり、押井守監督による1995年のアニメ映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」によって世界的に知られるようになった。その後もテレビアニメシリーズ、新たな劇場版アニメ、ハリウッドによる実写映画化版も作られるなど、根強い人気を誇るシリーズとなっている。後の創作物に影響を与えた日本のSFとしては、「AKIRA」と双璧をなす有名作といえるだろう。
派生作品が多いシリーズであり、ともすれば「初めて見る人でも楽しめるの?」という疑問も生まれるかもしれないが、安心してほしい。今回の「攻殻機動隊 SAC_2045」は予備知識ゼロでも問題なく楽しめるうえに、今までのシリーズの中でもっとも親しみやすく万人向けといえる内容だったのだから。
2:アクションシーンの見応え(まずは第5話まで見てくれ!)
本作はアクションシーンの見せ場がかなり多い。第1話から登場人物や“義体”などの基本設定の説明を簡単に済ませ、その後は荒野を舞台にした銃撃戦が展開。その後も各話で、銃撃による攻防戦、体術を駆使したアクション、良い意味でギョッとするショックシーンなどが盛り込まれており、テンポよく楽しめるようになっている。
特に第5話のアクションがすごい。主人公・草薙素子が率いる“公安9課”はある豪邸への潜入捜査を行うのだが、予想外の事態に見舞われる。良い意味で笑ってしまうほどのトンデモな“動き”に驚き、あるキャラクターの超カッコいいセリフの惚れ惚れし、そして何よりも大ピンチに陥るメンバーの姿にハラハラしっぱなしだった。
3:奥行きのある世界観
本作はエンタメ性重視で親しみやすい作風だが、その一方で世界観の設定は現実の世界にも当てはまる、奥深く示唆に富んだものである。
作中では冒頭で、“全世界同時デフォルト”という経済災害が起きたこと、そして世界が計画的かつ持続可能な戦争“サスティナブル・ウォー”へと突入したという説明がなされる。
金融機関が破綻したおかげで紙幣はいったん紙くずと化し、仮想通貨も電子マネーも一時的に消え失せ、市井の人々は将来への不安をつのらせ、世界は緩やかに破滅に向かって突き進んでいる(一方で復興を目指している人物もいる)、という状況なのである。これは、新型コロナウイルスの感染拡大により世界経済が大打撃を受けている今の世の中に、奇しくも通ずるところがある。
さらに、公安9課のメンバーが捜査をしていくうちに、得体の知れない“ポスト・ヒューマン”なる存在の影に、世の中への不平不満に付随した人間の悪意というものも見えてくるようになる。
そもそもSF作品(および「攻殻機動隊」シリーズ)は完全な絵空事ではなく、現実の社会の先にある未来を描くことが多いのだが、この「攻殻機動隊 SAC_2045」の世界観もまた、今の現実の延長線上で起こり得る可能性を見せている。単純に娯楽として面白いのと同じくらい、今見るべき作品としてオススメできる理由が、そこにある。
4 気になるのはビジュアルのクオリティー?
ここまで絶賛してきたが、予告編が公開された際に、ファンから不評を受けてしまったポイントについても触れておこう。それはひとえにパッと見のビジュアルについてである。
最初にビジュアルが公開されて、ファンからは「ひと昔前のゲームみたいだ」といった手厳しい声が多かった。確かに、場面によっては描きこみが簡素に思えてしまうシーンもあり、キャラクターの表情が乏しく感じてしまったところもある。何より今回は全編フル3DCGの作品であるため、今までの2Dのキャラや世界観を愛していたファンが違和感を持ってしまうのは致し方ないのかもしれない。しかし、その不満だけで本作を見ないのは、あまりにもったいない。
本作では3Dならでは“動き”の情報量により、何気ない会話における動作からキャラそれぞれが生き生きとして見え、ハイスピードの体術を繰り出すアクションも迫力がある。画単体として見るよりも、“動き”で捉えるアニメとして評価するのであれば、存分に高いクオリティーを保っていると評価したい。
また、ギュッと時間を凝縮させた劇場版アニメでない、長い時間をかけて楽しむ連続シリーズだからこそ、コスト面や技術を考慮した映像のクオリティーは「これで最適」と感じられたところもある。いずれにせよ、まずはとにかく“面白い”ということ、そしてアニメとしての“動き”のクオリティーは一級品ということは、信じて見てほしい。
5:エンタメ方向にシフトしたストーリー
「攻殻機動隊SAC_2045」の監督は、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「東のエデン」の神山健治と、「APPLESEED」「キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-」の荒牧伸志が共同で手掛けている(両名はNetflixで配信されたアニメ「ULTRAMAN」でも共同監督を務めている)。
「攻殻機動隊 SAC_2045」のタイトルにおけるSACとは「STAND ALONE COMPLEX(スタンド・アローン・コンプレックス)」の略であり、その意味は「独立した個人が結果的に集団的な総意に基づく行動を取る社会現象」だ。これは2002年より放送されたテレビアニメシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(以下、攻殻機動隊 S.A.C.)」の劇中で提示された造語である。
今回の「攻殻機動隊 SAC_2045」で明らかになるある事実も、“STAND ALONE COMPLEX”そのものといえる。それはSNSが発達し、“ネットリンチ”が日常的な問題となった今こそ、リアルな脅威として実感できるものになっていた。
