家にいるのがつらいので、家に帰れない人の映画を観よう
性格の悪いリフレッシュ方法を紹介します。
家にいるのつらくないですか。
各地で緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出を控えなくてはならない状況。
先の見えない非常事態に、とりあえず自身にできる外出自粛という処置を取るしかないながらも、この春の陽気の中、家で悶々と過ごすのは非常にストレスがたまりますよね。
ましてお仕事のために外出せざるを得ない方なんて、せっかくの休日が家の中で終わっていく虚しさを余計に感じてしまうのではないでしょうか。
はあ、家にいるのがつらい。でも家にいるしかしょうがない……。そんなことを思いながらボーっと映画を観ていると、主人公が森の中で未知のエイリアンに襲われていました。
あれ? もしかして、俺ってこの人より全然マシなのでは?
というわけで今回は、家にいられることに思わず感謝してしまうような、家に帰れない人を描いた映画を紹介していきたいと思います。性格の悪い対処法ですが、フィクションの楽しみ方は人それぞれなんで。いきましょう。
「フォーリング・ダウン」
「家に帰れない男」と言われれば、やはりこれが思い浮かびます。マイケル・ダグラスが見事な演技を見せた、ジョエル・シュマッカーによるサスペンスドラマです。
舞台は1991年のロサンゼルス。灼けつくような日差しの中、先の見えない渋滞に巻き込まれている1人の男。鳴りやまないクラクションに、こちらをじっと見つめる前方車両の子供。地獄のような暑さの中、狭い車内を飛び回るハエ……。ついに車から飛び出した男は、車を放置してスタスタと歩き出す。「おい! どこへ行くんだ!」周りからの怒声に男はこう答える。「家に帰る!」
思わず細かく描写してしまいました。いや実に魅力的なオープニング。マイケル・ダグラス演じる主人公は、ただ家に帰りたい一心で、欺瞞(ぎまん)と欲棒にまみれた薄汚いロスの街でメチャクチャやらかしていきます。
主人公にドン引きしたり、共感してしまったり、とにかく忙しい112分。「ただ家に帰りたい」と願うばかり、頭のネジが外れてしまった主人公と、それを取り巻く劣悪な社会環境を見ていると、家でボーっと安息を得ている瞬間がいかに幸せかを実感できるでしょう。社会にまったく安息の無い本作は、一生家から出たくない、とさえ思わせる説得力があります。
描かれる社会は約30年前であるものの、今観ても共感できてしまうシーンばかり。少々俗っぽく紹介してしまいましたが、社会派サスペンスとして非常に優れた、ぜひ押さえておきたい一本。オススメです。
「見ろ!この宣材写真のバーガーはふっくらして美味そうだ。それなのに一体なんだ、この潰れたマズそうな代物は!?」
「[リミット]」
はい。ご存じの方も多いであろう、シチュエーションスリラーの有名作、「リミット」です。「生き埋めにされた! ライターと携帯と酸素はあるけど、一体どうすれば!」というお話。
この「リミット」以降、サバイバル系シチュエーションスリラーが日本でも流行し始めた気がするんですが、どうでしょうか。「想像してみたらメチャクチャ怖い」ようなお話であればあるほど、観てみたくもなりますよね。この作品は、そんなシチュエーションスリラー群の中でも特に面白く、密室劇としても優れた一作といえると思います。
とにかく息苦しい映画です。閉所恐怖症の方なんかは観ていられないだろうな。全編にわたって主人公の呼吸音が聞こえている、限りなく閉鎖的な作品です。残り少ない酸素やライターを使うごとに大きくなっていく不安……。それに加え、主人公が必死で助けを求める電話越しの相手へのイライラも半端ない。無能大学を卒業したのか?
これを観ている最中、強烈な息苦しさに思わず、立ち上がって身体を伸ばしたい!と叫んでしまうことでしょう。でも、あなたは身体を伸ばせるんです。だって家にいるから。ライアン・レイノルズ演じる主人公は生き埋めにされていて大変かわいそうですが、あなたは自宅にいるのです。なんて幸せなんでしょう。
「ジャングル ギンズバーグ19日間の軌跡」
お次はジャングルです。実在したヨッシー・ギンズバーグという方の著書をもとに制作された、オーストラリア・コロンビア製のサバイバル映画。主演はハリーポッターでおなじみダニエル・ラドクリフです。彼、方向転換ということなのか、ハリーポッターを卒業してからクセのある役柄ばかり演じている印象ですけど、本作もその傾向に漏れない怪演を披露しています。
仲間2人とうさん臭いガイド役を1人連れ、ジャングルに降り立った主人公ヨッシー。幻の部族と秘境を目指し奥へ進んでいくが、次々とトラブルが起こり…
要は広大なジャングルに取り残されてしまうわけですね。トム・ハンクスの「キャストアウェイ」なんかを連想してしまいますが、そちらと比べて本作は人間同士のドラマにも重きが置かれている内容。“自然の厳しさ”というよりは、“人間の弱さ”がメインに描かれています。
だから、基本的にはヒューマンドラマ要素の強い作品ではあるんですが、サバイバル要素もかなり気合が入ってます。ていうかまあサバイバルというより、ただただ死なないように這いつくばっているだけなんですけど、いや本当、広大な自然を前に人間というものはここまで無力なのかと痛感させられる内容になってます。ホラー出身の監督らしく、「ウギャー痛い痛い痛い!!!」なシーンもちゃんとあるよ!
