「降谷零さんと出会って生活が一変した」 二次元のキャラに恋をする“フィクトセクシュアル”の結婚・恋愛像恋愛・結婚のかたち

新しい形の恋愛・結婚について考えていく連載「恋愛・結婚のかたち」(全5回)。第2回は、フィクションのキャラクターに魅力を感じる「フィクトセクシュアル(二次元性愛)」の結婚生活について聞きました。

» 2020年08月06日 18時00分 公開
[しげるねとらぼ]

 現実の人間ではなく、フィクションのキャラクターに性的魅力を感じるセクシャリティのことを表すフィクトセクシュアル(二次元性愛)という言葉があります。これまではあまり知られていませんでしたが、近年ではフィクションのキャラクターと“結婚”する人も現れるなど(もちろん法律婚ではなく、あくまで本人の“気持ち”としての結婚)、少しずつ一般にも認知されるようになってきています。

 今回取材した降谷織さん(@furuya_sikiも、フィクトセクシュアルとして生活している一人です。彼女の結婚相手は、『名探偵コナン』の人気キャラクターである降谷零さん。架空のキャラクターを「夫」として生活する織さんの暮らしは、一体どのようなものなのでしょうか。


恋愛・結婚のかたち フィクトセクシュアル 織さんが結婚にあたり作成したペアリング

連載「恋愛・結婚のかたち」

この記事は、ねとらぼとYahoo!ニュースの共同企画による連載記事です。国勢調査によると、2015年時点で男性の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚をしたことがない人)は23.37%、女性で14.06%と、1990年の男性5.57%、女性4.33%から大幅に上昇(国立社会保障・人口問題研究所の調査より)。近い将来、男性の3人に1人が“生涯未婚”の時代がやってくるとも予想されています。一方で、そうした社会背景と呼応するように、これまでの一般的な形にとらわれない、新しい恋愛・結婚のスタイルを選ぶ人たちも増えてきました。ここではそんな「新しい恋愛・結婚の形」を選んだ人、選ぼうとしている人たちを取材し、これからの恋愛・結婚について考えていきます。



普段の夢女子活動とは違った、降谷零との出会い

 織さんはもともと“夢女子”と呼ばれるタイプのオタク女性でした。夢女子とは、架空の男性キャラクターと、自分(あるいはオリジナルの女性キャラクター)との恋愛を描いた作品を好む女性のこと(※)。活動範囲はさまざまですが、織さんは主に二次創作小説を読んだり書いたりするのが好きな女性です。

※主に“架空の男性キャラクター同士の恋愛”を好む、いわゆる“腐女子”とは分けて語られることが多い

 過去には“三次元”の彼氏がいたこともあるという織さんですが、定期的に電話やメールをしたりするのが苦手で、自分の時間が自由にとれないのが苦痛だったといいます。もともと出産願望もなかったため積極的に婚活をしたりもせず、とはいえこのまま一人でずっと生活していていいものか……。さらに精神的な不調にも苦しめられていた2018年、織さんは当時ネット上で大きな話題を呼んでいた映画「名探偵コナン ゼロの執行人」を鑑賞します。



 そこで降谷零さんと出会った織さんは、一気にこのキャラクターに夢中になります。しかしそののめり込み方は、いつもの夢女子としての自分とは違っていました。

「降谷零さんに対する感覚が、三次元の相手に恋愛感情を抱いたときと同じだと気付いたんですよね。例えば日常の中で買い物をしているときに『こういうとき零さんだったら何を欲しがるかな』とか、休んでいるときに『こういうときだったらどう声をかけてくれるのかな』とか考えるようになったんです」(織さん)

 それまでの織さんは、基本的にはキャラとの恋愛を少女漫画のようなオチのついた物語として楽しむだけで、日常生活にまで影響を及ぼすようなことはなかったといいます。しかし、零さんに対しては違いました。日常生活の中でも彼のことを考えるようになり、さらに普段だったら好んで読んでいた、零さんを題材にした夢小説に対しても違和感を抱くようになったそうです。

