意味がわかると怖い話:「旧友からの連絡」(2/2 ページ)
解説
メッセージを送って来たのは、Yに成りすました誰か――おそらくは強引に関係を持たれた女性か、その関係者だったのです。受けた屈辱の復讐のために、2人を探していたのでしょう。
犯罪行為に加担するほど仲の良い店員がいる常連客だったのですから、バーで証言を引き出し、Yを特定するのは容易かったでしょう。
「犯人」は彼の「共犯者」を探すために、Yの名前でFacebookのページをつくり(「ピシッとスーツを着た真面目そうな写真」は、勤め先のホームページにでも載っていたのかもしれません)、年齢が近く同じ大学のサークルやゼミ等に入っていた人間に片っ端からメッセージを送り付けていたのです。それに語り手が引っかかり、2人の罪を「自白」してしまった。
語り手は、友人の死の直接の引き金を引いてしまったばかりか、「犯人」に自分の住所まで伝えています。つまり……。
白樺香澄
ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。クラブのことを恋人から「殺人集団」と呼ばれているが特に否定はしていない。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba
「加害者にされる」恐怖
今回は、「中学時代の友人だったS」という有名コピペをモチーフに、発展形を目指して書いてみました。
「中学時代の友人だったS」は、出会い系サイトで中学時代の旧友が登録しているのを見つけ、公開されていたアドレスにメールして昔話に興じていたら、実は相手は旧友のストーカーで、彼女に成りすましてアクセスしてきた「友人たち」を誘導し、情報を集めていたことがラストで分かる……という話です。
この話のキモである「知らぬ間に加害者側になってしまう」恐怖に、「自身にも危機が迫っている」恐怖も織り込み、より語り手に迫った怖さを目指したのですが、元のコピペの方が、被害者−加害者の関係に対して語り手の距離がある分、「巻き込まれる」「加害者にされる」恐怖が、より直接的に感じられて怖いという人も多いと思います。
この「炎上時代」には、「加害者にされる」ことが、あるいは一番の恐怖かもしれません。
ところで、「SNS等で知っている人と思って話していた相手が別人だった」という怪談の話型のルーツは、おそらく「山彦伝承」まで遡れるのでしょう。
岐阜県の山間部など、「ヒトのふりをして怪異が呼びかけてくる」伝承がある地域では、「怪異は同じ言葉を繰り返せないので、互いに声をかける時は二度繰り返して呼ぶ」という「攻略法」が同時に伝わっているそうです。山中で作業をする林業従者による、(現象としての)山彦などによる指示の聞き間違いをなくし、事故を防止するための言い伝えだったのでしょうね。
ちなみに電話口で「もしもし(申し、申しと重ねて言う意)」と言うのも、互いが人間であることを証明し合う一種の魔除けだと説明されることがありますが、こちらはガセ。単純に、最初期の電話は音質が悪かったので、聞こえているかの確認のために複数回呼びかけるのが通例だったというだけで、みんな勝手に「おいおい」とか「こらこら」とか言っていたようです。電話口の挨拶としての「もしもし」を考案したのは、電気技術者の加藤木重教さんだと言われています。
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