難を言えば、どうにも全体のテンポが悪く、特に遭難してからは基本的にジャングルをさまよっている場面ばかりが続きます。でもだからこそ、その停滞感から主人公の家に帰りたさが痛いほど伝わってくる側面も。ダニエル・ラドクリフがめちゃくちゃ汚くなっていくのを尻目に、私たちは思う存分熱いシャワーを浴びてやりましょう。
「ディープ・サンクタム」
スペインの洞窟スリラーです。洞窟系スリラーといえば、傑作「ディセント」が思い浮かびますが、少し趣旨が違うので、今回は誰も知らないであろうこちらを紹介。「ディセント」もぜひ観てみてくださいね。
こちらもお話は簡単。バカンスにやってきた5人の男女グループが、ビーチのそばで見つけた洞窟の中に入ったら迷って出られなくなっちゃうというもの。「バカじゃん」って思ったでしょ? バカです。
また、そのあらすじだけ聞いてからこの豪快なジャケを見ると、「えっ、それからどうなっちゃうの!?」と期待してしまいますが……何も起こりません。登場人物たちが洞窟内で生き延びるためにサバイバルをしたり、仲間割れをしたりする、だけです!
「なんだ、全然思ってたのと違うじゃねえか」と思ってほしくなかったので正直に言ってしまいましたが、これ面白いんですよ。グロ描写もしっかりあって、心理スリラーとして押さえるべきところはしっかり押さえてある。ジャケから過度な期待をしなければ、問題なく楽しめる作品かと思います。
食料も水も無いとなれば、まあ考えることは自ずと限られてくるわけで……。幸い、物流もまだ問題なく動いている状況で、水も食料もしっかり確保できるわれわれからすれば、天と地ほどの差。インフラに感謝しましょう。
「サークル」
こちらはSF風味のスリラーです。
真っ暗な謎の空間で目を覚ました、50人の老若男女。訳も分からずに慌てふためく彼らは、自分の立っている円の外に出たら死んでしまうということに気が付き……といったお話。このあらすじは序盤も序盤ですが、これ以上の情報は極力入れないで観ていただきたい。
SFともいえるし、スリラーともいえるし、ヒューマンドラマともいえるし、社会派映画ともいえる、そのビジュアル同様少し変わった映画です。基本的に登場人物の会話だけに終始する展開は、好みの分かれるところかもしれませんが…。個人的には大のお気に入りの作品です。全編を通して緩急がうまく、演出も的確。ネタバレが怖いので詳しく説明できないのが悔しいところですが、ホロリと泣いてしまうような場面まであります。
自宅どころか、円形の枠から出られない彼ら。この映画を観ながら反復横跳びでもして、マウントを取ってやりましょう。
「マンホール」
B級ホラーです。これは嫌ですよ〜。配管工である主人公が、下水の水質汚染を解決すべく単身マンホールに潜っていくというお話。ホラー映画なので当然、地下から出られなくなります。しかも、下水には男の死体が浮いていた……という。そのシチュエーションだけでも相当イヤですが、本作のキツいところは強烈なビジュアル面です。
とにかく汚物、汚物のオンパレード。登場人物は基本的に嘔吐します。それだけではなく、不衛生極まりない汚染された下水を浴び続ける主人公は見るも無残な姿に変貌していきます。嘔吐しながら。もうきったねえのなんの。「不衛生」というジャンルがあれば真っ先にこの映画が分類されるはず。それくらい不潔な画面が続きます。
根を上げるのはまだ早い。この映画は人を嫌な気持ちにさせようという気概にあふれており、先述の悲劇に加え、取って付けたように殺人鬼が登場し、人間をズタズタに引き裂いていきます。そのグロ表現もかなりのもの。
正直、映画として優れているわけではありません。ただ、あまりにも主人公がかわいそうで、これ以上に、家にいることが幸せに思える映画は無いので紹介させていただきました。念のため言っておきますけど、そういうものに耐性の無い方は観ちゃいけませんよ。
さて、少しでも家にいられる幸せというものを感じていただけたなら幸いです。本当に大変な時期ですが、映画は形を変えることなく寄り添ってくれます。紹介した映画はつらい作品ばかりでしたが、「落ち着いたら旅に出たいなあ」なんて思いを馳せながらロードムービーの名作を鑑賞するのも良し。普段はあまり観ないという方も、たまには映画の懐の深さに頼ってみるのもいいかもしれませんよ。
<城戸>
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