「妄想が日常生活と地続きになったころに、夢小説が読めなくなったんです。普通、夢小説の主人公は自分だと思って読むんですが、その“自分”は他の方が書いた小説のキャラクターなので、本当の自分とは性格が違うんです。そこが引っ掛かってしまって、他の方が書いたものを楽しく読めなくなったんです」(織さん)

 三次元の生身の男性も二次元のキャラクターも含めて、ここまで好きになった人は織さんにとって初めてでした。これ以上好きになる人は現れないんじゃないか……。そう考えた織さんは、零さんとの結婚に踏み切ります。


ソロウェディングを経て、内面が変化した結婚生活へ

 織さんは、結婚するにあたってまず婚姻届を用意。さらにペアリングを作った上でソロウエディングの写真撮影を行いました。婚姻届は実際に役所に提出することはできませんが、気持ちの区切りをつけるために用意したといいます。さらに、ソロウエディングではドレスと打掛を着て、スタジオやカメラマンの協力のもと撮影を行いました。

「スタジオにソロプランがあるので、プランナーさんに相談して、ドレスを着て写真を撮りました。ポーズや小物の要望を伝えて、最終的には写真をアルバムにしてもらっています。夫のことはちゃんと伝えたんですが、意外とこういうことをする人も多いようで、変な反応とかはありませんでしたね」(織さん)


恋愛・結婚のかたち フィクトセクシュアル 実際に撮影した写真

 こうしてスタートした織さんの結婚生活。1年ほどが経過した現在、表面上はそれまでの生活と変わらないのですが、内面に関しては確実に変化があったそうです。

「日常生活の中で零さんとのやりとりを考えたりとか、仕事で根を詰めすぎるとちょっと注意されたような気がしたりとか……。主観的な自分とは別に、零さんの目線で客観的にものを見るようになりました。零さんの目線がインストールされた感じですね」(織さん)

 実際、「零さん目線」が内面化されたことで、今までだったらとらないような行動をとることも増えました。最近は何かを始めるときにダラダラしなくなったほか、孤独感を感じなくなり精神的にも安定したと話します。しかし、周囲の人々からの理解は得られたのでしょうか。

「自分の場合、友達もけっこう個性的な人が多いので、良い意味でどうとも思わなかったとか、理解できないけどそういう世界もあるんだね、みたいな感じのリアクションでしたね」(織さん)

 さらに先日、織さんは実の母親にも自分がフィクトセクシュアルであることを打ち明けました。母親はフィクトセクシュアルの感覚自体はよく分からないものの否定もせず、ソロウエディングについては純粋に喜んでくれたとのこと。周囲がうまく放っておいてくれる環境だったことも、織さんにとっては幸運だったといえます。

 また、オタクとして零さんのグッズを購入するといった活動も続行。「自分の夫のグッズを買う」というのはどういう心境なのか尋ねると、「アイドルとオタクが結婚したら、人間としての相手も好きだし、アイドルとしての活動も好きだというのは両立しますよね。そんな感じです!」と回答。また、今のところ他のキャラクターに浮気することもなく、原作が終了する可能性など、この先何があるか分からない部分もあるものの、織さんは充実した生活を送っています。


恋愛の悩みの多くは“自己肯定感の低さ”から?

 フィクトセクシュアルの当事者としての経験を生かし、織さんは現在、同じような立場にいる人に向けた「占い」も行っています(現在は体調不良のため休業中)。占いと銘打ってはいるものの、実際には二次元のキャラクターの思いを代弁し、それによって依頼者の悩みを解決する活動です(織さんのサイト)。織さんはこれまでに100件以上の相談に答えてきたといいます。

「例えば、疲れているときに彼からの褒め言葉を聞きたいとか、彼の気持ちを代弁したりとか、そういうメニューに沿って回答をしています。あと、彼と一緒にあなたの悩みを考えて、解決のアドバイスをするというものや、彼と一緒にあなたの自己分析を手伝いますというコースもあります」(織さん)



 まるでカウンセリングのような、織さんの「占い」。そのキーになるのは、自己肯定感だと織さんは語ります。

「自己評価が低いと、プラスの言葉を自分にかけられず疑ってしまうことになるんです。自己肯定感が低いと相手からの愛情をちゃんとキャッチできなくなるというのは、フィクトセクシュアルでも実在の人間を相手にした恋愛でも同じなんです」(織さん)

