花王「アタック」Twitterの中の人も認めた“ガチすぎる”洗濯漫画 『鬼桐さんの洗濯』はいかにして生まれたのか?(2/3 ページ)
クリーニング師の資格取得者による“魔法でごまかさないファンタジーSF洗濯漫画”
ふかさく先生、あらためて洗濯をテーマにした漫画を描こうと思ったきっかけを教えていただけますか?
前作の『今日のノルマさん』が学園ものだったので、次はお仕事ものを描きたいなと思っていました。身近だけど意外に何をやっているのか知らない職業ってなんだろうと考えたら、自然とクリーニング屋さんにたどり着いた感じです。
昔から洗濯が好きだったというわけではないんですね。
むしろ、私は服とかすぐ汚してしまうほうで(笑)。だけど、その「洗濯」ともともと好きだったファンタジーやSF要素を組み合わせてみると面白くなる気がしたんです。服についた血のシミが落ちなくて困っているバンパイアがいたら……みたいに。
洗濯とSF・ファンタジーを組み合わせるうえで、意識していることはありますか?
「基本はファンタジー漫画だけど何気にちょっと本格的」くらいのバランスになるよう気を付けています。あまり説明しすぎると堅苦しくなるし、かといって現実離れしたことを描くと洗濯に詳しい方が読んだとき「これは違う」と思われてしまうので。
読んでいると、僕は「魔法でごまかさない」という信念みたいなものを感じます。出てくるキャラクターは妖怪だったり神様だったりするけど、テーマは汗汚れだったりワインのシミだったり、僕たちがリアルに困るようなものが多くて。
洗濯って身近なものですけど、調べれば調べるほど本当に奥が深い世界だなと気付いたんです。これは適当なものは描けないぞ、と良い意味でプレッシャーになっていますね。
ふかさく先生は今年2020年、クリーニング師の免許を取得されています。これはどういったきっかけだったんでしょうか。
自分にどれだけ洗濯の知識があるのか確かめるために、まず2019年に「洗濯ソムリエ」という民間資格を取りました。クリーニング店に1人はいないといけない「クリーニング師」の国家資格のことも知っていましたけど、そこまではさすがに無理だろうなとしばらく思っていて。でも描き続けているうちにやっぱり挑んでみたくなって、受験しました。合格できてうれしかったですね。
漫画に取材はつきものとはいえ、ここまでされる方は珍しいと思います。グルメ漫画を描いている作家さんが調理師免許を取るようなものというか……。
そこは、作品に説得力を持たせる目的もあったと思います。中の人もおっしゃっていたように、洗濯をテーマにした漫画自体が少ないですし、クリーニング師の免許を持っている人間が描いてますと言ったほうが箔がつくんじゃないかと。それから、やっぱり自信にはつながりましたね。「私みたいな一般人が洗濯の漫画を描いていいのかな」と不安になるときもあったんですけど、少なくとも知識だけは免許を取れるレベルに到達していることがわかったので。
現実の時間に合わせたストーリーと情報発信
毎月の連載のテーマはどのように考えているんでしょうか?
その月によっていろいろですね。登場させる種族を決めてそこから話を膨らませていくこともありますし、「梅雨だからカビの話を描こう」のように実際の季節にリンクさせることもあります。
5月発売の「まんがライフオリジナル」でも、春から一人暮らしを始めたささめちゃんが鬼桐さんに洗濯機の使い方を教わっていてタイムリーだなと感じました。
あれは新生活応援フェアというか(笑)、意外と家庭用洗濯機のことって描いてなかったなと思いまして。雑誌から切り取ってマニュアルとして保管してもらえたらという気持ちで描きました。
そういうことが漫画を読みながら楽しく学べるのは良いですよね。
そういえば、2年前に大型台風が襲来したときも、ふかさく先生は少ない水で洗濯する方法を4コマにしてTwitterに投稿されていましたね。
はい、はい。ありましたね。
当時、私の周りにも電気や水道が止まってしまって困っている方がたくさんいたんです。その中で自分にできることは何だろうって考えたら、やっぱり漫画を描くことなのかなと。
僕たちは、自分のところから出ていないものに対する言及や、商品用途外の使い方などはなかなか情報発信しにくいところがあります。でも、あのツイートこそあのとき本当に人々が求めている情報なんだろうなと痛感させられましたね。
初登場時のささめちゃんは16歳でしたが、3巻だと高校を卒業して就職していましたね。作中の時間はリアルタイムで進行しているんでしょうか?
はい、中学1年生だった魔王君もいつの間にか高校生に。早いなぁ……。前作「ノルマさん」では作中の時間がゆっくり進んでいて、冬の話を描けないまま終わってしまったのが心残りだったんですよね。現実の時間に合わせれば「春は花粉対策」「冬はマフラーの洗い方」みたいに季節ごとの話が描けます。出てくる種族たちは人間より長生きだから、リアルタイムに年を取らせても大丈夫かなと。
おふたりのお気に入りのキャラクターは誰ですか?
もちろん主人公の茶子と鬼桐さんは好きですけど、ゲストキャラクターだと2巻の煙々羅さんかなぁ。
シブいところ突きますねえ……。
もともと1話限りの登場予定が、個人的に気に入ってしまって準レギュラーになったキャラクターも多いです。狐のアサとキヌはもはやこの作品のマスコット的存在ですし、バンパイアのぱせりさんも頻繁にお店に遊びに来るようになりました。
僕は雪女の親子が好きです。暑さで溶けてしまってボトルに入っていたお母さんが、出てくるときにろ過されて性格まで変わっちゃうというオチが面白くて。
ありがとうございます! 雪女のささめちゃんも定期的に出てくるキャラクターになりましたね。
「僕もふかさく先生も目指しているゴールは同じ」
7月17日には単行本3巻が発売されますが、2巻のアタックZEROプレゼントのようなキャンペーンは今回も開催されるのでしょうか?
実は、竹書房さんとはすでに水面下で打ち合わせさせていただいています。今回はただ洗剤をプレゼントして終わりではなく、もっと長期的に皆さんに楽しんでもらえるような企画にできないかと考えている最中で。
3巻のキャンペーンは、弊社営業部を中心に進めてもらっています。僕もメールのCCに入っているので、どんな話をしているのかは把握していますが。
私だけ知らない……!?
先生には今、原稿に集中していただきたいので(笑)。単行本が発売されたら時間的に余裕ができるでしょうし、そこからいろいろ動き出していけると思います。
この機会に、こんな企画がやりたいというアイデアがあれば教えていただけますか?
『ドラゴンボール』『進撃の巨人』みたいに、『鬼桐さんの洗濯』と花王さんのコラボ商品が出たらいいな……と夢見てます。他の作品ほどの知名度がないので実際には難しいと思いますが……。
僕も個人的な願望ですが、Twitterで送られてくる洗濯に関するお悩みをふかさく先生に漫画化してもらえたら面白そうだなと思っています。文章だけで回答するよりも、漫画にしたほうが伝わりやすいですし。
それらの企画が実現したら、読者としてもうれしいです!
Twitterと漫画の違いはあっても「洗濯の面白さを伝えたい」という点では僕もふかさく先生も目指しているゴールは同じだと思っています。社交辞令ではなく、いろいろな企画を一緒にやっていけたらと考えているので、これからもよろしくお願いします。
こちらこそ。今日はありがとうございました!
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