映画「MOTHER マザー」レビュー 長澤まさみが共感度ゼロな毒親になる、もはや実写版『連ちゃんパパ』な暗黒映画(2/2 ページ)
そして、映画が進むにつれて、長澤まさみの毒親ぶりがさらに“板につく”ように見えるのも凄まじい。物語の時系列に沿った“順撮り”がされていたこともあってか、長澤まさみの目がだんだん死んでいき、後戻りできないほどのクズへと化し、息を吸うように犯罪に手を染め、息子なしには生きられなくなってしまう様が、もはや演技には見えない勢いになっていた。
彼女のパートナーとなる、ホストの男を演じた阿部サダヲもすごい。その言動はナチュラル・ボーン・クズのようでいて、虚勢を張って大声を挙げて相手を威圧するしかない“弱い”人間であることも伝わってくる。クズである以上に、弱さを持っている2人だからこそ意気投合したのではないか……とも思わせてくれる。
そして、成長した後の息子を演じた新人の奥平大兼(おくだいらだいけん)がまた素晴らしい。鋭い眉毛と瞳には、年齢にそぐわない色気と迫力を感じさせる。同時に、年齢相応の不器用さ、年の離れた妹の世話をする“優しさ”も感じられることも、なんとも切なくさせてくれる。
本作を見て、是枝裕和監督作「誰も知らない」を思い出す方も多いのではないだろうか。主演の新人のルックスが似ていること以上に、実際の事件に着想を得ていること、シングルマザーと子ども(たち)の物語であることも共通しているのだから。新人・奥平大兼の演技と存在感は、まさにあの時の柳楽優弥が蘇ったかのようだった。
柳楽優弥を彷彿とさせるルックスの新人が主演を務め、同じく「最悪がさらに最悪を呼ぶ地獄エンターテインメント」という点では、上村侑(うえむらゆう)主演の現在公開中の自主制作映画「許された子どもたち」も連想させた。同時多発的に、日本映画界の未来を担うかもしれない新生が現れた、と言っていいだろう。
その他、本作「MOTHER マザー」には夏帆、皆川猿時、仲野太賀、土村芳、木野花などの実力派の俳優が勢ぞろいしている。中でも「海街diary」でも共演していた長澤まさみと夏帆が、今回はどのような関係性に向かうのかにも、注目してほしい。
3:この世にある最悪を描く意義
本作は2014年に起こった、17歳の少年による殺人事件に着想を得ている。実際の事件と共通している事実も映画内で多く描かれているのだが、本作はあくまで「実際の事件をフィクションの物語に落とし込む」作品であり、寓話的に“親子とは何か”を問う内容と言っていいだろう。
事実、大森立嗣監督は、表面化しやすい理想化された親子のイメージが定着している世の中だからこそ、「一般的には許容しにくい親子の姿」や「それでも彼らが生きていかなきゃいけないという感覚」を描きたかったと語っている。
そうなのだ。ここまで極端な例はまれではあるだろうが、似たようにまともな社会生活を送れていない親子はこの世界に確実に存在していて、彼女らはそれでも“生きている”。理想化された親子像とは正反対の彼女たちの姿もまた、“親子”と定義できるものなのだ。たとえ、最低最悪の毒親と、彼女と共依存にある息子の関係であったとしても……。
また、キャッチコピーである「こんな母親でも僕にとって世界(すべて)」は、作品の本質を示している。子どもにとって、母親とはそれほど大きな存在になりうるのに、その思いを無下にするほどの毒親の言動は、改めて許し難いと思わせてくれる。
本作はクズエピソードのオンパレードで、最悪からのさらに最悪を見せつけられる、毒親への怒りを誰もが覚える内容だが、だからこそ反面教師的に学べることが多い。それは、作り手がこの世における最悪な出来事(実際に起こった殺人事件)と、真摯に向き合った結果だろう。
『連ちゃんパパ』の作者であるありま猛も、インタビューで、「(パチンコ)依存症を描くのに、お情けをかけちゃいけないと思った」「自分で描いてても嫌なんです」「『子どもがかわいそうだ』って思って途中で読むのをやめた人もいたみたいですけど、そう思ってくれたなら大成功なんですよ」と語っている(関連記事)。
「MOTHER マザー」の世間的な価値観からすれば間違っていると断言できる親子の姿、そして彼女たちが辿る顛末は、この世に存在し得る(実際に存在していた)ものだ。登場人物たちが間違い続ける過程をじっくりと丁寧に見せてくれるからこそ、本当に最悪な気分にさせてくれる。これこそが映画「MOTHER マザー」やマンガ『連ちゃんパパ』で最も重要なことではないだろうか。
また、こうした“物語”があればこそ、テレビのワイドショーでは知り得ない、取り返しのつかない事件を起こした“人間”の気持ちを知ることができる。それが、創作物の1つの意義なのではないか。楽しい気分になれる作品ももちろん良いが、「MOTHER マザー」や『連ちゃんパパ』といった“暗黒作品”も、やはり必要なのだ。
(ヒナタカ)
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