思春期な“こじらせ”に寄り添うアニメ映画「泣きたい私は猫をかぶる」の「5つ」の魅力(2/2 ページ)
今回の「泣きたい私は猫をかぶる」でも、主人公が思い人の男の子に決定的な一言を言われてしまう、まさに「言葉で傷つけられてしまう」シーンがある。いつも(カラ)元気に見えていた彼女の希望が打ち砕かれた瞬間、心が抉られるように感じる方はきっと多いだろう。
この「大切な人を言葉で傷つけてしまう」という岡田麿里脚本の特徴は、見る人にどうしても“居心地の悪さ”を与えるため、少なからず賛否を呼ぶ理由でもあるだろう。しかし、それは思春期の少年少女の悩みをくみ取ろうとする、作家としての優しさでもある。今回の「泣きたい私は猫をかぶる」でも、そのことは明確に少年少女へのエールへと昇華されていたので、大いに支持したい。
また、岡田麿里脚本のもう1つの特徴として、「性的な生々しさ」がよく描かれるということも。これもまた、思春期の少年少女の悩みをくみ取ろうとする作家性に付随したものだろう。ただ、今回の「泣きたい私は猫をかぶる」における性的な生々しさはほんのわずかに示唆されている程度であるので、小さなお子さんが見ても全く問題はない、ということは明記しておく。
4:志田未来と花江夏樹の演技が好対照、そして神がかり!
本作「泣きたい私は猫をかぶる」で、おそらく誰もが絶賛するであろうことは、主人公の少女のボイスキャストである志田未来なのではないだろうか。「借りぐらしのアリエッティ」「風立ちぬ」などで既に声の出演の経験があった彼女の演技は、今回はもう神がかり的なレベルにまでなっている。
前述したように、主人公のムゲは変人を通り越してあだ名通りに“無限大謎人間”に見えるのだが、実際は「まわりの誰からも愛されていないと思い込んでいる」という繊細な性格である。志田未来は、情緒不安定ともいえる彼女のコロコロと変わる喜怒哀楽を完璧に演じてみせた上で、前述の「言葉で傷つけられてしまう」シーンでの辛く苦しい心情もこれ以上なく表現しきっていた。
そして、そのムゲが恋い焦がれる男の子を演じたのは、「鬼滅の刃」をはじめ数々のアニメ作品で主演を務めている人気声優の花江夏樹だ。監督の1人である柴山智隆いわく、彼が演じるのは「家族に愛されていることは分かっているけど、その中で自分の気持ちをうまく言えないでいる子」であり、ムゲとは対照的な性格。花江夏樹の朴訥な演技と声質が、その(下世話な表現だが)“陰キャ”ぶりにバッチリとはまっているのだ。
その他、寿美菜子、小野賢章、千葉進歩、川澄綾子、大原さやか、浪川大輔、山寺宏一、おぎやはぎの小木博明と、脇を固めるボイスキャストも豪華かつ、ぞれぞれが文句のつけようのない采配、そして見事な演技だ。声優ファンにとっても、見どころの多い作品だろう。
5:スタジオコロリド作品の素晴らしさを、知ってほしい
「泣きたい私は猫をかぶる」はアニメーションとしてのクオリティーもとても高い。ぜひ、本作を手掛けた制作スタジオの“スタジオコロリド”の名前を、覚えて帰っていただきたい。
キャラクターの表情のかわいらしさ、ファンタジックな表現の豊かさ、“奥行き”や“疾走感”があるアクションシーンなど、その魅力は枚挙にいとまがない。同社が2018年に手掛けた劇場アニメ「ペンギン・ハイウェイ」のほか、YouTubeで公開されている、連作短編シリーズ「FASTENING DAYS」や、企業CMなどでも、その素晴らしさは伝わるはずだ。
今回の「泣きたい私は猫をかぶる」が、ダブル監督で制作されていることも特筆しておきたい。その1人は「美少女戦士セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」などを手掛けてきた大ベテランの佐藤順一。もう1人の監督である柴山智隆はこれが長編デビューとなるが、「千と千尋の神隠し」に仕上げとして参加した後、アニメーターに転身、多数のA-1 Pictures作品に関わり、スタジオコロリドのCM作品でも活躍した。ダブル監督の体制は、トップクリエイターが新世代の才能を育てるための、アニメーションの未来への橋渡し的な意味合いも感じられるのである。
また、本作はもともと劇場公開が予定されていたのだが、新型コロナウイルスの感染拡大により、前売券の発売延期、公開日の延期、そして劇場公開はせずに全世界でNetflixによる独占配信が決定する運びとなった。
作品としてのクオリティーが存分に高いこともあって、「映画館で見たかった……!」という気持ちももちろんあるのだが、家の中で過ごすことが多いいま、たくさんの家庭で思春期の少年少女の悩みに優しく寄り添う本作が見られるということは、喜ばしいとも思う。本作でスタジオコロリドに興味を持った方は、ぜひ過去の作品群も追って見てみてほしい。
(ヒナタカ)
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