100日後に振り返る「100日後に死ぬワニ」 作者・きくちゆうきインタビュー(5/5 ページ)

» 2020年06月28日 19時00分 公開
[福田瑠千代ねとらぼ]
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――出版社が決まってからは?

きくち 年が明けてから出版社が小学館さんに決まり、担当さんと初めて打ち合わせをしました。1月6日の、本編だと30日目の手前くらいからですね。そこで「終わりは決めているんですか?」と聞かれて、「『当たり前は当たり前じゃない』っていうのを感じて欲しいと思っています」といったお話をさせてもらいました。

――Twitter漫画で、連載の途中から担当編集が付くのはちょっと珍しい気がします。担当さんが付いて作り方に変化は?

きくち 描きやすくなりましたね。1日1枚じゃなくて、10日分まとめてラフを描いて、これは良いけどこれはナシのほうが良いねとか。当日になって事件とか、世間的な出来事があったときは描き直したり順番を変えたりするようになりました。

 M1があったときに「みんな見てるな」って思ったから、ワニも見ているシーンを入れたり。バスケットボール選手のコービー・ブライアントさんが亡くなった日にちょうどバスケをやる回をやろうとしていて、この日に楽しげにバスケをやるのはちょっと嫌だなって思って、後日にずらしたり。ちなみに僕も毎週火曜にバスケやっていたので、あれはそのことを描きました。

――モグラくんなんかは最初あまり色がなかったのに、だんだん「ちょっとウザい感じ」が出てきて、連載の中で変化していきましたよね。

きくち 長い間付き合ってると口が悪くなるやつっているじゃないですか。そこの部分だけ切り取ってみると「嫌な奴」だと感じるけど、当人同士は分かってるという、その感じを出したかったんですよね。

――「やれし」とか「ハッピーボーイかよ」とか、セリフがすごく生々しいなと感じていましたが、これは仲間内で実際に使っているフレーズですか?

きくち 「ハッピー」は結構言っちゃいますね。言葉遣いはいつも使うような、伝わらない人がいても、伝わる人には伝わるだろうなというものを選んでいます。でも「これどういう意味?」って聞いてくる人は結構いましたね(笑)。


きくちゆうきの創作ルーツ

――友達との距離感については、以前から連載されている『どうぶつーズ』シリーズからずっと描いていますよね。

きくち 友達との関係については、あまり考えは変わってないですね。



――『どうぶつーズ』から思い切って絵柄を変えた理由は?

きくち 『どうぶつーズ』は5年ほどやっていて、今後も続けていきたい作品なのですが、等身を下げたらもっといろんな人に届きやすいかなとは感じていました。あとは「死ぬ」というテーマが重いので、キャラをかわいくするギャップを出すねらいもありました。

――『どうぶつーズ』はなんというか……かなり前衛的な作風ですよね。そもそも漫画家を志したきっかけは?

きくち デビューさせていただくまで漫画家を志したことがなかったんです。もともと『どうぶつーズ』でもキャラを描いて、グッズにして、コミティアやデザフェスで販売していました。あくまでキャラの良さを知ってもらうために1ページの漫画を描くスタイルだったんです。ネットで公開しつつ、そうして描きためたものが結構まとまってきたので、自分でお金を出してプリントパックで本にして。またコミティアに参加した際、出張編集部があったので、せっかくここにいるし、ダメ元で見せに行こうって思って。そしたらその場で連載が決まりました。それが27〜28歳ごろですね。今では漫画家の自覚を持ってやっています。

――ちなみにそれ以前の経歴は?

きくち 印刷の会社に勤めながら絵を描いていました。LINEスタンプがクリエイターで出せるようになったので、『どうぶつーズ』のスタンプを出したら結構売れたんですよ。それでこれはもしかしたら……と思って。その会社では副業禁止だったので……やりたいことはこっちだから、会社やめようって思って。

――「ワニ」イズムですね。

きくち それでイベントに結構出られるようになって、連載につながりました。会社をやめたのが27歳ごろなので、『どうぶつーズ』のトニーも27歳なんです。

――絵柄とかキャラクターで影響を受けたものなどはありますか?

きくち 海外のアーティストの絵が好きで、「ラットフィンク」や「タートルズ」とか。そういうのを生み出したいです。


「ラットフィンク」はカスタムカーデザイナーのエド・ロスさんによるキャラクター。ミッキーマウスへのカウンターとして考案された(画像は「ラットフィンク」公式サイトより

――あー! ちょっとつながった気がします。

きくち 『どうぶつーズ』もそういうキャラクターを作りたいと思って始めたんです。キャラの良さって絵だけでは最大限に伝わらないと思っています。Instagramでは海外の人の作品ばかり見ています。

――『ワニ』の絵柄でヒットしてしまって、『どうぶつーズ』がやりにくくないですか?

きくち 特に気にしていません。本質部分は結構同じなんです。最終的にクセになってもらいたいす。

中尾 新しい読者には復活連載中の『何かを掴んでないとどこかに飛んで行っちゃうアザラシ』にも触れてもらいたいですね。こちらは「死」というテーマを扱った『ワニ』に比べると本当にゆるい内容ですが、逆にこっちの方が好きという人もいるはずなので。



――『アザラシ』と『どうぶつーズ』以外に次回作の予定は?

きくち 2つあって、1つはブログを始めようと思っています。日常のことはそこで4コマ漫画にして発信していこうかなと。

 もう1つの新作は、まだ発表場所も未定ですが、今回のワニのことがあったから、僕にしか描けないことを全部そこに盛り込んでやろうと思ってます。皆が追いたくなるような話にしたいですね。

――期待しています。映画版「100日後に死ぬワニ」もどうなるか楽しみです。

きくち 映画についてはまだ全然言えないんですけど、やるからには良いものを作りたいと思っているので。漫画の物語ありきなんだけど、それ以外の部分でも楽しめる感じにしたいですね。脚本作りにも監修として入っているので、待っていてくれるとうれしいです。







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