それもまた物語の奥深さを与える大きな要素となっているが、メインとなるプロットそのものは「攻殻機動隊」のなかでも比較的シンプルかつ分かりやすいものになっている。
序盤で公安9課は荒廃した土地で傭兵のような活動をしており、やがて殺人事件を起こす謎の事件を追っていくこととなる。第1話から第6話まではアメリカ大陸西海岸にいたチームがその謎のめいた任務に赴くまで、幕間となる第7話を挟み、第8話からは日本で“ポスト・ヒューマン”と呼ばれる驚異的な身体能力を持つ存在の捜査に本格的に乗り出すことになる。
メンバーの目的と行動が明確化されているため、物語を追いやすいのだ。
押井監督版「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」では哲学的な思考にふけるシーンが多く、ダークでドライな作風でもあった。そこがファンから支持されている一方で、ある程度は見る人を選ぶ理由になっていたのだが、今回はアクションおよび犯罪捜査という、見た目にも分かりやすい方向性となっており、良い意味で対極的な作風となっている。
加えて後述するキャラクターのかわいらしさやユーモアもあるため、(起こる出来事は深刻であっても)良い意味でライトに楽しめる雰囲気が構築されているのだ。
ちなみに、前述した幕間となる第7話のタイトルは「はじめての銀行強盗」である。そこから想像しうる範囲を超えた、ほのぼの(?)としたドラマが描かれた楽しい話になっているので、期待してほしい。
6:キャラクターがかわいい(タチコマに萌え萌え)
キャラクターも今まで以上に親しみやすくなっている。主人公の草薙素子は“クールビューティー”の代表格といえるキャラクターであるが、今回はロシア人のイラストレーターであるイリヤ・クブシノブが手掛けたキャラクターデザインも手伝って、キュートなイメージも強い(劇中にはそのかわいらしさをイジったセリフもある)。部下を思いやり、リーダーシップの強さを発揮するシーンもあるため、個人的には今まで以上に彼女のことが大好きになった。
屈強な男バトーは今まで以上に軽口やジョークを言うユーモアがあり、素子たちと別行動となる生身の刑事トグサの心情も共感しやすい。今回のオリジナルキャラクターであるスタンダード(あだ名は“オモシロ”)はムードメーカー的存在として重要であったし、7話から登場する江崎プリンという天才少女もかわいらしかった。手垢のついた表現だが、“キャラ萌え”がかなり強調されていると言っていいだろう。
そんなふうに「みんなかわいいな〜」と思っていると、さらに萌え萌えになれるアイツも大活躍してくれる。我らがタチコマである。見た目こそ無機質な歩行ロボットだが、その人懐っこい言動と行動には「かわええー!」と骨抜きにされる。過去のシリーズでタチコマLOVEだった人は今回も満足できると断言しておこう。
さらに、後半からはある少年がメインストーリーに絡むことになる。彼は思春期の特有の悩み、そして世界に対する不信感や不満を体現した存在として、若い視聴者も共感がしやすいだろう。
なお、声優陣は田中敦子、大塚明夫、山寺宏一というおなじみのベテラン勢が続投しているのはもちろん、津田健次郎や潘めぐみといった実力派も新しく参加している。彼らの熱演およびキャラへのハマりっぷりが、さらにキャラの魅力を押し上げてくれている。
7:気軽に楽しめて先が気になる(早く第2シーズンをくれ……)
本作は各話それぞれが、オープニングとエンディングを合わせて24分という、テレビアニメ同様のタイトな尺になっている。前述した通り第6話でいったんの物語の区切りがあり、第7話が幕間的なサイドストーリーになっていたりはするものの、基本的には大きな物語をずっと追って行くロングストーリーの構成になっていると言っていい。
それぞれを短い時間で気軽に楽しめるうえに、各話に「続きが気になる!」というところで終わる、いわゆる“クリフハンガー”が用意されているため、ついついあと1話、あと1話と連続で見てしまう。配信サービスで映画やドラマを見ていると集中力が最後まで持たない、という人にも、本作を大いにオススメしたい。
なお、現在配信されている最終第12話も、またすさまじく続きが気になるところで終わってしまうため、「今すぐ! 第2シーズンを見せてくれ!」と苦しい気持ちになったことも告げておく。既に第2シーズンの製作が発表されているが、「続きが待ちきれないほどの面白さがある」というのは、本作のある意味での欠点かもしれない。
まとめ
「攻殻機動隊 SAC_2045」はSFを愛してやまない神山・荒牧両監督の作家性を感じさせた上で、「確かにこれは攻殻機動隊だ」とシリーズファンも納得できる作品に仕上がっている。個人的には、それぞれの監督作を振り返っても、間違いなく最高傑作だと断言できる。
なお、2002年より放送されたテレビアニメシリーズ「攻殻機動隊 S.A.C.」も現在Netflixで視聴できる。今回の「攻殻機動隊 SAC_2045」がその続編であると明確に提示されているわけではないが、“STAND ALONE COMPLEX”という現象をより深く理解する目的で、合わせて見てみるのもいいだろう。こちらもシリーズ初心者に親しみやすい作風であるため、「攻殻機動隊 SAC_2045」の第2シーズンが待ちきれない人にもオススメだ。
Netflixでのオリジナルのアニメシリーズは、つい先日「BNA ビー・エヌ・エー」も評判となったばかりなのに、続けざまにこれほど夢中になれる本作が生まれたのがうれしくて仕方がない。今は家でエンタメを味わい尽くせる時期なので、ぜひこの「攻殻機動隊 SAC_2045」も候補に入れてほしい。最も親みやすく、ストレートなエンタメ性で楽しませてくれる「攻殻機動隊」が、あなたを待っている。
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