夏だ、海だ、北野映画だ! ビートたけしが描く「美しい夏」「恐ろしい夏」「いとおしい夏」(1/2 ページ)

海、山、川、北野映画。

» 2020年07月17日 19時00分 公開
[城戸ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 オラア! 夏本番です。アツい季節にキラキラしたときめきを感じている方も多いはず。が、しかし、世間はいまだコロナ禍。フェスは中止、夏祭りは中止、そして花火大会は中止と、とてもじゃないけど物足りない、従来の常識とはまったく違う夏がやってきてしまいました。

 さて、そんな状況でも楽しめる夏の風物詩を考えてみましょう。海、山、川……夏らしいとされるものは数多くありますが、大事なものを忘れてはいませんか? そう、たけしです。夏といえばビートたけしなんです。



 日本はもちろん世界中にファンを抱える、映画監督としての北野武。僕は彼の作品が大好きで、画面からほとばしる才気とセンスに創作意欲を叩きつぶされそうになる思いを何度も味わってきました。それでも、夏になるとたけしの映画を観ずにはいられないのですね。なぜなら“キタノブルー”と呼ばれる青みがかった映像が、どうしようもなく夏を連想させるから。時代・時世に関係なく私たちに寄り添ってくれる彼の“夏の映画”を改めて紹介させていただきたいと思います。

「菊次郎の夏」



 祖母と2人で暮らす小学生のマサオは夏休み初日、生き別れた母親に会うため家を飛び出した。それを心配した近所のおばちゃんは、行くと言って聞かないマサオに、自身の夫を付き添わせる。こうして、マサオとおじちゃんのひと夏の旅が始まったのだが……。

 たけしのフィルモグラフィの中で唯一、少年が主人公に据えられた作品。たけし軍団の芸人も多く出演しており、全編コメディに徹した内容ながらも、マサオとおじちゃんとの心あたたまるドラマからも目の離せない、とにかくいとおしい映画です。

 終業式を終えた帰り道、ガラの悪い中学生を避けて家に走る。ちゃぶ台に用意された食事を食べ終えたら、サッカーボールを持って習い事に行く。友達の家の玄関先から「〇〇くんあそぼ」と声をかける。平日に宅配便がやってきて、ハンコの場所が分からず探し回る。おやつに出されたスイカの横に塩が添えてある。――そんな夏休みの原風景がオープニングから次々飛び出し、ノスタルジーだけで泣きそうになってしまいます。

 たけし演じる粗暴なおじちゃんを引率に、行き当たりばったりの旅へと出ていくマサオ。おじちゃんは完全なクソ野郎で、道中で何度も悪事を重ねるんですけど、そこはたけしですから、ギリギリ憎めない絶妙な塩梅(あんばい)で笑わせてくれるのです。本当に結構ギリギリですけどね。夏の遊びも、大人の遊びもたくさん知っていて、口も達者なおじちゃんは、無職なれど子供の目にはヒーローに写ってしまう。おじちゃんの方も、自分を“大人”扱いしてくれるマサオにある種のいやしを感じ、徐々に父性のようなものが芽生えていくという。映像美のみならず2人の関係性からも目が離せません。

 加えてロードムービーとして特筆すべきは、丁寧に描写される「別れ」の描写。旅先で2人はさまざまな人物と出会いますが、その誰もが「じゃあね」と手を振って笑顔でカメラからフェードアウトしていくのです。見ているこちらも名残惜しくて仕方ないんですよ。一期一会の儚さこそがひと夏の旅の醍醐味(だいごみ)なのだと教えられたような気がしました。たけしから登場人物たちへの誠実さを感じる部分でもあります。

 中盤には悲しい展開が待ち受けているのですが、そんなこと知るかと言わんばかりに夏を遊びつくす終盤は、そのあまりの美しさに泣けて泣けて。美しすぎて泣く、という体験をしたのは後にも先にも本作だけです。

 夏も、人間も、たけしも大好きになってしまうこと間違いなしの、ロードムービーの最高傑作! それくらいの勢いでオススメしたい映画です。



       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/20/news011.jpg 和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた
  2. /nl/articles/2502/20/news027.jpg 愛犬とのお散歩中、腹痛で急いで帰宅した飼い主→放置したワンコをみると…… けなげ過ぎる“まさかの待ち姿”にキュンとする
  3. /nl/articles/2502/20/news092.jpg かぎ針編みしたコースターに、飲み物を乗せた瞬間……! アッと声がでる光景へ「かわいいぃぃ」「作り方教えて!」【海外】
  4. /nl/articles/2502/19/news183.jpg 「つばくろうがいなくなったら……」 つば九郎を支えたスタッフ逝去 “1年前”のブログ投稿に「泣けてきた」
  5. /nl/articles/2502/18/news053.jpg “きれいな少年”が大人になったら→「なんでそうなったw」姿に驚がく 「イケメンの無駄遣い」「どっちも好きです!笑」
  6. /nl/articles/2502/17/news061.jpg ママが反抗期の娘に作った“おふざけ弁当”がギミックてんこ盛りの怪作で爆笑 娘「教室全員が見に来た」
  7. /nl/articles/2502/19/news004.jpg 古いタオルを切り出すと……? “全く別の日用品”に生まれ変わる技に「素晴らしいアイデア」「最高!」と340万再生
  8. /nl/articles/2502/20/news074.jpg 大阪・梅田のど真ん中で派手にスカート裂けた → 笑うしかない大失態に「ちょ待てよ」「こうなった時の気持ち考えて」
  9. /nl/articles/2502/20/news091.jpg すっぴんボサボサのママがメイクをしたら…… 目を疑う“衝撃の変身”が250万再生「飲み物吹いたw」「同一人物と思えない」【海外】
  10. /nl/articles/2502/20/news031.jpg ホームセンターで買った“最強の掃除屋”を水槽に入れたら…… 驚きの変化に「便利」「試してみます」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  2. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  3. 「14歳でレコ大受賞」 人気アイドルがセクシー女優に転身した理由明かす 家族、メンバー、ファンの“意外な反応”
  4. 雑草ボーボーの荒れ地に“牛3頭”を放牧→2週間後…… まさかの光景に「感動しました」「いい仕事してますねぇ~!!」
  5. “この子はきっと中型犬サイズ”と思っていたら……たった半年後とんでもない姿に 「笑わせてもらいました」
  6. 年の差21歳で「夫は娘の同級生」 “両親大激怒”で結婚は猛反発されるも……“まさかの行動”で説得
  7. 163センチ、63キロの女性が「武器はメイクしかない」と本気でメイクしたら…… 驚きの仕上がりに「やっば、、」「綺麗って声でた」
  8. サイゼリヤ、メニュー改定で“大人気商品”消える 「ショック」悲しみの声……“代わりの商品”は評価割れる
  9. ママが反抗期の娘に作った“おふざけ弁当”がギミックてんこ盛りの怪作で爆笑 娘「教室全員が見に来た」
  10. 「さすがに無神経な内容」 “暴言受けた”伊藤友里が降板発表→岡田紗佳の直後の投稿に批判の声 Mリーガーも反応
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議