「日本沈没2020」の8つの注目ポイント 今こそ日本人の心を打つ理由(2/2 ページ)

» 2020年07月12日 11時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
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 なお、「日本沈没2020」に年齢制限はされていないが、流血や人体損壊、性描写や性的な話題、薬物(大麻)使用の描写もわずかに含んでいる。もちろん「ミッドサマー」ほどエグいわけではなく、映画で言うところのPG12指定程度のものではあるが、小さいお子さんの視聴には気をつけたほうがいいかもしれない。

 作品のメッセージや精神性を振り返れば子どもにも見てほしいと願える内容でもあったので、個人的にはそうした描写はもう少し隠してもよかったのでは、と思うところもある。とはいえ、巨大災害の残酷さ、インモラルなこともしっかり描ききることは、本作の美点でもあるだろう。

5:湯浅政明との相性の良さ

 本作で監督をつとめたのは、2017年の「夜は短し歩けよ乙女」や2019年の「きみと、波にのれたら」などのアニメ映画の他、2020年のテレビアニメ「映像研には手を出すな!」も大評判を呼んだ湯浅政明。「液体的」「ドラッギー」とも形容される、大胆なパースの画づくりや流れるような人体の動きといった湯浅節は今回も健在。「日本がぐっちゃぐっちゃになる」ほどの巨大災害と湯浅政明の作家性の相性は抜群だった。


「日本沈没2020」の8つの注目ポイント 今こそ日本人の心を打つ理由がある」 (C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

 湯浅監督にとっては、「DEVILMAN crybaby」に続いて2つ目のNetflixオリジナルアニメシリーズでもある。「原作の物語をスマホやSNSのある現代に置き換える」「陸上選手が重要なキャラクターとなる」などのアレンジが今回の「日本沈没2020」と通じているので、合わせて見てみても面白いだろう(ただし「DEVILMAN crybaby」はR15かR18相当のエログロさなので注意してほしい)。

 なお2016年の「映画 聲の形」の他、公開延期となったアニメ映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」でも音楽を務める牛尾憲輔が、「DEVILMAN crybaby」に続き今回も参加している。物語をエモーショナルに盛り上げてくれる、その壮麗な音楽にも聴き入ってほしい。


6:日本という場所の再定義

 原作小説の「日本沈没」は、日本という場所のアイデンティティー、その素晴らしさを再定義しているところがあった。日本文化や自然の美しさなどが語られており、日本列島に「恋をする」という表現さえも使われていたりもするのだから。沈みゆく日本というこの上のない絶望を通じて、それでも日本は素晴らしいのだと、逆説的に希望をうたっているとも言い換えられるだろう。


「日本沈没2020」の8つの注目ポイント 今こそ日本人の心を打つ理由がある」 (C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

 その精神は、「日本沈没2020」でもしっかり受け継がれている。「日本とはどういう国なのか」という問いを、前述した多様性、国際色のあるキャラクターたちが提示するというのがまた感慨深い。象徴的なのは、第9話で歩たちが“ある方法”でお互いの主張をぶつけ合うシーンだ。決して日本を賛美するだけでない、そのネガティブな点をも隠さずに提示するのも、非常にフェアだ。

 また、劇中には“金継ぎ”の工房も登場する。金継ぎとは「傷跡を金で装飾し、それを目立たせて美しいものと見なす」という日本独自の美的意識が表れた陶器の修復方法だ。劇中ではこの金継ぎが日本の文化の象徴の1つとして登場するのはもちろん、巨大災害で崩壊した場所について「壊れても、また別の美しいものへ生まれ変わることができる」という希望を示しているかのようだった。


7:新型コロナウイルスの影響でさらに説得力を増すメッセージ

 原作小説および最初の実写映画が世に出た1973年は高度経済成長が終焉した後であり、市井の人々は未来への不安と希望がないまぜになっていたという。そのタイミングでの“最悪の災害”を提示したからこそ、「日本沈没」は大きな注目を集めていたとの見かたもある。作品そのものが、時代の写し鏡のようなものだったのだ。

 この「日本沈没2020」もいまの時代に合わせ、日本中の人々が2020東京オリンピックに熱狂し、同時に未来への不安を抱えていることを想定していたのだろう。しかし、本当の現実では新型コロナウイルスのパンデミックによりオリンピックは延期となり、世界中の人々がとてつもない不安と恐怖にさらされることになった。さらに現在、国内では豪雨の被害が甚大なものとなり、日本人は自然災害の脅威と恐ろしさを改めて目の当たりにしている。


「日本沈没2020」の8つの注目ポイント 今こそ日本人の心を打つ理由がある」 (C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

 皮肉と言うべきか、想定外と言うべきか、さらなる現実の危機があったからこそ、この「日本沈没2020」のメッセージは、よりストレートかつ説得力をもって、現代の人々の心に訴えることになりそうだ。


8:ラストまで、見届けてほしい

 最後に、本作「日本沈没2020」で何よりもお願いしたいのは、「最後まで見てほしい」ということだ。最終話である第10話で訴えられているメッセージは、もう涙なしには見られない、本記事で書いてきたさまざまな要素もここに結集した、心から素晴らしいと称賛できるものであったからだ。


「日本沈没2020」の8つの注目ポイント 今こそ日本人の心を打つ理由がある」 (C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

 これこそ、新型コロナウイルスのまん延で先行きが見えない、現実で未曾有の危機と不安にさらされている世界中の人、そして、もともと災害が多い国である日本に住む人々の心を打つものでもあった。未曾有の事態に翻弄され、膨大な人命が失われた先に何があるのか……ぜひ、見届けてほしい。

ヒナタカ


「日本沈没2020」OP(歌詞入り特別ver. )|主題歌:「a life」大貫妙子&坂本龍一

作品情報

配信日:Netflixにて、7月9日(木)全世界独占配信(※中国本土を除く)

作品ページ:netflix.com/日本沈没2020

エピソード:全10話

キャスト:武藤歩:上田麗奈/武藤剛:村中知/武藤マリ:佐々木優子/武藤航一郎:てらそま まさき/古賀春生:吉野裕行/三浦七海:森なな子/カイト:小野賢章/疋田国夫:佐々木梅治/室田 叶恵:塩田朋子/浅田 修:濱野大輝/ダニエル:ジョージ・カックル/大谷三郎:武田太一

原作:小松左京『日本沈没』 監督:湯浅政明

音楽:牛尾憲輔 脚本:吉高寿男 アニメーションプロデューサー: Eunyoung Choi

シリーズディレクター:許平康 キャラクターデザイン:和田直也 

フラッシュアニメーションチーフ:Abel Gongora 美術監督:赤井文尚 伊東広道 

色彩設計:橋本賢 撮影監督:久野利和 編集:廣瀬清志 音響監督:木村絵理子  

アニメーション制作:サイエンスSARU 

主題歌:「a life」大貫妙子 & 坂本龍一(作詞:大貫妙子/作曲:坂本龍一)

公式twitter:@japansinks2020

製作:“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

(C)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners

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