 結局、自分の内面と同じところにいる「彼」からの好意を受け取ったり慰められたりするには、自己評価がある程度以上高いことが必要になると織さん。自分を肯定できないことで、付き合っている相手とのコミュニケーションに支障を来すことは、セクシュアリティにかかわらずしばしば聞かれる一般的な恋愛の悩みの一つです。フィクトセクシュアルでも一般的な恋愛でも、その根本の悩みや解決策は共通しているのかもしれません。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2408/31/news036.jpg 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほどの変貌が379万表示「そこだけボッ!ってw」 半年後の現在について聞いた
  2. /nl/articles/2408/30/news121.jpg 「地獄絵図」「えぐすぎやろ……」 静岡・焼津市の地下歩道が冠水 “信じられない光景”にネットあぜん
  3. /nl/articles/2408/31/news073.jpg 「よくこんなものが……」 米不足でメルカリに米出品→疑問の声も 運営は“禁止出品物”に「然るべき対応」
  4. /nl/articles/2408/31/news025.jpg 次男に塩対応の柴犬、いよいよ次男の帰省最終日を迎え…… 本音が出た瞬間に「不意に泣かせるのやめて欲しい」と感動の声
  5. /nl/articles/2408/30/news017.jpg 最上位グレードのハイエースを“50万円の底値”で購入したら…… 驚きの実物に「ある意味最強」「正直、羨ましい」
  6. /nl/articles/2408/30/news188.jpg 実写「着せ恋」、キャストに物議 海夢の再現度が高すぎるタレントを推す声あがる 「逆になんであかせあかりさん以外の人……」
  7. /nl/articles/2408/29/news193.jpg 「なんで欲しいと思ったんですか?」 酔った勢いで購入 → 後日届いた“まさかの商品”に反響 「理性あったら買わないw」
  8. /nl/articles/2408/28/news142.jpg 明石家さんま、69歳バースデー迎え長男から幸せ呼ぶ“輝かしいプレゼント” 同席した元妻・大竹しのぶは「最高の笑顔でした」
  9. /nl/articles/2408/31/news084.jpg 仕事早いな! 大谷翔平の愛犬“デコピン”、大反響の始球式がさっそくTシャツ化 「こ、これは……」「欲しい!」と爆売れの予感
  10. /nl/articles/2408/30/news113.jpg 「これ600円なの?」 大谷翔平が長く愛用しているデコピンの“おやつ入れ”、始球式で注目「おそろだった」「真美子さんが選んだのかな」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  2. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  3. 「苦手な芸能人は誰?」 あのちゃん、女性芸能人を“実名で即答” 「ここ最近で一番笑った」「強すぎる」
  4. ホテルでチェックアウト、忘れ物で多いのは? ホテル従業員が教える「圧倒的に多い忘れ物」
  5. 乳がん闘病中の梅宮アンナ、抗がん剤治療で「髪の毛ほとんどなくなっています」 帽子かぶり「ああ、来たか」
  6. 「キティちゃんのお面だと思ったら……」 ひっくり返すと“まさかの正体”に11万いいね
  7. 「凄すぎる…」「ガチで滝」 “市ケ谷駅の冠水”が衝撃与える 階段に大量の水が流れる様子も…… 東京メトロに経緯を取材
  8. 「早すぎます」「一体なにが」 52歳ボディービルダー、訃報1週間前に最期の投稿で“人生初の試み” 恋人は「亡くなる数時間前まで普通にお出かけも」
  9. お盆で帰省した次男に、柴犬も猫もまさかの反応→どちらも豹変して爆笑 「涙出てきました」「おもろ可愛過ぎ(笑)」
  10. 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ったら……飼い主も驚きの姿に「もはや魚じゃない」「もう家族やね」 半年後の現在について飼い主に聞いた
  2. 「もうこんな状態」 パリ五輪スケボーのメダリストが「現在のメダル」公開→たった1週間での“劣化”に衝撃
  3. 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  4. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  5. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  6. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  7. 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  8. 鯉の池で大量発生した水草を除去していたら…… 出くわした“神々しい生物”の姿に「関東圏では高額」「なんて大変な…」
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」